22 風の竜そして……
メビウスの刃が大空に煌めく。風に乗って宙を駆け抜けた俺は、的確に【烈風竜】の首を斬り落とした。風を操るドラゴンといえど、一匹だけなら敵ではない。
フッ、決まった。瞬殺だぜ。
「やった! ってええええっ!?」
竜を倒した影響か、乱れた気流が一斉に止まる。勝利の余韻に浸る間も無く、俺は地上へ真っ逆さまに落ちていった。
剣も使ってスカートとヘッドドレスを必死に押さえる。なんか日に日に恥じらいを感じてないか、俺。
何か対策が取れるでもなく、俺は脚から地面に叩きつけられた。
全身に衝撃がのしかかる。特に脚への負担は重く、酷い痺れで感覚を失っている。法事の時の正座に近い感覚だ。
腕の力で這いずりながら、恐る恐る下半身を見る。なんか脚の関節が二、三箇所増えていた。
痛みが無い分冷静に観察出来てしまうのが逆に怖い。出血こそ無いものの、折れた箇所は濃い紫に変色して握り拳程に膨れ上がっている。
軽く吐き気を催しながら、俺は【ヒール】のカードを使用した。脚の傷はすぐに癒えたが、心の傷はしばらく尾を引くだろう。
こんな感覚は味わいたくも慣れたくもないものだ。
立ち上がって軽く足踏みする、動きに支障はない。俺は金色の瞳でグリモを捉えた。
グリモの顔は真剣そのもの、ようやく本気になったようだ。
だがもう遅い、ヤツは全ての竜を出し尽くした。あとは剣と杖の真っ向勝負。
俺は二枚の【ファイヤーボール】を取り出す。一枚はメビウスへセット、もう一枚をグリモの顔面へ向けて投げつけた。信頼と安心の連続攻撃。
案の定火の玉は杖で撃ち落とされたが、本命が大剣なのは言うまでもない。
散々俺を煽ったクソガキの脳天に、上段飛び込みからの火炎斬りを食らわせる。
「くたばりやがれぇ!」
ガギイィィン!
今の俺が出せる最強の攻撃は、またも鉄製の杖に防がれた。
今回は勢いの分だけ、僅かにグリモの足が下がる。だけどそれで終わりだった。
「ウンウン。ここまで粘ったご褒美に、良いことを教えてあげよう」
したり顔でグリモは笑った。まだ勝負の途中なのに、上から目線で何を言い出す気だ。
「うるさいっ! 召喚の待機時間を稼ぐ魂胆だろうが、そうはいかない」
「なるほど、待機時間ときたか。よく勉強しているね」
どこまでも舐めたヤツだ。俺は剣を持つ手に力を込める。だがグリモは先手を打った。
「無駄だよ。その剣じゃボクの杖には絶対に勝てない」
「なんだと?」
「まず言っておくと、ボクのドラゴンには待機時間が存在しない。一度倒してしまえばこの対戦中は復活することはないよ、その分強力に設定してある」
嘘は言っていない、嘘をつく理由がない。俺は腕を下げ、剣先を草の上に乗せた。
「では質問だ。チューニの世界ではほぼ全てのオブジェクトがイメージを基にしたデータで構成されている。それは分かるね」
俺は頷いた。確かNALも同じようを言ってた気がする。
「その中で唯一、絶対に破壊出来ない物が存在する。それが何か分かるかい?」
「えっ……なんだろ、しょっ勝利への執
「デバイスだよ」
ああああああああ。
心の中で叫ぶ。
「デバイスはゲームと現実を繋ぐ大切な物だ。実体のあるものに空想が勝つことはない。
故にデバイスへの攻撃は全て無効化される」
ここまで言えばもう分かるね。最後にそう付け足すと、グリモは悪戯っぽくほくそ笑んだ。それで俺もようやく理解した、あの杖のカラクリを。
思い出せば、ニャミィさんの部屋にいる時からグリモはあの杖を手にしていた。ゲートを開いたのも、ドラゴンを召喚したのも全て杖で行なっていた。
あの杖そのものが端末、デバイスなのだ。
俺は今まで端末はあくまでカードを引くための機器、腕や腰につけるものとしか思っていなかった。さらに魔道士と言うキャラにまんまとハメられた形だ。
「グリモ、お前部屋の中でソレ振り回してんのか?」
「……自作したんだ、よく出来てるだろう。だからあまり直接攻撃はしないでくれ」
目を逸らしながらグリモは苦笑した。唇の端が震えている。
キャラクター越しの素が見えた気がして、少しだけコイツに好感が持てた。
しかし直ぐに目を細めると、歯をむき出しにして恐ろしい事を口にする。
「この杖はデバイス、つまりボクはあと一枚【切り札】を残してると言うことさ」
杖がカードを基にした武器でない以上そういう結論に至るのは自然なことだ。
だが俺はたまらなく不安だった。
今まで召喚された四匹の竜、特徴は違えどその強さにはあまり差は無かった。強いイメージのドラゴンだが、カード一枚の力などたかが知れてる。
それでもグリモは明確に【切り札】と口にした。俺の知らない何かがまだあるんだ。
俺は両手で剣を構え、息を飲んだ。冷たいものが頬を伝っていく。汗の感覚まで再現するとは恐れ入る、それともこれは俺自身のものか。
草原の空に雲が広がる、風はない。
「さぁ決着をつけよう」
バサアとローブを翻して、グリモが両手を天へと伸ばす。杖を先からは端末の輝きがこぼれ、これから奇跡を起こす古の賢者のように見えた。
「天に召されし同胞よ! 汝らは未だ死の床に非ず、微睡みの中に非ず、常に魂は我と共に有り。目覚め、猛り、咆哮せよ!
踊れ、踊れ、踊れ、踊れ。精霊王の血のもとに、我が命に応え今再び集え!」
溢れ出る光から、グリモを中心に風が巻き起こった。
クソ長い呪文を唱えて悦に入ってやがる。異様な空気は容易に感じ取れた。
「降臨せよ!【 四大精霊竜】」
いつの間にか黒雲に変わった空から、四つの光の玉が舞い降りる。黄、赤、青、緑其々の色を散らしながら、螺旋を描いて杖の先端で一つになった。
閃光と共に杖を振り下ろすと、俺の前には竜とは思えぬ怪物が現れた。




