13 多重兵装剣 コスモ・メビウス
来たのか、暴走モード!
アナウンスを聞いて俺は直感した。本来なら忌避すべき存在だが、この際背に腹はかえられない。
地獄に仏とはこの事か。いや、鬼の方が合ってるか。
『私は人工知能NAL。仏でも鬼でもありません』
マジかっ! 俺は驚愕した。俺の思考に反応したのだ。
声を聞くのは二度目だが、コミュニケーションを取ったのは初めてのはず。成長してるとでもいうのだろうか、人工知能は伊達じゃないらしい。
NAL、ピンチなんだ。
口が動かせないので、意識だけで助けを求める。やり取りは脳内会話でも問題は無いはず。
『畏まりました主、その為のNALです』
よおおし!
俺は心の中でガッツポーズした。昨日のオートモードなら、こんなスライムゲス野郎を瞬殺出来る。
しかし喜びも束の間、NALは驚くべき事を告げて来た。
『その要望にはお応えできません』
そうこうしている間にも、ゲス男は脚の間に顔を近づけてくる。スカートの中はスパッツ? だかを履いてたはず。それでも、パンツじゃないとは言えガン見されるのは気持ち悪いなんてもんじゃない。
「じっくり見た後匂いも嗅いで、スクショも撮らなくちゃ」
うわあああああ、最悪だぁ。
でも匂いってスライム臭しかしないよねぇ?!
『前回のログインにおいてアバター主導権の主への移行時に、適切な終了プロセスが行われませんでした。よって命令を拒否します』
昨日の端末抜き取りの事を言っているらしい。ならば別の手は何かないのか。
『レクチャーモードを起動します。ゲームについて何か質問は御座いますか?』
質問とか悠長な事言ってんじゃねぇ!
こちとら公衆の面前で絶賛M字開脚中なんだよ。今すぐ身体を自由にしやがれ!
『了解しました。【多重兵装剣コスモ・メビウス】の機能について、説明を開始します』
アナウンスが終わると、剣を握る手が凄い勢いで捻り始めた。身体の一部をNALが操作してくれるらしい。
このままNALが大活躍して、俺も手のひら返しをしたいものだ。
『【コスモ・メビウス】ーー鞭刃形態』
僅かな振動と共に剣が伸びる。ドリルの様に持ち手を回すと、拘束していた三匹のスライムを弾き飛ばした。
「ゴバアッ、ゴホッゴホッ」
口に残った粘液を吐き出し、思い切り深呼吸する。手足が動くことも確認すると仰向けのまま全力で後ずさった。
「貴様何をした? それに、よくも僕の顔を」
ゲス男は顔の左側を手で覆いながら、片目で俺を睨みつける。NALの攻撃はスライムだけではなく、ゲス男の顔も傷をつけたようだ。ザマアミロ。
呼吸を整えて立ち上がる。そこで俺は形状が変化した剣を改めて見た。
例えるならばカッターナイフ。刃を溝に沿って一つづつ折った後、太いワイヤーで繋ぎ合せた感じだ。
なんか漫画でライバルキャラが使ってそうだな。刃がついているが、鞭に見えなくもない。
『チューニ内部のオブジェクトは全てイメージによって形作られています。プレイヤーのイメージひとつで武器の形状、性能、重さも自由に設定することが可能です』
成る程。確かに大きさや硬さの割に、この大剣は随分と軽く感じる。
『特に【多重兵装剣 コスモ・メビウス】は、主のイメージを具現化することに特化しております。
状況に応じて武器を切り替える快感を、カードリンクシステムによる他のカードとの連携をどうかお楽しみ下さいませ』
「つまりイメージすればその通りの武器に変形出来るってことなんだな?」
『左様で御座います。他に質問は御座いますか?』
「いや、ありがとうNALさん。ここからは俺の力でやってみせる」
話してる間にも飛び散った破片は元に戻ろうと蠢いていた。形を取り戻した三匹のスライムは、再び俺に襲いかかる。
『畏まりました。主に勝利を』
「おう!」
ライフルのイメージが曖昧だったから最初の変形に戸惑った。想像するんだ。鞭の軌道を、剣の切れ味を。
敵を倒す、俺の姿を!
思うまま刃の垂れた剣を横に薙ぐ。メビウスは俺の手の動きに追従しながら、迫るスライム供を両断した。
まるで意思を得たかのような滑らかな動き。
俺が手首を返すと、鞭のようにしなりながらスライムを解体する。残ったヤツも空中で刃を躍らせながら粘膜の破片へと変えていく。
「クソッ、斬っただけじゃスライムは倒せないぞ」
ゲス男も焦り始めたようだ。集中してるせいか声がどこか遠くに聞こえる。
敵を倒す姿をイメージする。
姿が鮮明である程、よりクリアにその光景を映してくれる。自分の思う戦いを描き出してくれる。
これがチューニの戦い方なんだ。
「手こずらせやがって。これで終わりだ!」
ゲス男の叫び声と、視界が青緑で染まったところで俺は意識を引き戻された。
周囲をスライム達に囲まれている。そういえば剣では倒せないって言ってたっけ。コツを掴んでつい夢中になり過ぎたようだ。
目を血走らせながらゲス男が叫ぶ。
「さっきよりも恥ずかしいカッコさせてやるよ。全年齢の限界に挑戦してやる!」
後半の言ってる意味はよく分からないが、またヤラシイ目に合わせる気なのは確かだ。
同じエロでも、キモいよりはストレートに欲望をぶつける方が素直でよろしい。
物理は効かなくても策はある。
ジリジリとスライムが迫る中、それでも俺は負ける気がしなかった。