4 カード駆使して勝利を掴め
つまりこれはどういうことだ?
フリフリのついた黒いゴスロリ服も、銀髪金眼のロリっ子美幼女も、全部が全部親父の趣味だってのか。いや、そう結論づけるのはまだ早い。もしかしたら瑠璃の親父の趣味かもしれない。
どちらにしてもキツイ。
俺はクルーに背を向けると、頭を抱えてしゃがみ込んだ。往来のど真ん中だが気にするもんか。
(では次にゲームの説明だけど……)
無視かよっ!
急に立ち上がったのでスカートがちらりと捲れる。それに構わず俺は慌ててクルーに詰め寄った。
「ちょっちょっ待って下さい。変更、やり直しをさせて」
(フッフッフッ、直ぐにでも戦ってみたいって顔してるね)
ダメだ、ぜんっぜん話が通じてない。というか会話がまるで噛み合ってない。チュートリアル中は強制的に進行させられる仕様なのか……あるいは旧式の端末を使ったことによるバグか。
俺の戸惑いをあざ笑うかのようにクルーはワザとらしく笑う。と、クルリと後ろを向いて歩き出した。
(場所を変えるから、ゲートまで僕に着いてきて)
これでは埒が明かない。
こんな恥ずかしい恰好で俺のVRゲームデビューを汚されるなんて御免だ。瑠璃と同じ端末だとか浮かれてた自分がアホらしい。
自分のスマホで始めなおすか。
俺はゴーグルの電源を押そうとこめかみに手を伸ばす。確か耳の裏あたりだったかなと考えていると、手のひらにフワフワした柔らかな感触が広がった。
「ん?」
硬くない。ついでに言えばプラスチックでもない。なんだこれは? 毛か?
俺は細くてフワフワした何かを掬ってみる。まぎれもない俺の髪の毛だ。実際の俺はツンツン頭の直毛だから全然違うが、それでも現実と寸分違わぬ触り心地。女の髪なんて触った事ねーけどな。
顔もペタペタしてみたが、ゴーグルやヘッドフォンの感触はない。
ここまで来ると仮想現実というモノに五感を狂わされてるんじゃないかと疑いたくなる。何これ怖い。
(おーい、こっちだよー)
通路の先でクルーが呼んでいる。待っててくれてるみたいだが、人混みで見失ってはマズイ。
俺は考えるのをやめて慌てて追いかけた。説明の中でゲームの中断方法も教えて貰えるだろう。
歩きながらあらためて自分の姿を確認する。左手のバンドだけは、唯一現実と同じモノで安心した。
一瞬ここで端末を外そうとしたが、直ぐにその考えを否定した。無理に外せば一生ゲームの中に囚われる……そんなことはないだろ、流石に。無いよね?
あとはヘッドフォンの代わりに、ヘッドドレス? 名前はしらないが、頭に飾りがついてるぐらいだ。
クルーに案内されたのは、白いアーチ状の光の前だった。どうやらこれがゲートらしい。扉の部分は靄がかかっていて、中の様子は伺えない。
(ここがゲートだ。ロビーから各エリアへはそれぞれのゲートで繋がっているんだよ。慣れればイメージするだけでエリア間を移動できるようになるよ)
クルーに続いて俺も靄の中に入る。今まで数多くのプレイヤーが期待を胸にこのゲートをくぐった事だろう。
しかし涙で顔を赤く腫らし、絶望を胸にくぐるプレイヤーは多分初めてだろう。出来れば俺が最初で最後になる事を切に願う。
新しいエリアとか言っていたが、中は広いだけの真っ白な空間だった。中央にはクルーの他にもう一人、兵士と思わしき人物が立っている。
兵士も兜を目深に被っていて表情読み取れない。コイツも説明用のゲームキャラだ。
(ではお待ちかねの戦闘解説だ。手元のデバイスを見てごらん)
デバイス、要は端末の事だ。
見てみると背面にアイコンが浮かび上がっている。剣に火に、あとは十字架か。剣のマークが光っていたので思わず触ってみた。途端に端末全体が輝き出す。
「わぁっ」
光はカードとなって、端末から手の甲に向かって排出された。
「取れってことか」
カードを取ると光を纏いながら、形を変化させる。気付いた時には俺の右手には剣が握られていた。
「なるほど、カードゲームってこういう意味か」
(グッド、その調子だ)
残りは火のアイコンと十字架のアイコンがそれぞれ二つある。多分攻撃魔法とか回復魔法なんかだろう。
(では実際に戦ってみよう)
隣にいた兵士が剣を構える。
俺は火のアイコンをタッチした。出てきたカードをトランプ投げの要領で兵士に投げつける。
カードは空中で火の玉に変化すると、そのまま兵士に直撃した。体勢がぐらつき、剣先が下に下がる。
その隙を突いて俺は兵士に斬りかかった。肩から胸に剣を振り向く。感触はあるが抵抗は無い。
上手いこと致命傷を与えたのか、兵士はその場に倒れると煙の様に消えてしまった。
(OK! ナイスファイトだ)
クルーが拍手で勝利を祝福してくれる。同時に、兵士が倒れた場所に新しいゲート出現した。
(この先には多くのライバル達が待っているぞ! 英雄よ、健闘を祈る)
クルーは最後にそう言うと、兵士と同じように姿を消した。ゲーム説明はこれで終わりのようだ。
「ここからが本番ってワケだな」
中々面白そうじゃないか。俺はニヤリと笑うとゲートに足を踏み入れた。しかしそこでピタリと動きを止める。
「で、中断ってどうやるんだ?」




