20 ナルVSドラゴン
見える範囲は一面の緑、すなわち草原だ。木や花に小鳥の囀り、絵に描いたような平穏な場所だ。
パッと見はそう感じる。だが注意深く観察すると、独特の違和感に気がついた。
草の長さや種類は均一に揃えられ、雑草の一本も生えてはいない。木や花のオブジェクトも配置がズレているだけで枝の生え方も全て同じだった。
何より道がない、同じ光景が無限に続いてると錯覚する。
ゲームでしか味わえない、少し不思議な感覚。
今この場に立つのは俺と、数メートルの距離を置いて向かい合うグリモの二人だけだ。
そういえば、神殿以外で戦うのは初めてなんだな。なんだか少し成長した感じがして悪い気はしない。
「ではこれからバトルを開始するよ。初心者だからって手は抜かないから、そのつもりでね」
グリモは手にした杖を構えた。成長を感じたそばから初心者扱いしやがる。やっぱりコイツは気に入らない。
俺は駆け出すと同時にメビウスを抜いた。先手必勝だ。
自分で魔法国家とか言うからには、相当自信があるはず。時間を掛けるとそれだけ不利になる気がする。
挨拶代わりの一撃は、手にした杖で防がれた。これはまぁ予想の範囲内。
だが地鍔迫り合いから押し込まれると、力任せに弾き返される。そのまま地面に仰向けに倒された。流石にこれは予想外だ。
ニャミィさんとの戦闘からこの方、メビウスが押し負けたのは初めてのことだ。
相当強力な杖なのか、魔法の力で筋力を強化してるのか、素で力が強いのか。
様々な憶測が頭をよぎる。
ただ出鼻を挫かれたのは確かなので、俺はすぐに距離を置いた。
俺の様子を見ながら、余裕を持ってグリモは杖を振りかざす。
「来たれ、来たれ、地の竜よ。盟約に応え、その堅牢なる体躯で我が敵を押し潰せ。出でよ【大地竜】!」
詠唱が終わると同時に、杖の先から光が溢れる。そのまま杖を地面に下げると、飛び出た光が一層大きくなる。
俺は思わず目をつぶり、片腕で顔を覆った。閃光はすぐに止んだので、俺は急いで構え直す。
目の前には巨大なモンスターが出現していた。
それが大地竜なのは理解できる。だが大層な名前に反して、見た目はカメだ。
岩山を思わせるゴツゴツした背中に、ツノ以外にも突起物の目立つ顔。手足も短いし、色的にもイワガメだな。
だが見た目はカメでもドラゴンだ。初めて対峙する巨大さに、思わず圧倒される。
カメに噛みつかれると痛いものだが、コイツには噛みつかれる前に丸呑みにされてしまうだろう。
「どうかな、ボクのドラゴンは?」
頭の上からグリモの声が聞こえる。俺が首を上げると、カメの背に立ち悠々と見下ろしていた。
仲間を呼び出す相手には直接プレイヤーを叩くべし。俺がクズ男と戦って学んだことだ。
今回は早速実践して、無様にあの杖に返り討ちにされた。それでも作戦は悪くなかったと思いたい。
相手もそれを見越して様々な対策をしている。巨大な竜の背に乗るのも有効な対策の一つだ。
幸い動きは速くない。右手を出してドシン、左手を出してドシン。
これなら距離を離しての射撃形態が十分に間に合う。俺は後ろへ下がりながら、変形手順を思い出す。
しかし俺の浅はかな考えは読まれていた。
ブルブルッと身体を震わせると、巨大なカメは大きく背中をそらしはじめた。そのまま両の前脚を宙に浮かせ、後ろ足を大きく伸ばして距離を稼ぐ。
「なんだとっ」
カメの予想外の行動に驚き、不覚にも俺の方が脚を止めてしまった。
周囲が一気に暗くなる、カメの影が迫っているのだ。
俺は咄嗟にカメに向かって駆け出した。考えは特に無い、ただ相手の裏をかきたかっただけだ。上手くいけば回潜れるかもしれない。
「コスモ・メビウスッ」
『鞭刃形態』
NALさん、イメージのナイスアシスト。
影の中をカメの左足へと駆け抜けながら、俺は手首を振ってメビウスの刃を伸ばす。
狙いは右足。上手くいけばバランスを崩して危機を脱せるかもしれない。
つもりだった。
一直線に伸びた刺突は、そのまま難なくカメの足を貫いた。抵抗もなく手首を捻ると、そのまま切断してしまった。
グオオオウ。
唸りとも叫びとも取れる低い鳴き声を上げながら、当初の作戦通りバランスを崩した。地響きと共にカメは大きく身体を傾ける。
このカメ、もしかして見た目の割にとても弱いのでは。岩だと思ったら砂だった、それくらいの驚きだ。
チューニはイメージが全て、見た目に騙されてはいけない。とはいうもののどこか腑に落ちないのだった。
巨大なカメは腹をコチラに向けてウゴウゴしている。実際の亀をひっくり返した時と同じ反応をしている。ほんの数秒前とは打って変わって何とも哀しげな姿だ。
俺は罪悪感を覚えながらも、メビウスで腹を切り裂いた。何とも締まらない終わりだが、カメはスウゥと光の発して消えて行った。
何はともあれ【大地竜】討伐完了だ。
「へ〜ぇ、やるじゃないか。その剣、話に聞いてた以上だね」
背後からの声。知らず俺はグリモに背中を取られていた。すかさず振り向いた俺の目に、驚くべき光景が突きつけられる。
グリモのドヤ顏には慣れてきた所だが、その傍らには二匹の竜の姿があった。グリモの左右後方、それぞれ控えるような姿勢で首を垂れている。
二匹は姿はそっくりだ。片や全身が赤黒く周りの空気を揺らめかせ、片や全身が青白くその背から白い靄を出している。
「さて、次は【火炎竜】と【氷結竜】が相手だ。
竜召喚の真髄はまだまだこれからだよ」




