5 初めての戦い
ゲートをくぐると、目線の上にいきなり文字が表示された。太い額縁の中には(初心者広場)と書かれている。
新しいエリアの名前だろう。しばらくすると文字は消えてしまった。
ゲームとは思えない体験の連続だったので、こういうベタな演出があるとホッとする。
この初心者広場もロビーに負けず劣らず拓けた場所だった。一言で言えば神殿の中だ。ギリシャだかローマだかの神話に出てくるような感じ。
いくつか伸びた白い大理石の柱が、屋根を支えているだけの簡素な造りだ。
壁なんかも無いので外の景色がよく見える。と言っても青い空と白い雲しかない。端に立って下を見てもそれは変わらなかった。天国に居るみたいで雰囲気としては悪くはない。
しかし神殿内にいる奴らの姿が、そんな雰囲気をぶち壊してしまっていた。
どこもかしこも兵士、兵士、兵士、兵士!
さっきの練習モブ兵士と同じか、少し毛の生えた程度の色違いが大量に居た。そいつらが各々、積極的に戦っている。近々戦争でもあるのか、異様な熱気に包まれていた。
「どうすっかな……ん?」
どうやら戦っていない兵士達は神殿の中央に集まっているようだ。行くあても無いので俺もそこを目指すことにした。
多分この兵士の姿が本来のプレイヤーの初期設定なのだ。レベルは無いと書いてあったが、何かしら経験を積めば姿を変えられるのだろうか。
大量のモブ兵の中にゴスロリ幼女が一人だけ。目立ってしまうのも分かるが、周りの視線が気になって仕方がない。
多少は兵士と違う姿も混じっているが、ロビーに比べればずっと少なかった。俺も自然と少数派の人を目で追ってしまう。
気がつけば俺は、猫耳をつけたお姉さんをガン見していた。褐色、長い金髪、ホットパンツに黒ブーツ。
実に重そうな双丘はタンクトップをはち切れんばかりに押し上げていた。控えめに言って辛抱たまらん。
うっかり目が合ってしまったが、向こうは和かに笑いかけてくれた。手まで振ってくれたので、俺も思わず振り返す。
自分でもかなりヤラシイ顔をしてたと思う。大人の女性に憧れる、純粋な少女とでも思ってくれたのだろうか。この姿になって初めて得した気がする。
神殿の中央、兵士が殺到するその場所にはお墓みたいなモノが置かれている。
その石碑だかに兵士が手を触れると光になって姿を消した。ゲートみたいなモノだろうか。
俺も他の人に習って手を触れてみる。さて次のエリアはどんな所か。
目の前が光で溢れてくる。
「アレ?」
また神殿の中だ。
周囲を見渡しても特に変わった点は見当たらない。隅の方にワープしただけみたいだ。
「はじめまして。よろしくです」
声をかけられてはじめて、俺は正面にいる人の存在に気がついた。
この人は他の兵士とはちょっと違う。上等な鎧と顔を覆う兜を身につけていた。初期装備が街の巡回兵なら、コチラは王城の近衛兵といったところだ。
「中央のアレ、マッチングポイントです」
戸惑う俺を察してか、説明までしてくれた。
「マッチングって……」
「対戦相手を自動で選んでくれるんです」
「あぁそういうことか」
「そうです。そうです」
初心者丸出しの何ともマヌケな会話だ。
観光地で道を尋ねる外国人もこんな感じなんだろう。
マッチングポイントに触れると自動で相手を見繕ってくれるそうだ。上手い考えだと思う。
なんせここは初心者エリアだ。俺の様な、ゲーム内で会話したことないプレイヤーにはありがたい。
それでも、若干不親切な気はするが。
「あらためて。よろしくお願いします」
「こっここちらこそ、よろしくお願いします」
重鎧の兵士にお辞儀されるとコチラまで畏まってしまう。
ともあれ、ここから瑠璃への復讐の物語が幕を開けるのだ。大事な初陣、気合いを入れて行かないと。
「ドロー! 【ハルバード】」
相手は端末からカードを引いて実体化させる。その手には先がゴテゴテした長柄の槍が握られていた。
重鎧の姿と相まって、その威容に圧倒されてしまう。だがそれ以上に俺はワクワクしていた。
子供の頃にこんなアニメを見ていた気がする。なんだかバトルしてるって感じじゃねーか。
「ドロー! 【ソード】」
俺も負けじと声を出す。そして早速斬りかかった。しかし俺の刃は相手には届かなかった。簡単に相手の槍に払われると、手痛い突きが飛んできた。
「おおぅ」
飛び退いて距離を取る。
一体なんなんだ。ゲームって攻撃力とか防御力で決まるものではないのか?
これではまるで本物の戦い、殺し合いではないか。
ジリジリと距離を詰める近衛兵。迫り来る斧槍に俺は恐怖を感じてしまった。
まさかリアルで死ぬことは無いと思うが、やはり痛かったりするのだろうか。
「だったらこれだ!」
俺は次に抜き取ったカードを投げつけた。すぐに火の玉に変化し、一直線に飛んで行く。説明の時に使用した戦法だ。
着弾して鎧が炎に包まれる。脚が引いたのを確認すると、俺は剣を振りかぶった。
……ドスッ。
またもや俺は届かなかった。僅かに俯くと槍の柄が真っ直ぐ俺に伸びて来ていた。胸に圧迫感を受けて、俺はそのまま倒れ込む。何が起きたのか理解出来ない。
「な、んで……」
倒れた姿勢で上を見上げる。そこには右手に槍を、左手には鋼鉄の盾を構えた近衛兵が、今まさにトドメを刺さんとしていた。




