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18 香坂瑠璃の大きな呟き

 昨日初めてチューニの中で見た隆二は、それはそれは可愛らしいお姿でした。いつもカワイイとは思っていますが、それとこれとは話が別なのです。


 フワフワした銀色の髪に、キラキラ輝くまん丸お目々。黒と白のゴシックロリータなファッションはまさにお人形さんそのもの。

 アレがパパが()()()()()用意してくれたアバターだと思うと、首のあたりがムズムズします。

 ゴメンねパパ。貴方の大切な娘はお人形さんなんか似つかわしくない、ワガママ娘なのです。その証拠に今も幼馴染みに頼んで、購買にパンを買いに行かせています。


 そんな乙女な妄想に耽りながら、私は屋上から空を見上げる。今日も雲ひとつない快晴だ。

 陽の光はなぜこうも気持ちが良いのだろうか、こんなヒネた私でも綺麗に輝かせてくれる。


 アルミの扉が開く音。どうやらお人形、もといお世話係が戻ってきたようだ。


 隆二は私の顔を見て少し驚いた様子。いつもの私はデバイスをセットした状態で彼を出迎えていた。キチンと待っていたのが意外なんだろう。


「珍しいな、今日はゲームやらないのか?」


「ゲームのやり過ぎは良くないって、隆二いつも言ってるじゃん」


「……そうだけど」


 私は彼の手にしたビニール袋を取り上げた。中にはペットボトルのお茶が二本、それと焼きそばパンとチキンサンドが入っている。


「いただきまーす」


 私は迷わずチキンサンドに手を伸ばす。袋を破いてかぶりついた。


「あっ、おいっ!」


「いただきます、言ったけど?」


「そうだけど。食べたいって言ったの焼きそばパンだろ?」


「たまには野菜食べろって言ったの隆二じゃん」


「そうだけど!」


「値段は同じじゃん」


「……そうだけど」


 隆二は疲れた顔でとなりに座ると、そのままそっぽを向いてしまった。もそもそと焼きそばパンを食べ始めたが「野菜って、レタス一枚じゃん」とかブツブツ言ってるのが聞こえてくる。


 さて隆二は何回「そうだけど」って言ったでしょうか? 心の中でクイズを出してみたりする。

 本当に隆二と一緒に居ると面白い、飽きない、楽しい、もう大好きだ!


 それに比べて他の人間ときたら、会って二言目にはゲームがどーたら、頑張れどーたらとしか言わない。

 勝手に距離を置いてイメージを押し付けて置きながら、ゲームに生きる不思議ちゃんと決めつけるの、私は良くないと思うなぁ。


 これなら相方のLEN(レン)の方が、よっぽど人間らしい会話をしてくれる。

 そう言えば隆二にもLENのようなAIがついてるのだろうか。やはりお人形さんみたいな子なのだろうか。


「もう昼終わるけど、まさか今からチューニやるのか?」


 へ?

 気がつけば私は無意識に自分のカバンからデバイスを取り出していた。うん、慣れって怖いものだね、ホント。


 どう答えても呆れた反応が返って来そうなので、ここはせめてカッコつけとこう。これでもゲームではイケメンで通ってるからね。


「まあねー、JKしながらゲームチャンプも大変なんだよ」


「……そうだよな。一応プロなんだし、色々と忙しいんだよな。先生には今日も伝えといてやるよ」


 ん? ンン〜?

 これは意外な反応が返ってきた。てっきり「たまには授業出ろ」の十八番が飛び出すと思った。

 何だい何だい、今日は随分とお優しいじゃあないかい。


 昨日は散々イケメンムーブからの王子アピールかましたんだ。トゥンクの一つでもしてくれなきゃ、誰がすき好んで運営のパシリでGM(ゲームマスター)なんてするもんかい。


「あら優しい。隆二もやっとチューニに興味を持ってくれた?」


 我ながらよく言う。


「そんなんじゃねぇけどよ。お前はお前で、俺の知らない苦労とかあるんだよなって思っただけだし。チャンプとしてのキャラ作りとかさ」


「分かってくれる?

 これでもゲームの中ではイケメン王子キャラで通ってるのよね、私」


「へっ、へぇ。そうなんだ」


 露骨に目を逸らした。相変わらず反応が素直で好感が持てる。

 私は追い討ちをかけるために正面に回り込んだ。顔を赤くしている彼の三白眼を覗き込む。

 うわぁ、実際やるとかなり恥ずかしいぞ!


「あ〜、信じてないなぁ〜」


「そっそそういうくぁワケじゃないよ」


 ちょっとあざと過ぎたかな、今日はこのくらいで勘弁しといてやろう。

 アッサリ解放してやると今までにない速さで荷物をまとめ、階段を駆け下りて行った。

 時間を測らなかったことを軽く後悔する。過去最速だったわ。


「しっかし、あの()()()の隆二がね〜」


 私はニヤニヤしながら、カバンを枕に横になる。こんな天気の良い日にゲームなんか勿体ない、昼寝に限る。


 彼がチューニに興味を持ってくれて、プレイしてくれた。それだけでも嬉しいのに、あのデバイスを使ってくれているのだ。

 これはまさか、()()()()を覚えてくれたと思っても良いんだろうか?


「アー! 待ってるぞー! ナルウゥー!

 僕のところまで登ってこーい!」


 きゃー、言ってしまった!

 誰も居ないのを良いことに、大股開きで脚をバタつかせる。下はコンクリなんで普通に痛いぞ。


 ひとしきり暴れた後、陽気に誘われ私は瞼を閉じた。


「今だったらパンツ見放題なんだけどなぁ」

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