21 炎と氷と転がるナル
「【ファイヤーボール】セット」
『コスモ・メビウスーーフレイムスラッシュ』
火を纏った俺の上段斬りは、またしても炎の竜に阻まれた、俺の刃を翼で受けると再び大空高く舞い上がる。
刹那、飛び立つ火竜の陰から凍りつく程の突風をお見舞いされた。氷竜の息攻撃だ。
さっきからずっとこんな調子だ。炎の攻撃で氷竜を狙うも、すぐに火竜に邪魔される。
「アハハハッ、さっきからずっと同じ調子じゃないか。いい加減、初期デッキを卒業しなくちゃ」
一番太い木の枝に座りながら、グリモはその様子を観戦していた。まったくもって腹立たしい限りだ。
同時に俺はグリモの行動に疑問を感じていた。
口ぶりからして奴は俺のカード構成や戦術を把握している。悔しいが俺のメビウスではあの杖には手も足も出ない。それにカードの枚数的にもまだ一体ドラゴンを残している。
本気で勝つつもりなら一気に勝負をつけにくるはずだ。
格下相手と見くびって遊んでいるのか、もしくは勝敗とは別の狙いがあるのか。
グリモの考えがどうにも読めない。
今度は空から火の息が降り注いだ。俺は転がりながら紙一重で回避する。
クソッ、考えてる余裕はなさそうだ。
「NALさん、何か良い手はない?」
『【氷結竜】には【ファイヤーボール】が有効です』
知ってる。
それでもNALさんが俺の拙いイメージを補助してくれるお陰で、メビウス変形は幾分かスムーズに行えるようになった。
逆転の一手は思いつかないが、足を止める訳にもいかない。【ファイヤーボール】の待機時間を気にしつつ、俺は飛んでくる息の回避に集中する。
炎しかないから手詰まりなのでは?
俺は【ヒール】のカードを手にとって握りしめた。俺は冷たい氷をイメージする。
NALさんも最初はただの剣をメビウスに変化させたのだ。不可能ではない。
心の中でNALさんに助けを求める。
『了解しました。氷の大きさ、形状、温度、数などを詳しく
「知るかぁー」
叫ぶと同時に、背中が急にチリチリし出した。息に当たったのだ。急いで転がりながら、引き続き草原を駆け回る。
ニャミィさんの言う通り、戦闘中のカード変化は相当ハイレベルなテクニックらしい。
「ハハハハッ逃げろ逃げろー」
グリモの煽りには慣れたが、空からの攻撃には全く慣れない。
二匹の竜は必ず交互に降りてきては、正面から息攻撃を仕掛けてくる。動きのパターンは前々から見切っていたが、火竜の邪魔があっては意味がない。
ならば次は逆転の発想、火竜の方からを仕留めにかかるか。
先の大地竜を見るに、ドラゴン供の体力は見た目程ではない。二匹の竜の連携は見事、迂闊に手を出せば反撃は必至だ。
幸い二匹の身体はカメよりも一回り小さい。被弾覚悟で臨めば一撃で仕留めれるはず。
作戦としてはこうだ。
敵の息をやり過ごし、空へ逃げる前にカウンターを弱点に叩き込む。なお相方の動きは一旦無視するものとする。
言葉にすれば簡単だが……いや、可能か不可能かはこの際置いておく。やるしかねぇ!
「むむっ?」
グリモの声色が変わった。理由は俺が逃げるのを止めたからだろう。俺は棒立ちのまま、敵の動向を鋭くチェックした。
グリモに動きはない。真正面には降り立った火竜、後方の空には睨みを利かす氷竜。よし、完璧な並びだ。
敵も警戒してか一旦、様子見に入る。おかげで俺も一呼吸して落ち着けた。
この作戦は一度きり、外せば二度目はない。
大きく首を突き出しながら、二匹は同時に息を吐く。
今だっ!
俺は迫る火竜の炎に飛び込んだ。戸惑ってる時間は無い、頼むぞNALさん。
「コスモ・メビウス」
『鋼盾形態』
刃を中心にして、メビウスの剣身が二つに開く。一旦大きな団扇みたいになると、鍔を軸にしてお辞儀するように折れ曲がる。
柄がそのまま持ち手になった即席盾の完成だ。
大剣の状態でも、それなりにナルの身体を隠すことは出来る。それが盾ともなれば竜の息も怖くない。
さらにここで一手間、俺は待機時間を終えた【ファイヤーボール】を盾に挿入する。これで炎対策は完璧、全て計算通りだ。
グヲオオォ!?
炎の息を突っ切って、火竜の眼前に躍り出る。さしものドラゴンも攻撃の最中に突撃してくるとは思うまい。
あとは勢いに任せるだけ。俺は火竜の下顎を思い切り盾で叩きつけた。
自慢の牙を砕かれ、首が大きく揺さぶられる。行き場を無くした炎を宙空に撒き散らしながら、火竜の身体は光の中に消えていった。
風を切る音を耳にして振り返ると、急降下する氷竜が迫っていた。仲間の仇と言わんばかりに大きく口を開けている。
地面スレスレを滑空する影からは、必ず仕留める覚悟を感じた。だが火竜を倒した今、コイツはカモ同然だ。
地面に伏せて息を躱す。
凍気の残る風の中、俺は突進に合わせて剣を掲げた。竜の鱗に大剣の刃が突き刺さる。
ギョオオオオヲヲ!!
高速で腹部を突き破られた氷竜は断末魔を上げる。
慣性影響で鱗を割かれながら、そのまま尻尾の先まで引き裂かれた。
俺が剣を下ろした時、あたりは眩い光と肌寒い空気に包まれていた。
パチパチパチパチ。
杖を小脇に挟みながら、グリモが俺に歩み寄る。耳触りな拍手をやめると、ドンと地面を杖で叩いた。
「やっぱり噂以上だね。君……の、その剣」
間の開け方に悪意を感じる。俺はその噂以上の剣先を、グリモの眉間に突きつけた。
「ゴタクはもういいんだよ。サッサと最後の竜を出しな」
俺はドスの効いた声で睨みつけた。つもりだが、喉から出たのは姿相応の可愛らしい声。つくづく締まらない。
「そろそろ終わらせる頃合いかもね」
グリモの不敵な笑み、その自身は未だ揺らがないようだった。




