最初の・・・。
ラストに15禁あります。
土曜日。育美は予定の時間より十分も早く着いた。
ファーのついた黒のジャンバーに白のタートルネックにジーンズ木地のスカート、その下は黒のタイツに白いブーツ。前回のデート同様、育美は派手な格好で決めてきた。
十分後、駅のホームの向こうから、千里が大急ぎでやってきた。黒いTシャツに赤いジャケット、白いズボンにスニーカー。前回同様、いつもの千里の姿がそこにあった。
「ごめんね、遅くなって。」
「ううん、私もさっききたところなんだ。」
前回同様、育美の嘘は相変わらずだった。
「千里行こ。もうすぐ始まるよ。」
育美は千里の前に手を差し伸べた。千里はちょっと躊躇ったが、すぐにその手を握った。二人は、手を握りながら映画館へ向かった。
二時間後、二人は映画館をあとにして、近くのカフェでお茶していた。
「本当にあれ面白かったよね。」
千里は、クリームソーダを飲みながら言った。
「本当だよね。私ラスト泣きかけた。」
育美はブルーベリームースを飲みながら言った。
「この後どうする?まだ時間あるけど。」
「じゃあ、あそこ行っていい?」
二人は会計を済ませると、二人は千里の言うあそこへ向かった。
「ここって・・・。」
「そう、パラダイスランドだよ。」
二人が立っている所は、カップルに人気のパラダイスランドだった。
「千里もしかして、あの話聞いてたの?」
「うん、実は・・・。」
2ヶ月前、育美は真奈美達と恋について話していた。その時に、パラダイスランドの話が出てきたのだ。
「恋が実るパラダイスランド!?」
当時彼氏がいなかった育美が敏感に反応した。
「そう。そのパラダイスランドで片思いの子が行くと両思いになれて、両思いの子が行くと恋が進展するんだって。」
「いいなぁ。私も行ってみたいなぁ。」
「無理無理。育美が行っても意味ないって。」
「ちょっと加奈。ひどすぎるよ。」
「あの話、信じてたんだね。私、冗談のつもりだったのに。」
「俺、育美さんと付き合ったら、絶対ここに行こうって決めてたんだ。」
すると、千里は、育美の手を引いた。
「行こう、育美さん。」
「・・・・育美って呼んでくれたらいいよ。」
「・・・・行こう、育美。」
「うん、行こう。」
二人は、手を繋ぎながら、パラダイスランドの中に入って行った。
二人は、ジェットコースターとカーレースに二回ずつ乗って、コーヒーカップでぐるぐる回し過ぎて気持ち悪くなったり、お化け屋敷でギャーギャー叫んだり、メリーゴーランドで同じ馬に一緒に乗ったり、子犬ランドで子犬と戯れたりした。
「こんなに遊んだの久しぶり。楽しかったね。」
「うん、すごく楽しかった。」
二人は、園内のカフェでチョコアイスを食べていた。
数分後、二人はアイスのコーンを綺麗に食べ終わると、ゴミをゴミ箱に捨てた。
「次はどこに行く?」
「そうだなぁ・・・。」
二人はどこに行こうか悩んでいた。その時、
「ガッシャーーン。」
店内で何かが割れる音がした。二人は入り口の壁から中を覗くと、店内は何やら騒がしいことになっていた。
「何だ。この不味いスープは!こんなの飲めるかよ。」
どうやら、店で食事をしていた若い男三人が、料理が不味いと文句を言っているらしい。
「申し訳ございません。すぐに代わりのスープをお持ちしますので。」
「はぁ!?こんなスープ作る暇があったらとっとと店畳みやがれ!!」
男は持っていたスープの器をウェイトレスの女の人に投げつけた。
「きゃあああああ。」
熱いスープが女の人の体や顔にかかった。男達がゲラゲラ笑っていると、女の人は泣きながら割れた器を片付けていた。それを見て、二人は黙ってはいられなかった。
「ちょっとあんた。いい加減にしなよ!!」
最初に男達に詰め寄ってきたのは育美だった。小さな体で、大柄な男達に立ち向かう育美は、何かカッコよかった。
「お前誰だよ!勝手に首突っ込んで来るんじゃねえよ!!」
「そんなのどうでもいいでしょう。そんなことより、男三人が女一人をいじめるなんて最低。謝りなよ!!」
さすが育美。男三人に対して怖がるどこか、怠慢を張ってきた。
「うるせー!ガキが割り込んで来るんじゃねえ。」
背の高い金髪の男が、育美の胸ぐらを掴み、壁に投げつけた。
「痛ったー。」
育美は、壁に投げつけた拍子で足首をひねった。
「おい。お前達いい加減にしろ!!」
それを見て、千里がキレた。
「はぁ!?お前も怪我したいのか!?」
ブチキレた男が、千里の胸ぐらを掴もうとしたその時、
「バシャーーー。」
さっき怪我をした育美が、大きなバケツの水を男達にぶっかけたのだ。
「いい加減とっとと帰りやがれ!そして二度とその面見せんじゃねえ!!」
さすがの男達もこれには参ったのか、何も言わずすごすごと帰って行った。
「ありがとうございます。私、恐くて何もできなくて。」
「いえ、私は何も・・・痛っ!!」
育美は、足首をひねってたのを忘れてたため、怪我が更にひどくなったらしい。
「大変!早く医務室へ。」
女の人が、育美を担いで医務室へ向かった。
「大丈夫、育美?」
「平気だよ。それより千里、私重くない?」
「前にも言ったじゃん。育美は軽いって。」
その事件から三十分後、千里は怪我をした育美をおんぶして園内を歩いていた。
「ねぇ、観覧車乗らない?千里おんぶして疲れたでしょ。」
「うん、いいよ。」
二人は観覧車に乗った。数分ぐらい二人は黙っていた。すると、
「育美、ごめんな。俺、育美のこと守れなくて。」
「千里は悪くないよ。ただがむしゃらにぶつかってった私が悪いんだから。」
すると、千里は育美の手を握った。
「俺、弱いけど絶対育美のこと守ってやるから。もう絶対育美を怪我させないから。」
「・・・・千里は十分強いよ。」
すると、千里は育美に近づき、そっと育美にキスをした。育美は突然の出来事に目をぱちくりした。数分間、二人はずっとそのままだった。すると、千里の唇が離れた。
「これ、初めてだよな。」
「うん・・・・。」
こうして、二人の初めてが幕を閉じた・・・。