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16 マイルームで質問責め(前編)

 飛び立つ王子を見送った後、後ろから肩を叩かれた。


「お疲れナルちゃん。今日もいろいろと教えてあげるわね」


 ニャミィさんの声色は優しく、昨日初めて会った時と同じ明るい笑顔だった。でも目が笑っていない、そこが唯一違うところだ。


「……はい、よろしくお願いします」


 激闘の後のひと波乱もあって、俺は疲れ切っていた。晩御飯の時間も迫っていたし、服はヌルヌルベトベトだ。ついでに言えば胸のドキドキも治まってはいない。

 出来る事ならすぐにでもログアウトしたい気分だった。


 承諾したのは、まだニャミィへの謝罪を済ませてないからだ。

 それに今のニャミィさんからは殺気にも似た威圧(プレッシャー)を感じる。決して断らせない強い意志が画面越しにも伝わってきた。


 場所を変えようと言われ、俺はニャミィさんの後ろをついて行く。昨日そんなことを言われていれば、鼻の下ノビノビでプリプリお尻をガン見してただろう。

 だが、今の俺には全くそんな気にはなれなかった。


 神殿からいくつかゲートを経由したが、道中のことはよく覚えていない。ロビーに定期的に置かれた灯りが眠気を誘う。疲れと緊張の板挟みの中、俺たちは終始無言のまま歩いた。


「どうぞ、中に入って。テキトーに座ってくれるかしら?」


 最後のゲートを抜けた先で、見知らぬ部屋に通される。

 初めて入ったその部屋は音楽室みたいな所だった。三方の壁には音を逃す穴がびっしりと開けてあり、残りの壁は一面に鏡が貼ってある。

 中央には木製の長机とパイプ椅子、壁際にはピアノと飾られた何本ものギター。他にも部屋のスペースの半分近くを楽器や音響機材で埋め尽くされていた。

 ニャミィさんの趣味だと思うが、とにかく物で溢れていて準備室や倉庫と言った方がしっくりくる。


 初めて神殿を訪れた時のようなエリアの表記がない。一体どこに連れてこられたのだろうか?


「ここは私のマイルームよ」


 俺の疑問を察してか、パイプ椅子に腰掛けながらニャミィさんが答えてくれた。


「マイルーム、ですか?」


「そうよ、ゲーム開始時にプレイヤー一人一人に与えられるの。まぁ、知ってるかもしれないけど」


 いや、知らない、初耳だ。それにしてもチューニはつくづく説明が雑だと思う。オンラインなんだから、分からない事は他の人に聞けということか。


 立ったままなのも変なので、俺もパイプ椅子に腰掛ける。長机を挟んで、ニャミィさんは俺の瞳を無言で見つめた。


「これからキミにいくつか質問するけど、全部正直に話してちょうだい」


「わかりました」


 背筋を伸ばして若干押され気味に答える。ニャミィさんは怒ってるというよりは、疑っている様子だった。

 俺は自分の頬を両手で叩き、眠気を飛ばす。


 俺としても疑問に思うことは山ほどある。目下最大の謎は自らを人工知能と名乗るNALのことだ。ニャミィさんならゲーム内でのAIとか見慣れない端末のことを知っているかも知れない。


『何か御用でしょうか(マスター)


「呼んでねーから、出てこなくていいから!」


 反応したNALに思わず叫んでしまった。実体がないと分かっているが、つい天井を見上げてしまう。

 ハッとして俺はすぐに視線を下げたが、遅かった。


「静かにして! もうそういうキャラ付け辞めてちょうだい」


 ニャミィさんに叱られてしまう。

 これから腹割って話そうという時に、いきなり叫ばれたのだ。ニャミィさんの怒りももっともだ。

 でも怒られた理由が斜め上過ぎて思わず聞き返してしまった。


「キャラ付け、ですか?」


「そうよ、今日の一件でピンときたわ。キミ、サブアカウントでプレイしてるんでしょ」


 言葉の意味がいまいち理解できない。今日の一件というのは、おそらくゲス男を指しているのは分かる。それがどうして俺がサブアカウントという話に繋がるのだろうか。

 俺が黙ったままなのを見かねて、一呼吸置いてからニャミィさんは説明してくれた。


「こういうゲームだからたまに居るのよ、深くキャラにのめり込む人が。楽しみ方は人それぞれだしそれ自体は別に良いのよ。

 ただ、初心者だと思って対戦してたら『仕方ない、アレを使うか』とか『これ以上は、腕の封印が解ける』とか言っていきなり本気出す人が結構居るのよ」


 あー、そういう理由か。気持は分からなくもない。


「それで話を聞いてみると、みんな他にメインキャラが居るの。初心者が驚くから他所のエリアでやるように毎回注意するんだけど、中々減らなくて」


 ハァとニャミィさんは溜め息をつく。そういう事情なら、俺が演技をしてると疑いもするだろう。素人の初心者が不思議な力で覚醒、暴走。よくある少年漫画的展開だが、男の子なら誰しも憧れるシチュエーションだ。


「普段なら部屋まで来て説教はしないんだけど……『悪質プレイヤー』呼ばわりは、ちょーっと我慢ならなく思ってねぇ」


 あっコレはいけない、ニャミィさんかなりキテるわ。さっきから溜め息多いし、質問というよりは愚痴しか言ってなくないか。

 精一杯笑顔を崩さない様にしてるが唇は震えてる。ストレス爆発の限界は近そうだ。


「対戦中にカード内容書き換えるとか、トップランカークラスの腕前だし。

 それにそのヒラヒラした服よ。まさかナルちゃん、リアルの知り合いじゃ無いわよね? 一人だけ心当たりがあるけど違うわよね?」


 ニャミィさんの目が座っている。ついには服がどうとかとんでもないことを言い出した。話が変に拗れそうなので、俺は慌てて否定する。


「正真正銘、俺は昨日始めたばかりの初心者ですよ。その証拠にあの剣以外は最初に貰ったカードしか使ってないし。他の初心者に連敗するのニャミィさんも見てたでしょ?」


「見てたけど、途中からのあの強さはとにかく異常よ。初心者の動きじゃないわ」


 確かにそれは否定できない。ここまで不信感を持たれてしまったら、いっそ全てをニャミィさんに話しても良いかもしれない。

 もともと謝るつもりだったし、正直に答えろとも言われている。


「分かりました……」


 そう前置きすると、俺は手に入れた端末と人工知能について口を開いた。

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