6 初めての金髪猫耳褐色ギャル
「ありがとうございました!」
「……ありがとうございました」
勝負が終わり、開始位置に戻っての一礼。まったく、スポーツの試合かよ。
結果は見事な惨敗。手も足も出なかった。俺のチューニデビューは、残念ながら黒星で始まることとなった。
「しゃーない。切り替えていこう!」
対戦ゲームなんだ。何もいきなり勝てるとは思っちゃいない。
こういうのは場数だと相場が決まっている。俺は再び神殿の中央に向かった。
その後も何度かマッチングした相手と対戦したが、結果は最初と変わらず散々なモノだった。
ある時は水の魔法で炎を消され、またある時は斧で剣を折られた。それでも収穫と呼べるものが一応はあった。
十字架のアイコンが回復魔法なのと、使ったカードは一定時間、再使用出来ない事は理解出来た。
「だからって、勝てなきゃ意味ないだろ」
俺は今神殿の隅でしゃがみこんで居る。
マッチングポイントでとばされたのではない。自主的にここへ来たのだ。
ただでさえ目立つ格好してるのに、立て続けに無様な負け方をしたのだ。俺の精神はボロボロだった。
視界の端に、最初に戦った近衛兵が映った。四人程のグループで楽しく談笑している。戦いの中で自信をつけて、早速友人を作って居るようだ。
それに比べて俺ときたら。
俺はあまりの惨めさに顔を背けた。神殿から眺める空は何て青いんだろう。
テキトーに端末をポチってみる。もしかしたらゲームを辞めれるかもしれない。
「ねぇキミ」
後ろから声をかけられた。それが女性のものだったので、俺は反射的に振り返る。しかし声はすれども顔は見えない。
代わりに俺の眼前には黒々とした双玉がぶら下がっている。
一体何かって? オッパイだよ!
繊維が悲鳴をあげる程引き伸ばされた黒タンクトップ。その中にはこれまた窮屈そうに、褐色の柔肌が谷間を作っていた。
半ば不可抗力で視線が注がれる中、ポンと頭に手を置かれる。
ハッとして顔を上げると、そこでやっと声の主と対面出来た。
肩まで伸びた輝く金髪に、プックリとした唇。そして何より目立つのは頭から生えた黒い猫耳だった。
金髪猫耳の褐色ギャル。間違いない、さっきすれ違うときに手を振ってくれた人だ。
「なんか困りごとかしら?」
「え、ええっと、その」
目のやり場に困って、自然と視線が泳いでしまう。
「負け続けて落ち込んでる、とか?」
「うっ」
図星を突かれ言葉に詰まる。今にも泣き出しそうな顔を見て、お姉さんは慌てて訂正した。
「あっ、別に追い打ちかけにきたわけじゃないのよ。隣良いかしら?」
俺が黙ってうなづくと、お姉さんは隣に腰かけた。二人で神殿から青空を眺める。
先に口を開いたのは俺の方だった。
自分が今日から始めた事、ゲーム自体初心者な事、全然勝てなくて悔しい事、そして一番大事な中断の仕方。
あるがちな初心者の愚痴を、お姉さんは静かに聴いてくれた。普段から新人救済をしているプレイヤーなのだろう。
「大体のゲームの操作は端末で出来るんですね」
「まぁそんなところね。今日はもうおやすみかしら?」
「そうですね。もう夜も遅いですし」
端末の時計では既に夜の9時を回っていた。明日も学校があるので普段なら寝る支度をしてる頃だ。
最も神殿内の人の数は少しも減ってはいない。むしろ増えていた。
「ねぇ、もし良かったら。最後にアタシとカラダ動かさない?」
お姉さんが顔を近づけながら聞いてくる。髪をかきあげると、耳のピアスがキラリと光った。
「えっええっと……」
これはアレだ。勝負とか戦闘とかいう言葉を気を遣って避けてくれてるんだ。
他意は無いんだ、冷静になれ俺。
「直接の方が、アタシも色々教え易いし。ね?」
「はっハハハハハッ、ハヒッ! よろしくお願いにしましゅ」
ダメだった。今の俺は完全に挙動不審なエロガキだった。ゴスロリ少女の姿だったのが不幸中の幸いだろう。
「ありがとう。私の名前はニャミィよ、改めてよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。木戸隆二です」
「リュージ?」
ニャミィさんがキョトンとした顔をする。
やっ、ヤッベエエエエエエエエエエ!
男とバレるどころか、普通に本名言っちゃったよ。こういうのはオンラインではタブーなんだろ。学校とか住所とか家族構成まで晒されてしまう。
「ごきげんよう。私、ナルと申しますデスワ」
咄嗟にキャラを作り、スカートの端を摘んで頭を下げた。
でも棒立ちで脚が開いたままだから、ニャミィさんからは凄くマヌケに見えてると思う。
「アハハハハハ。いーよいーよ、気にしなくても」
ニャミィさんは大笑いした。お腹を抑えて身体をくの字に曲げている。笑いのツボに入ったようだ。
俺は恥ずかし過ぎて頭を上げることが出来ない。いっそ殺して欲しいくらいだ。
「最初見かけた時から男の子なの分かってたし」
えっとそれはどういう意味だろうか。まさかゴスロリを通り越して、ヤラシさが滲み出ていたのか。
こちらの気持ちを知ってか知らずか、ニャミィさんは俺の手を取って立ち上がった。
「アタシもこう見えて38のオッサンだし」
「ゲエェ! マジッすか?」
「モチロン冗談よ」
そう言って小悪魔的なウインクをするニャミィさん。俺はホッと胸を撫で下ろした。
見た目が派手で近寄り難い感じだけど、話してみたら全然そんな事無かった。優しくて楽しくて色々俺の事を気遣ってくれる理想のお姉さんだ。
「……ウソとは言って無いけどね」
「何か言いました?」
「何も〜。さぁ、これから混む時間だから急ぎましょ」
先を歩くニャミィさんを見失わないように、俺も早足でついて行く。一抹に不安を感じつつも、俺はプリプリ揺れる尻尾とお尻から目を離せずにいた。




