3 俺は小さなゴスロリ乙女
タイトルと共に映し出されたのは宇宙の映像。視界いっぱいに輝く星々が広がって、銀河の輪っかはグラデーションが七色に輝いている。
ありきたりな感想だが、まるで自分が宇宙飛行士になったようだ。
SF映画のような迫力を前にして、世の中が夢中になるのも納得出来る。
ただ俺が調べた限りではこのゲームは「なりきりヒーローカードバトル」のはずだ。別段宇宙が舞台とは聞いてないが、始まったら説明が入るのだろう。
「フゥ……やっと始められる」
映像の美しさは置いておいて、俺は少し疲れていた。初期設定に多少の時間を取られたからだ。
時間や言語から始まり、画面の明度に彩度。果ては個人情報の入力までさせられた。
『この世界は無限の可能性に満ち
オープニングはスキップ。後で気が向いた時にでも見返そう。導入部分も気にはなるが、ここは操作の説明やアバター作成を優先しよう。
脳波検知で操作をするのは中々に快適だった。
宇宙空間に昔のSF映画の様なワープ演出が入る。周りの星々が尾を引いて残像を残すと、場面は屋内に切り替わった。
テレビで見るような海外の高級ホテル。そこのロビーに俺は立っていた。
中央部分は巨大な吹き抜けになっている。天井が無いと思わず錯覚してしまうドーム状の作りで、下からは上層の階の通路がよく見えた。
壁や通路をはじめ全体的にクリーム色で統一されている。等間隔で植えられた観葉植物が良いアクセントになっていた。
操作の制限が解除されたらしく、首が回るようになった。あらためて周りを見渡してみる。
「スゲェな、これ全員プレイヤーかよ」
ロビーや通路には人が引っ切り無しに往き来していた。都会の通勤ラッシュにも引けを取らないんじゃないか。
もちろんここはVR空間、駅でもなければホテルでもない。
ゲームの雰囲気からして巨大な宇宙船の中といったところだろうか。
床の溝に沿って光源が走り、中空に浮かぶスクリーンには様々な映像が流されている。
行き交う人もくたびれたサラリーマンなんかじゃない。鎧の騎士に変身ヒーロー、ロボット、ガイコツ、どっかの土地のゆるキャラまでいる。
なるほど、コイツは中々にカオスだ。
(ようこそお越しくださいました。異世界の英雄よ、歓迎致します)
プレイヤーたちのカラフルな姿に目を瞬かせいると、急に後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには軍服らしきスーツを着た男性が立っていた。整備帽を目深に被った姿は、さながら宇宙船のクルーを連想させる。
「えっあっ、ハイ……よろしくお願いします」
俺は思わず後ずさった。急に声をかけられたのもあるが、理由はそれだけでは無い。
何というかデカイのだ、クルーが。
俺の頭が丁度お腹くらいの位置にある。常に首を上げてなければ、顔が見えない。ゴーグルの設定間違えたのか?
(ではまず、貴方の名前を教えて頂けますか?)
ここからゲーム説明が始まるようだ。情報の設定にはいい加減ウンザリしていたが、これは別だ。名前は大事だからな。いよいよこれからゲームが始まると思うとワクワクする。
「リュージ」は流石にありきたりか、なら自分の名前、「隆」をもじって「ドラゴン〜〜」とかかな。
格好も定番な騎士とか、あえて学生服のままで超能力者もアリか。でも、ヒーローっていえばフレイムマンかな」
なーんてブツブツと呟きながらつい妄想に耽ってしまう。ちなみにフレイムマンは子供の頃見てた特撮ヒーローだ。
だがクルーは俺に向かってとんでも無い事を口にした。
(そっかぁナルちゃんって言うのかぁ。カワイイ名前だね)
「……え?」
誰? ちょっと言葉の意味が分からない。念の為首左右に振ってみたが、クルーと話しているのは俺一人だけだ。
目線を戻すとクルーの顔が間近に迫って驚いた。片膝立ちでこちらに合わせてくれている。
(歳は7歳で良かったかな?)
喋り方も急に馴れ馴れしくなった。流石にクルーはゲームのキャラだろうが、相手によって露骨に態度を変えすぎだろう。
それにしてもナルって誰だよ、いつの間に決められたんだ?
俺はハッとした。思い当たる節がある。俺は恐る恐る左腕にはめたバンドを見ようとして固まった。
「なんだコレ?」
黒を基調とした白いフリフリのついた布が見える。裾の部分が蝶のように広がっている。その先から伸びる小さな手は、新雪のように真っ白だった。
(ではアバターの設定はこれで終わるよ。最後にステータスを見てもらっていいかな?)
俺が呆けている間にもクルーは勝手に話を進めていたらしい。
戸惑う俺とクルーの間に、等身大のスクリーンが浮かび上がる。それは鏡の様に光を反射させながら材質を変化させると、俺の姿を映し出した。
ウェーブのかかった銀色の髪、宝石をはめ込んだような金色の瞳、白さを強調させる紅潮した頬と赤い唇。
黒い、人形のようなヒラヒラの服には所々白いレースの装飾が施されていた。所謂ゴスロリってヤツだろうか。
そんな銀髪金眼のゴスロリ少女がそこにいた。
それが今の俺の姿だった。
なっんあなななななな。
「ナンジャコリャーーーーー!」