23 絶対絶命 ナル 閃光に消ゆ!
竜と呼ぶにはあまりに歪、怪物と呼ぶにはあまりに荘厳。
なので今から俺は目の前のソレ、【四大精霊竜】を怪獣と呼ぶことにした。
怪獣の身体の下半分は初めに倒した【大地竜】そのものだ。そこはまだ普通。
背中の岩山から向かって右側、真紅に燃える焔の翼が見える。【火炎竜】のものだ。対称的に左側には【氷結竜】の翼が生えている。
カメの頭の上には左側から氷、風、火のそれぞれの首が伸びていた。
これを怪獣と言わずしてなんだと言うのか。ここからは見えないが風竜の部分もどこかにあるのだろう。
文句無しの最大級の強敵、攻撃方法もド派手だ。
大きく広げた両方の翼から、氷と炎の破片を隕石の如く撒き散らす。
無数に降り注ぐ攻撃に俺は避けることすらままならない。剣でガードするだけで精一杯だ。
「そこだっ! 狙い撃て」
グリモの掛け声に合わせて、それぞれの首から息が吐かれる。威力も性質も一体の時とはまるで違った。色の着いたビームだ。
四本同時の一斉斉射。
熱線は触れたさきから地面を抉った。大地を割きながら俺に迫る。
幸い草原は地平線まで続いている。俺は剣を捨てると一目散に逃げ出した。
冗談じゃない、こんなの勝てるわけがない。
怪獣の相手は自衛隊や巨大ヒーローだと相場は決まっている。ちょっと強いゴスロリ少女では断じてない。
四本の柱はしつこく俺を追ってくる。
チラリと振り返ると、風竜の頭の上にグリモが立っているのが見えた。
安全圏まで逃げた後、思い切り叫ぶ。
「バカーアホー卑怯者ー! そんなデカイの反則だー!」
小学生並みな罵倒だが、他に言葉が出てこない。それ程までに俺は追い詰められていた。
「そうなんだよねー。初めて見た人はみんなそう言うんだ」
ムキー!
余裕綽々といった声が耳に届く。ゲーム内では互いの距離が離れても、会話はある程度可能なようだ。
「モチロン下準備があってのことさ。再召喚不可、さらに【四大精霊竜】の召喚には制限をかけてある
そう。例えば他のドラゴン四体の生け贄が必要、とかね」
ゴガヲオオオオオオ!!
世界を震わす四竜の咆哮、俺は思わず耳を押さえた。近づくだけで鼓膜が破れそうだ。
グリモの言う切り札の意味がやっと分かった。
あの怪物は確かに無敵だ。だが裏を返せば、四匹を失った状態でなければ召喚出来ない。
杖を警戒するあまり、後手に回った俺のミスだ。知らなかったとは言え後の祭り。
それでも絶望的な状況とは反対に、俺の心は不思議とワクワクしていた。
チューニは俺の知ってるゲームとはまるで違う。レベルやステータス、決められた性能なんて無い。
好きな姿、好きな技でイメージ通りの戦いが簡単に出来る。それは自分の生み出したキャラクターへの理解や愛がそのまま強さに反映すると言うこと。
グリモはその上で、デバイスを自作するくらいまでチューニとグリモ入れ込んでるんだ。
どこまで言っても奥が深い。
「そりゃあ、強いはずだよ。アンタ」
不意に賛辞の言葉を口にしていた。
「お褒めに預かり光栄だね……では部屋へ戻ろうか。ニャミィさんに頼まれたのもあるが、君には中々見込みがある」
「まだだ」
「え?」
「まだ勝負はついてないぜ。コスモ・メビウスーー射撃形態」
俺はカードを引き直し、その場で膝を着いた。メビウスの射程なら十分に届く距離。俺は慎重に狙いをつける。
グリモの漏らした溜め息が耳に当たった。呆れとも苛立ちとも取れる感情を含んでいる。
「それが意地を張って出た言葉なら聞き流そう。そうでなければ、無謀を超えてもはやボクに対する侮辱だ」
「ごめんよ、悪気は無いんだ。ただこんな機会滅多にないから足掻いてみたくなったのさ」
「君の手札は初期構成のままだ、【ファイヤーボール】に【ヒール】がそれぞれ二枚づつ。結果は見えてると思うけど?」
『主、このままフレイムブラスターと【四大精霊竜】の全ての首からの息が衝突した場合、威力を相殺できずに主は消滅します。
投降することをお勧めします』
さすがAI、慈悲はない。
だが俺だって全くの無策ってワケでもない。
四つの首が俺へと向く、離れていても分かる威圧感。八つの眼から膨れ上がる殺気に、グリモの命令が重なる。
「ならば望み通り、塵ひとつ残さず消滅させてやるーーゴッドドラゴンブレス!!」
ドラゴンから放たれる四本の息。それは俺へと迫りながらも互いに絡み合い、大きなうねりとなって襲いかかる。俺に届く頃にはビームや光の柱などではなくなっていた。
光の波だ。俺を押し潰さんと打ち寄せる。
俺はあえてライフルを降ろした。覚悟を決めて、左手のアイコンを見つめえう。
程なくして俺の身体は輝きに包まれた。




