9 ゴスロリは可変大剣と共に
怒り心頭なニャミィさん、それ故に銃弾の雨は止まるところを知らない。
彼女の手にした武器は拳銃だ。だがこの連射速度は余りにも異常だ、マガジンを替えた素振りもない。
機関銃並みといってもいいだろう。こういうゲームだ、見た目と性能は別と言うことか。
ナルの身体は小さいので、剣の後ろにいる限りは安全だった。しかしこのままでは埒があかないと思ったのだろう。
ナルは臆する事なくニャミィさんに突撃した。間合いに入ると、再び手首を返して攻撃する。
最小の動作から繰り出される最大威力の斬撃。
防御は不可能と判断したのか、ニャミィさんは空中へと回避した。ナルの頭上を飛び越えつつも、身体を捻って逆さまになりながら発砲する。
ナルが怯んだ隙にニャミィさんは再び間合いを離した。
頭と肩に銃撃を受けたナルだが、その手には既に【ヒール】のカードが握られていた。
傷を回復させつつ、ニャミィさんに肉薄する。
どうなってんだよ一体。
目まぐるしく変化する戦況に俺の思考は追いつかない。なんとなく察するだけで精一杯だ。
「しつっこいわねぇ。【ダブル】!」
ニャミィさんは引いたカードを自分の前方、ナルとの射線上に放り投げる。どうやら二丁拳銃以外の使い方があるようだ。
対するナルは追撃しながら再び剣を盾にする。
ニャミィさんの目がギラリと見開く。猫なんかじゃない、あれは獲物を仕留める虎の眼光だ。
ニャミィさんの銃撃。しかし狙いはナルでは無い、【ダブル】のカードだ。
打ち出された銃弾はカードを通して二つに分裂する。二本の弾道は弧を描きながら、ナルの両脚を正確に撃ち抜いた。
勢いがついていたので、ナルは前のめりに転倒した。すぐに身体を起こすが、大剣の届く距離ではない。
ニャミィさんは後方へと跳ねた。警戒してるのか、更に間合いを離す。
胸の端末からカードを引くと、慎重に狙いをつけた。おそらく次で仕留めるつもりだ。
ならばあのカードは恐らく……
「【バスター】」
カードが銃口の中に吸い込まれていく。
もうだめだという絶望感。しかしそれ以上に、この悪夢から解放されるという安堵が僅かに上回った。またどデカい一発を貰うのは恐いが、そこは仕方がない。
『主、御安心下さい』
え? ちょ。
『【コスモ・メビウス】ーー射撃形態』
両手で抱えた大剣が変形を開始する。中央の溝から剣身が二つに割れると、内臓されていた銃身が姿を現わした。
柄の部分をくの字に曲げて、割れた溝の間に押し込む。即席グリップの完成だ。
その間にも、ニャミィさんの銃口が輝きを増している。確実に倒すためにパワーを溜めているようだ。
ナルは次に鍔の部分、取り分け大きい赤い箇所を開いた。中には自販機や改札にある、カードの投入口があった。
『【ファイアボール】、セット』
カードを入れて赤い蓋を閉じる。その瞬間、武器全体が激しく震え出した。中央の玉も真っ赤に変色し、燃える様に輝いている。
「バスターカード、チャージショット!」
ニャミィさんの渾身の一撃。通常の銃撃とは明らかに違う、彗星の様な眩い光弾。
喰らえば神殿からも飛ばされて、果てのない青空にダイブする事になるだろう。
『フレイムブラスター、シュート』
ナルも負けじと砲撃を放つ。
大剣の間からは、まるでマグマを思わせる赤いエネルギーが噴き出した。
落下する彗星対噴火するマグマ。まるで世界の終わりみたいだが、決して大袈裟なんかじゃない。
逃げ出したのか、ゲームを辞めたのか。ギャラリーの数も殆ど残っていない。いつしか勝負はそれ程までに危険な状態に突入していた。
二つの巨大なエネルギーの衝突。想像を絶する爆発が起こり、ニャミィさんもナルもお互いタダでは済まないだろう。
しかし現実(ゲーム内だが)はそうは行かなかった。
大剣のマグマは瞬く間に彗星を飲み込むと、勢いを落とす事なくニャミィさんには直撃した。
着弾した地点を中心に炎の嵐が巻き起こり、逃げ遅れた兵士を取り込みながら周りを焼き尽くしていった。
神殿の中は一瞬で火の海と化した。
ある者は逃げ惑いながら火に焼かれ。またある者は恐れから神殿から空へと飛び降りた。
『対象の殲滅を確認、アバター操作を主に移行します』
カシャカシャ音を立てながら、コスモ・メビウスは元の剣の姿に戻る。
俺はしばらくの間、呆然と燃え盛る神殿を眺めていた。砕かれた大理石の柱は割れた床へと倒壊する。
ふと、無意識に拳を握りしめている事に気がついた。身体の自由が戻ったのだ。
もう何もする気が起きない、何も考えたくない。
俺は結局ニャミィさんの教えを無視する事にした。そんな彼女も火の海に消えてしまった。
腕の端末を掴み無理やり引き抜くと、目の前はすぐに暗くなった。




