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15 王子=チャンプ=???

 少女漫画などには縁のない俺だが、空から降ってきたソイツは王子様という他なかった。


 男とか、金髪とか、マントとか、純白で金の装飾のついた服とか、それらの情報を統合しての第一印象。なぜか腰につけた幅広ベルトだけは黒かったが、そこを差し引いても十二分に絵本の中の王子様だった。


 突然のことにボケっとしてると、王子は真っ先に俺のもとに駆け寄った。跪く(ひざまず)と心配そうに顔を覗き込んでくる。


「遅れてゴメンよ。怖い思いをさせてしまったね」


 王子は微笑みながら俺の頭を撫でる。べたつきが残る銀の髪を、慈しむように掬いあげた。

 マントを外して俺の肩にかける。汚い緑が純白を穢すが、構わないといった風だった。


 何だよこのイケメン。

 俺の中の何かが目覚めそうになり、慌ててマントで顔を覆う。

 なんだかポカポカするぅ〜。

 じゃなくてぇ。いい加減にしろ、俺!


 俺がマントごと頭を抱えて苦悩する中、王子は周囲の人達に呼びかけた。


GM(ゲームマスター)として悪質プレイヤーの通報を聞いて来ました、レンツェンです。通報者の方はこの場に居らっしゃいますか?」


「はい、私です」


 名乗り出たのはニャミィさんだ。俺はマントから顔を出して二人のやり取りを眺める。

 同じ金髪でも二人の印象は随分と違う。肌と同様にしっかり色付けされた人工的なニャミィさんに対して、まるで綿あめみたいに毛先の細い王子の金髪。細身の体と中性的な顔立ちも相まって、儚げという言葉がよく似合う。


「待って下さい、運営さん。俺は……って、アンタはっ、ええええええ!」


 間に入ったゲス男だったが、王子の顔を見るなり飛び退いて土下座した。やはり王子、ただのゲーム内キャラでは無いようだ。

 それにしてもバックジャンプ土下座とは動きのキレがハンパない。中身はクズだが真面目に戦えばかなり強いだろう。


「悪質プレイヤーのメインアカウントを特定しました。みなさんご安心ください、これよりこのプレイヤーのアカウントを削除します」


 ゲス男に構わず、王子は高らかに宣言した。


「……ちょっとそれはあんまりですよ、チャンプ」


 ゲス男はあくまで仮の姿、他にメインのキャラが存在するわけだ。現代服のアバターにスライム五体のカード構成。悪趣味なネタなのは簡単に察しが付く。


 アカウント削除の仕打ちはクズ男の予想を超えてたらしい。サングラスの上からでも分かるくらい顔を青白くさせている。

 ついには気が動転してしまったのか、無謀にも王子の脚にすがりついた。


「反省してるんです。本当なんです。撮ったスクショも全部消しますからぁ」


「言いたい事はそれで全部か?」


「え?」


 冷淡な視線と言葉がサングラスに反射する。

 ガシッとチャラ男の腕を掴むと、王子は力任せに空へと投げ飛ばした。綺麗な一本背負いだ。


「これまでの御愛顧、ありがとうぅございましたあぁ!」


 感謝の言葉を投げかけられながら、ゲス男は神殿の空へと消えていった。


 華奢で温和な姿からはとても想像出来ない怪力。そしてアカウント削除は物理的に行うものだという衝撃。

 この王子様、規格外過ぎる。


「初心者エリアの皆様、大変御迷惑お掛けしました。Sランクプレイヤー、レンツェン=フォン=ヒンデンブルグ。運営に代わりましてプレイヤーの方々に謝罪申し上げます。

 この後もカオス ヒーロー ユニヴァースをどうぞお楽しみ下さいませ」


 右腕を大きく降って仰々しくお辞儀をする、そこに嫌味や不自然さはない。その軽やかで無駄のない動きに見とれてしまう。彼の持つ清らかなオーラに手慣れた仕草、そして神殿というこの場がより一層王子の魅力を引き立たせていた。


 うおおおおおおお!


 一瞬の後、鼓膜を破りかねないほどの歓声が沸き起こる。確かにカッコイイのも分かるし、只者じゃないのも分かる。

 でも一番カラダ張ったのは俺じゃないか。美味しいトコを持ってかれた事実に俺は口を尖らせた。


 王子は祭壇の上に飛び乗ると、笑顔を振り向きながらモブ兵共に手を振っている。


 チャッンプ! チャッンプ! チャッンプ!


 歓声はいつしかチャンプコールに変わっていた。クズ男も死ぬ間際にそんなことを言っていた気がする。

 つまり王子がこのゲームの最強プレイヤー。どうりでアイドル顔負けの人気があるわけだ。


 そんな不満に耽っていると、偶然チャンプと目が合った。その途端、春の風のように柔らかな微笑みを投げかけられる。


 えっ、何、なんなのさっきから。

 頑張った俺を褒めてるの、俺に気があるの、王子ロリコンなの?


 疑問が湯船の泡のように尽きることなく湧いてくる。顔が熱い、どうにも王子の顔を見てるとコッチまで調子がおかしくなる。

 何か変だ。俺実はソッチのケがあるのだろうか……


 王子は適当なところでサービスを切り上げると、膝を深く曲げて()()の姿勢をとった。そして一気に力を解放すると、元来た穴から青空へと飛び去った。

 俺も他のプレイヤーがそうした様に穴から空を覗き込んだが、照りつける太陽しか見えなかった。


「チャンプ……チャンピオンか」


 ん? ここでひとつ、俺は世にも恐ろしい方程式を思いついてしまった。


 今しがた会った王子様はチューニ最強プレイヤー、所謂チャンプだ。

 そして俺の幼馴染みで片思いの相手、香坂瑠璃もチューニの現役JKチャンプとして一部で有名らしい。


 つまりだ。

 王子=チャンプ=瑠璃 と言った構図が成り立つのではないか。

 Q.E.D 証明終了。


 その結論に辿り着いた瞬間、俺の顔は火が出るほど真っ赤になるのだった。

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