24 紅き光は空へと疾る
息の波の中は不思議と静かだった。それがもし、音すらも消滅させる威力だと思うと身の毛がよだつ。
目を閉じていても瞼の裏の光は完全には遮れない。俺の策が上手くいったのかは、視界が開けた時に明らかになる。
光が薄らぐ。見えてきたものは自分の脚だった。
スカートの膨らみは溶けて消え、レース部分もボロボロだ。白い下着も露になったが、こんな体型では恥も色気もない。腕のレースも擦り切れて、捨てられた人形のようだ。
次に見たのは抉れた地面。俺の周りだけ草が残っていて、他よりちょっとこんもりしている。規模が大きいのもあってちょっとしたスケボー広場みたいな地形になっていた。
そして遠くには怪獣の姿。口から息の残り火を漏らし、目をギラギラさせながらこっちを見ている。
俺は生き残ったのだ。
「ば……バカな」
グリモの声だ、震えている。してやったりだ。
「バカなっ、バカなバカなバカな! 【四大精霊竜)だぞ、ザッハバーグに伝わる世界の守護竜。神の創造した、叡智と力の化身。それなのにっなんで生きてるんだよぉ」
「NALさん。メビウスは、盾は……直りそう?」
グリモを無視して、俺は右手にあるモノを見た。今では縁がかけた、薄く、ヒビの入った板だ。
『鋼盾形態、再生まで13、12、11……
「盾? 盾だって!? 耐えきったと言うのか、神竜の、息吹を!?」
グリモが叫んでる間にも、盾は徐々に厚みを増していく。その通りだ、コスモ・メビウスは怪獣の攻撃を見事に耐え切った。
俺は大きく息を吐く。それまでの緊張が一気に解け、俺は膝を開いてへたり込んだ。
「死ぬかと思った」
俺の端末のアイコン、その右端二つが暗くなっている。本来そこには十字のマークが二つ並んでいるはずだった。
「【ヒール】二枚、自動再生盾の勝利だな」
『多重兵装剣 コスモ・メビウス修復完了』
よっしゃ。
俺は気合を入れて立ち上がり、大剣形態に戻したメビウスを振り抜く。傷一つ無い新品同様の仕上がりだ。
僅かに残った【ヒール】の残光は、塵となって宙を瞬いた。
「クウゥ! すぐに息を」
「チャージなどさせるものか」
『コスモ・メビウスーー射撃形態』
端末のアイコンを二回押して【ファイヤーボール】を同時に引く。素早くスリットに入れると、俺は脇に抱えて狙いをつけた。
「今度はブッ放す!」
中央の玉は真紅に輝き、中の光も回転を開始する。輝きの強さに比例して、回転の速度も銃の振動も増していく。
振動は痛みと違って、直に上体を震わせる。それでも狙いがブレる気はしなかった。
イメージするのは火山の噴火、マグマの奔流……違う。それでは空の神殿を焼き払うのが関の山だ。
意識を集中しろ、マグマを収束させろ。何が出る? 何が飛び出す?
決めるのは自分だ。二枚のカードはあくまで威力アップのおまじない。
色は、熱量は、距離は、難しいことは分からない。だから結果だけ考える。
怪獣を貫くのは点、点から円へ、円から孔へ、孔から覗く大空へと意識を走らせる。
視えた。俺はライフルの柄を握り締める。
『フレイムブラスター、マキシマムシュート』
一筋の紅が疾る。尾を引く光は線となり、竜の背を超え空へと昇る。
遅れて、地上で嵐が起こる。置いていかれた衝撃の余波だ。
フィールド全体が軋む中、竜を貫いた紅い線は急激にその太さを増す。
轟音と共に嵐も光も刹那のうちに駆け抜ける。後には大穴を穿たれた【四大精霊竜】が残された。
俺の一撃はカメの頭部と風竜の根元を消失させた。残りの二つの首も項垂れている。既にその目に光は無く、怪獣は音を立てて崩れ去った。
俺が剣を担いで怪獣のいた場所まで歩いて行くと、グリモが両手と両膝をついて呆然としていた。自慢のドラゴンの消滅を、まだ認めることが出来ないようだ。
「へへへ、やってやったぜ」
疲れ切った顔で笑いかけると、グリモは首を回して赤く腫らした目をコチラに向けた。
スックと立ち上がると、俺の瞳を見つめたまま鼻がつく距離まで接近する。
「なっ、なんだよ?」
グリモはしばらく仏頂面で黙っていたが、薄ら笑いから噴き出すように声を上げた。
「スゴイねぇ、君はスゴイよ!」
杖を放り出すと、俺の空いてる方の手を両手でぎゅうと握り締める。突然の事に呆気に取られたが、グリモは構わず両腕をブンブン上げ下げした。
「チューニ歴八年の僕だけど、まさか【四大精霊竜】が倒されるところなんて初めて見たよ。召喚したのだって数ヶ月ぶりだってのにさぁ」
「は、はぁ」
鼻息を荒くしながら、輝いた目をなおも近づけてくる。
豹変したグリモだったが、ハッとした顔をすると急いで手を引っ込めて咳払いした。
「ゴメンゴメン、つい興奮しちゃったよ。文句ない。君の勝利だおめでとう」
今度は拍手をはじめる。俺はなんだか心配になってきた。
「なぁグリモ、どうしたんだ。負けたのが悔しくておかしくなったのか?」
するとムッとした顔で言い返してきた。
「心外だなナル、僕は純粋に誉めてるんだよ。確かに負けたのは悔しいさ。でも君だって、バトって仲良くなろうと言ってただろう」
確かに言ったけど……もしかしてこっちが素なのだろうか。
「ニャミィさんも来てるかもしれない。さぁ部屋へ帰るとしよう」
「あっ、おいグリモ」
杖を取りに走ったグリモだったが、俺の呼びかけに脚を止める。そして最高の笑顔で振り向いた。
「グリモなんて水臭い。これからは気軽にグッさんと呼んでくれ」
キランと歯を光らせて、親指をグッと上げたのだった。




