12 スライム
スライムと言う名のモンスターがいる。
日本人がモンスターと聞いてまず思い浮かべるのが、おそらくコイツだろう。それくらいメジャーな存在だ。
俺の目の前にそのスライムが姿を現した。チャラ男がカードから呼び出したのだ。
アバターが兵士や魔法使いの姿なら、まだ相手の出方を予想出来る。だがチャラ男はシャツにジーンズと、VRゲームの中とは思えない普段着姿だ。
スライムを戦わせる以外はまったく分からない。しかも相手は経験者だ。
俺が不安を感じる中、全身青緑色をスライムは呑気に体を震わせている。
チャラ男を見たが棒立ちのまま動こうとしない。ゼリー状のモンスターを眺めているだけだ。
器用に身体を揺らしてようやくスライムは動き出しても、チャラ男の様子は変わらない。
スライムに余程の自信があるのか、それとも俺を相手にも思わないのか。
恨み言を吐かせる程に怒らせたんだ、何か作戦があるのは間違いない。かと言って俺も様子見に徹するつもりはない。
「【コスモ・メビウス】!」
剣のアイコンからカードを引き抜く。出来ることなら二度と見たくなかった白銀の大剣。中央の玉は昨日と変わらず煌々と輝いていた。
「シューティングモード」
俺は後ろへ下がると、横にした剣を抱えるように持ち直す。
神殿を文字通り火の海に沈めたマグマの一撃。早々にコイツを打ち込んで、チャラ男もスライムも消滅させてやる。
俺は意気揚々とドローした。もちろん引いたカードは【ファイアボール】だ。
「んぁ? あれ」
ここで思わぬトラブルが発生した。剣が変形しないのだ。不思議に思って傾けたり返したりしてみたがボタンの類は見つからない。
「おかしいな。確かココがガーッて開いて、持つとこが確か……」
ヴィィィン、ガシュウウ。
やっと動き始めた。なんだか昨日と比べて反応が遅くないだろうか。
「バカだね、君は」
ようやく変形が終わるや否や、チャラ男の声が耳に入る。首を上げるとちょうど俺の方へカードを投げるのが見えた。
「しまった!」
反応が遅れた。そう思った時には既に、俺の足元にカードが置かれていた。神殿の床から青緑色の塊が噴き上がる、新しいスライムだ。
「初心者なら接近してくると踏んでたけどね。君、武器は立派だけど使いこなせてないんじゃない」
俺の身体は、あっという間にスライムに押し潰されてしまう。首と手足だけはかろうじて外に出ているが、身体の自由はほとんど奪われた状態だ。
このまま全身を体内に取り込まれると覚悟した。しかし不思議な事にスライムは、溢れた水みたく神殿の床の上に拡がって行く。
重さからは解放されたが、身体は未だに動かせない。スライムのゼリー部分はかなり粘っこい性質のようだ。
そんなゴキ◯リホイ◯イ状態な俺に向かって、チャラ男が悠々と歩いてくる。
その傍らには二匹のスライム。また新しく呼び出したようだ。
一体スライムのカードを何枚持ってやがんだ!?
「いつ見ても良い眺めだねぇ。これから君のカラダで楽しませてもらうよぉ〜」
初めからこれが狙いだったのか!
相手の顔は全く見えない。しかしチャラ男がゲスい表情してるのは、声を聞いて簡単に察しがつく。
「こんのゲス野郎」
二匹のスライムに両脇から挟まれ、徐々に脚が広げられていく。
せっかく作った初心者のアバターに対して、コイツは今までこんな勝ち方ばかりしてきたのだ。例え中身がオッさんだとしても、そのトラウマは計り知れない。
「もういいわナルちゃん、降参して!
運営には前から通報はしてたし、キミがこれ以上酷い目に遭う必要なんて無いよ」
ニャミィさんの悲痛な叫びが神殿内にこだまする。見守るモブ兵達も落胆した様子だ。
コラそこっ! ゲス男の後ろに回ってスカートの中を覗くんじゃない!
ニャミィさんにそこまで気にかけてもらえて俺は満足だった。謝りに来て良かったと心底思う。
「でもこの戦いだけは、絶対に、負けらレガゴブッブフ」
口の中に粘り気のある液体が流し込まれる。色からしてスライムだ。鼻からも侵入してくるが、ゲームの中なので呼吸には問題ない。
それでも口内をうねる、べとつく感覚は気持ちが悪くて仕方がない。ドブ川みたいな色も合間って吐き気が込み上げてくる。俺は涙目になりながらもゲス男を睨みつけた。
奴は俺の顔と股間を股間を交互に見ながら、満足したように唇を舐める。
それが堪らなく悔しかった。
降参も封じられた俺にとって、出来る事はほとんど残されていない。後は剣に戻ったメビウスを握るくらいか。せめてこれが、大剣じゃなくてナイフだったらまだ抵抗出来たかもしれない。
チックショウ!
認めねえぞこんなの、ふざけるな!
勝ちたい、勝ちたい、勝ちたいっ!
『勝利への欲求を確認』
その時、俺の頭にアナウンスが流れた。




