14 鞭刃炎風 王子降臨
「ひい、ふう、みい……」
俺は人差し指でスライムを一匹づつ数える。全部で五匹、思った通りだ。
「おい何の真似だ、舐めてるのか」
苛立つゲス男の左頬には縦にザックリと傷が刻まれている。先程NALさんが鞭刃でつけたモノだ。横にもつけて十字にしたら、少しはマシな顔になるんじゃないか。
不思議な事に傷口からは出血していない。ゲームでの表現規制だろうが、傷の中の肉がモロ見えなのは問題無いらしい。
「舐めた真似はどっちだクズ野郎」
五枚全てが【スライム】とか、ふざけるにも程がある。ココで悪さする事しか頭にないカード構成だ。
俺は改めて端末からカードを引いた。鍔をスライドさせてスリットを露出させる。
「最期だから聞いてやるよ。今謝って降参したら特別に許してやる」
「それはコッチの台詞だ! 囲まれて逃げ場が無いのはお前だろうがっ。もっとも俺は、謝っても許すつもりはないけどなぁ!」
「OKOK、安心した。言質取れたから、心置きなくお前をボコれるぜ」
「行けぇスライム、押しつぶせ」
ゲス男の掛け声で五匹のスライムが一斉に襲いかかる。
「鞭刃形態ーーフレイムエッジ!」
【ファイヤーボール】カードを挿入し、しなる剣身に火を灯す。これが俺の策だ。物理で足りないなら炎を足せば、良いんだよぉ!
片足を軸に回りながら、炎の鞭を振り抜いた。回転数に比例してスピードも増して行く。
流石はゲーム、バレエ未経験の俺でも余裕で白鳥だ。いや黒服だから黒鳥か。バランスを崩すこともなければ、酔うこともない。
昔流行ったベーゴマアニメ宜しく、火花を飛ばしてゴスロリが舞う。
刃に触れて散った粘液は、地面に雫を落とす事なく霧散する。
五匹のスライム供は触れたそばから蒸発し、後には色味がかったモヤだけが残った。
このゲームはイメージこそ力、小学生並みの発想の勝利だ。
「火っ火!? ひひいいいいぃ」
情けない声を上げながらゲス男は尻餅をつく。
さあてここからがお仕置きタイムだ。とは言っても、俺はコイツとは違って無駄に相手を痛めつける趣味はない。剣でぶっ叩いたら御仕舞いだ。
鞭形態を解除して俺はゲス男に歩み寄る。
相手は目に涙を浮かべながら、端末をガチャガチャ弄っている。しかし悲しかな、カードが出てくる気配は無い。
スライムを再召喚するにはまだ時間がかかりそうだ。
「一度に出し尽くしたのがお前の敗因だな」
「ごごごめんなさい、もうしません。降参しますからぁ」
とうとう土下座までし始めた。もちろん俺は許すつもりはない。
剣を両手で握り真上に振り上げる。
その瞬間、突如上方から轟音が響き渡った。その勢いは凄まじく、外は青空のはずなのに思わず落雷と錯覚してしまう。
いっけね、ついメビウスに力入れ過ぎちった。
勝利の余り、調子に乗った考えが頭をよぎる。しかし目の前に何かが落下してきて俺は腰を抜かした。どうやら神の怒りに触れたようだ。
落ちたのはちょうど俺とゲス男の間、俺の眼前は土埃にまみれる。
神殿の床が割れているのが辛うじて見えた。とんでもない衝撃だ、足元にまでヒビが伸びている。
屋根が崩れたと思い首を上に傾ける。空にはサンサンと輝く太陽があり、目があった俺は眩しさで顔を背けた。
なんで屋根があるのにこんなに眩しいんだ?
手で影を作り目を凝らす。
神殿の屋根には綺麗にポッカリと穴が空いていた。そこからちょうど陽が差し込んでいる。幸い屋根にもヒビは入っていないし、穴の他に異常は見られない。
それでも危険な事には変わりないだろう。
というか「初心者エリア」なのに毎日事件が起きている。このゲーム、説明不足なのも含めて初心者に厳しすぎではないだろうか。もっとも俺も犯人の一人なので深くは突っ込めないのだが。
では一体何が落ちてきたのか。
巻き上がった土埃が徐々に晴れる。
割れた床と共に現れたのは、驚いた事に王子様だった。