宇宙戦艦の謝罪会見
疲れ知らずの意識だけの状態で夜昼の区別もなくマンガを読み……もとい、崇高な使命を達成するための情報精査を続けていると。
<(((((マスター!)))))>
と、突然、カスミの声が響いた。
驚きのあまりビクッと意識を震わせると次の瞬間に強引に後ろに引っ張られるような感覚に襲われた。抗う事もかなわずに引きずられ、目の前の光景がジェットコースターに乗っているかのように後ろに流れて行く。
間を置かずに目の前に元居た部屋の天井が見えた。
「な、何事だ!」
慌てて上半身を起こし、目を向けるとそこには。
「お目覚めですか。マスター」
と、可憐な般若から苛烈な阿修羅へクラスチェンジした仁王立ちのカスミの姿が。
「あ、ああ。どうした何か緊急事態が起こったのか?」
なんとか内心の動揺を隠しつつ、努めて冷静に答えるが、
心臓のドキドキが止まりません。
もしかしてこれって…………恋?
などど、変なところで忠実に人間の身体を再現した誰かを呪いつつ、混乱した思考を巡らしていると。
「マスターが情報の精査を開始してから12日と5時間21分18秒経過しました」
そう、氷のように冷たい視線で告げるカスミ。
「あれー? そんなに時間がかかってないと思ってたけどなー。そっかー」
すっとぼける俺。
「情報の精査の結果について報告をお願いします」
冷徹に要求するカスミに対して、
「いやー、まだ全部見きれてなくてもう少し時間が掛かるか…………な?」
僅かばかりの抵抗を試みる。
「では、これはいったいどういう意味があるのでしょうか?」
と、突然スクリーンが空中に表示されたかと思うと、
今まで俺が参照したすべての情報のログが表示された。
…………
「すんませんでした!!」
俺は即座に椅子から飛び降りて流れるように土下座を決めた。
「一体何に対して謝罪をしているのでしょうか?
マスターが参照したこれらの情報で今回の目的に関して無関係な情報が多く含まれているのは何故でしょうか?
論理的な回答を要求します」
「え”?」
「論理的かつ明快な回答を要求します」
と、カスミの追及は止まらない。
「え、えーと、つまり……
ちょっとした心の休息が欲しかった、みたいな……
箸休め的な感じというか……」
「それが今回の目的に関してどのような関係があるのでしょうか?
お答えください」
「サボってました!すいませんでした!!」
「謝罪は必要ありません。
サボるとはどういう意味でしょうか?
今回の目的に関してどのような関係があるのでしょうか?
お答えください」
「へ?」
ここでようやく俺は理解する。
カスミのようなAIには目的を放置して休息するとか娯楽を楽しむという概念がないのだ。
だから、俺の行動に目的を達成する以外の意味が理解できないのだろう。
そうして、カスミに対して人間の概念としての息抜きという意味からそれに至る自分の行動について微に入り細をうがった説明を延々とするハメになってしまったのだった。
昔、かのマイルス・デイヴィスがイケないおクスリにどっぷりハマってラリった挙句にバンド演奏に穴をあけたジョン・コルトレーンにビンタを張り、間髪入れずにどてっ腹にハードパンチをお見舞いしたという微笑ましいエピソードの如く、いっその事「オラァ!!」とか声を張り上げて鉄拳制裁でもしてくれればまだマシなのだが、タチの悪いインテリヤクザのようにローから追い込みをかけるキレっぷりのこの阿修羅をどう宥めれば良いのでしょうか……
――二時間後
「状況は理解しました。
つまり目的を放置して別の意味のない作業を行っていたという事ですか?」
「はい……その通りです……」
床に正座したまま力なくそう答える。
自分の中ではセーフと思っていたのですが……
「マスター、もしよろしければ再度、ウイルススキャンまたはデフラグを……」
という、カスミの拷問宣告を遮って、
「これからは目的の達成のため粉骨砕身、務めさせて頂きます!!」
俺は即座にそう答えた。
そして、愚かな俺は女王様に対して無条件降伏宣言を受諾させられるのであった。
ここで性的興奮を覚えるようであればマゾということになるのだろうが、全くそんな感じが無い限りは自分はノーマルなのだという事が判明したという結果を持ってここは一旦よしとしよう。




