25 ウラ側を知った日
「僕の名前のグリモワールは、そのものズバリ魔導書から来てるんだ。生まれ持っての魔導の知識の深さ故に一族の長に名付けられ……」
「へ、へぇー」
ドラゴンとの戦いを終えて、狭苦しい音楽倉庫に戻った俺とグッさん。
部屋の主であるニャミィさんを待つことになったが、ずっとこんな調子で喋り続けている。よくもまぁ次から次へと設定が口をついて出るものだ。呆れつつも、それが自分の作ったキャラへの愛だと思うと尊敬してしまう。
対戦が終わってから約三十分。最初会った時に比べると、大分くだけて話せるようになった。
グッさんの子供姿のアバターは、自分で書いた小説のキャラクターらしい。趣味でネットに上げてると言う。本業はサラリーマンだ。
初対面の嫌味な対応もあくまで小説のキャラのものだ。グッさん本人は人懐っこい性格をしている。俺が思うに、今の方がよっぽど子供っぽい。本人に言ったら怒るだろう。
「そういうわけで、我がザッハバーグ家は王家にも繋がりのある血筋なんだけど……聞いてる?」
「……な、なんとか」
「もー、ここからが面白いのにぃ。ネタバレを回避するとだねぇ」
解説はいいから、出来ることならせめて元の小説を読ませて欲しい。何も知らない状態ではネタバレも何もない。
その時部屋の入り口が光った。待ちに待った家主のお帰りだ。
「いや〜ゴメンねぇ、子供が熱出しちゃってさぁ。早めにご飯つ……っっナルちゃん!?」
俺の顔を見るなりニャミィさんは飛び退いた。猫の様な身軽さだ。あ、猫か。
「こん〜、ニャミィさん」
目を丸くする家主とは対照的に、グッさんはダボついた袖で手を振った。
「こんばんわグッさん。あぁそう、ナルちゃんも居たのね」
「せっかく昨日、フレンドになったので」
気まずいと思いつつ、俺はペコリと頭を下げた。ニャミィさんも会釈しながら愛想笑いを浮かべて席に着く。
何か聞いてはいけない事を耳にした気がするが、ここは華麗にスルーするとしよう。
「この子スゴイんだよ、ニャミィさん。なんと初見で四大精霊竜を倒したんだ」
「えっあの怪獣やられたの?
そっかぁ、ナルちゃんやるわねぇ」
あの合体ドラゴンは他人から見ても怪獣の認識らしい。
負けたはずなのにどこか誇らしげなグッさんと、まるで自分のことのようにボリュームある胸を張るニャミィさん。
その間に居た俺はつい照れてしまう。
「いやあ運が良かっただけですよ。NALさんも手伝ってくれたし」
「NALさん?」
キョトンとした顔でグッさんが聞いてくる。しまった、つい口が滑ってしまった。
「ナルちゃんのデバイスはサポートAIがついた特注品なのよ」
「そうなんだ。最近はそんなのも出てるんだねぇ、オジサンすっかり取り残されちゃったよ」
俺は思わずニャミィさんを二度見したがうまく誤魔化せたようだ。
それよりもまた何かノイズが聞こえた気がしたが、これもスルー推奨だろう。
「ねぇねぇナルちゃん。グッさんの第一印象どうだった?」
「どうって言われても」
「イヤ~な感じだったでしょ」
俺はすぐにコクコク首を縦に振った。ニャミィさんは満足したように笑い出したが、頬を膨らましたグッさんがすぐに反論する。
「ヒドイですよ〜ニャミィさ〜ん。僕のはあくまで、グリモワールのキャラですって。それに初対面のニャミィさんには素で接してましたよ」
「私の時は普通でも、他の人にはワザと性悪キャラで接してるじゃない。キャラの成りきり過ぎは良くないわよ」
「一応相手を見て演じ分けてるよ。特にニャミィさんには悪い虫が着き易いんだ。僕が注意しとかないとね」
悪い虫って、もしかして俺のことかよ。確かにちょっとだけエッチな目で見てたことは否定しないけどさ。
「何だよニャミィさんだけ特別扱いしてさ。グッさんこそニャミィさんの何なんだよ?」
俺の抗議に、グッさんはフフンとドヤ顔をする。こういうところは素もキャラも同じらしい。
「僕は熱烈なファンの一人に過ぎないよ。なんせ彼女は
「ハイハイ、分かった分かった。私のことはもう良いから、ちょっと話させてくれる」
手をパンパン叩いてニャミィさんは話を遮った。自分の話題が続いたせいか、照れて顔が赤くなっている。
初心者エリアでは前から初心者に手ほどきしてたみたいだし、彼女のファンが居ても不思議ではない。
「ちょっと順番が逆になっちゃったけど、彼が昨日話してたカード構成に詳しい友人よ」
「グッさんだよー、あらためてよろしくね」
「一昨日始めたナルです。こんな格好ですが中は男です」
カード構成に詳しい人だとニャミィさんは紹介したが、グッさんはそれだけでは無い。デバイスの扱いや自作する拘り、自分のキャラ愛やドラゴンの作りこみ、そのどれもがチューニを知り尽くしていると言わんばかりのクオリティだ。実際に肌で感じた俺だからこそ、その凄さは理解できる。
「明日は土日だし、お二人ともまた色々教えて下さい」
俺は元気よくお辞儀した。
こんなにも親切で腕が立つ人に出会えたのは幸運に他ならない。この分なら、瑠璃に追いつく日もそう遠くではないのではないか。
そんな俺の淡い期待は、グッさんの一言で脆くも崩れ去った。
「いや、それはやめておこう」
素の無邪気でのんびりした顔から一転、目を細めたシリアスな表情になる。グリモとも違う冷めたものだった。俺も入れた気合いを削がれて、思わず耳を疑った。
「ナル、君はしばらくの間チューニにログインするのを辞めるんだ」
その言葉はとても重く、俺は目の前が暗くなるのを感じた。




