2 「カオス ヒーロー ユニヴァース」
対戦型VRMMORPG「ChaosHeroUNIverse」
これが瑠璃が言っていたチューニの正体だ。単語の頭文字を取って「CHUNI」
何とも分かりやすい。しかしこれが全国的に人気だというから侮れない。
VRはバーチャルリアリティ。ゴーグルとヘッドフォンで迫力がスゴイらしい。
MMOは多人数同時接続何ちゃら。よく分からないが、ゲーム内で他のプレイヤーとやり取り出来るのだろう。俗に言うネトゲってやつだ、多分。
RPGは流石に俺でも分かる。ナメるな。
装備を買って、モンスターを倒して、レベルを上げて、魔王を倒す。昔からあるゲームジャンルだし、どんだけ新しいのが出ても基本はコレだろう。
しかしスマホを弄る俺の指は止まっていた。
画面に映るのはチューニの公式サイト。そこに書かれた商品紹介の説明を、俺は無意識のうちに声に出して読んでいた。
「レベル上げ、レアアイテムのドロップ周回、スキルの育成等の従来のシステムを大幅に削除」
どう言う事だ。RPGなのにレベルもアイテム存在しないらしい。俺は頭を抱えた。
「五枚のカードを駆使して闘い、キミだけのヒーローで最強を目指せ!」
もう訳がわからない。これではカードゲームではないか。
頭が勝手に思考を止めたので、俺もスマホを投げ出した。両腕を上げて部屋に大の字に寝転がる。
目線の先には天井の木目、やはり自分の部屋は落ち着くものだ。
顔だけ起こして床に置かれたモノを確認する。ゴーグルにヘッドフォン、重くてゴテゴテしたリストバンド。そして瑠璃が持っていたのと同じ端末。
「やっぱ実際に試した方が早いか」
いつかは始めようと道具一式はずいぶん前から用意はしていた。
実際に今始めるキッカケになったのは、数日前にあった死んだ父親の十三回忌。親戚が集ったその折に、整理してた遺品の中に端末を見つけた。
俺は瑠璃が持っていたのを思い出し、母に頼んで自分の物にしたのだ。
十年以上前に死んだ父が、何故現在のゲームの端末を持っていたのか。その理由は簡単に想像がつく。
瑠璃の父親は他でも無いチューニの開発者だ。親同士の友達繋がりで手に入れた初期型だろう。
チューニ自体は自分のスマホをセットすれば開始出来る。しかし瑠璃と同じ型という事もあり、俺は親父のガラケーを使うことにした。
バンドの方にも色々種類があったが、変身ベルトは流石にダサい。結局無難なリストバンドに落ち着いた。
ともあれこれで準備は整った。
俺は左手にバンドをつけるとガラケー端末をセットする。意外に重いな、コレ。
次にゴーグルをつけて、ヘッドフォンを被る。こちらも想像以上に重い、頭が揺れて首がブレる。瑠璃の奴こんなのつけてよく平気で居られるな。俺は心の中で美人な幼馴染みを称賛した。
耳のあたりのボタンを押して電源を入れる。
イイィィィーン。
頭の奥に糸を通すような電子音。そしてすぐにゲームが起動して、ゴーグルにロゴが表示された。
さてさて、何だかんだ言っても楽しみではある。俺だって男の子、いくつになってもヒーローと聞けばときめいたりもするものだ。
日もすっかり沈んだ平日の夜。昼間見た瑠璃の起動シーンを思い出し、俺は自室で初めての体験に胸を躍らせていた。