僕達のできること
「エエッ!育美と桜井君付き合うことになったの!?」
「うん、そう。」
昼休み、育美は真奈美と加奈と亜美の四人でトランプをしていた。彼氏の千里は、剣道部で話し合いがあるため、一緒にはいないのだ。
「でも、育美が桜井君と付き合うなんて信じられない。」
「そうそう、育美と桜井君って何か住む世界が違うっていうか、釣り合わないんだよね。」
加奈も亜美も、いろいろ言いながら、トランプを進めていた。その度に育美は、グサグサと傷ついていた。まるで、ナイフで串刺しにされた気分だ。
「まぁまぁ、私は育美が誰と付き合ったって賛成するよ。だって恋愛は人の自由なんだもん。・・・・・はい、あがり!」
真奈美はババ抜きからあがると、小走りで教室を出て行った。
「あれ。真奈美、もっとやろうよ。」
「ごめん、そこで彼氏が待ってるんだ。」
育美達三人は一斉に廊下を覗いた。すると、真奈美の隣に背の高い男子がいた。そいつが真奈美の彼氏だ。 彼氏の名前は、須藤孝太郎。
一学期半ばに真奈美が告白し、そしてOKをもらったのだ。
背は高くて髪を金色に染めていて、腕にはたくさんのブレスレットを付けていて、ワイシャツのボタンを三つも外していて、腰パンもしているチャラ男だった。真奈美が言うに彼は、幼なじみらしい。
「孝太郎君ってかっこいいよね。」
「うん、なんか二人ってお似合いだよねぇ。」
確かに。育美のクラスで一番美人の真奈美とイケメンの孝太郎はまさにベストカップル賞受賞ものだ。育美はちょっぴり悔しかった。
五時間目は英語だった。教師は授業中喋りっぱなしの遠藤だった。
育美は、むちゃくちゃやる気がなくて、教科書とノートを開いたまま頬杖をしてぼーっとしていた。すると、
「ポトッ」
育美の机に四つ折りにした紙が落ちてきた。差出人は千里だった。
「今日部活何時に終わる?」
育美は、紙の空いてるところに返事を書いた。
「えーと、五時に終わるよ。」
すると、またすぐに紙がきた。
「放課後、若葉公園に来て。」
絵のないシンプルな手紙だった。育美は、隣にいる千里の方を見た。しかし、千里は授業に集中していて、とても話しかける状況じゃなかった。育美は、ひたすらぼーっとして五十分間の長い時間を過ごした。
放課後。育美は、部活が終わると急いで着替えて若葉公園へ向かった。 学校から走って五分。育美はようやく、若葉公園に着いた。若葉公園とは、タコ入道滑り台やカンガルーブランコと言った、ちょっと変わった遊具のある公園だ。
「千里、どこにいるのかな?」
育美は、公園の周りを見回していた。すると、
「ピリリリリリッ」
突然、育美の携帯電話が鳴った。育美は、ポケットの中から携帯電話を取り出し、折り畳み式の携帯電話の画面を開いた。するとそこには、
「カンガルーブランコにパン屋到着。」
と書かれていた。
育美は、カンガルーブランコの方を向いた。すると、三つ並んでいるブランコの真ん中にパン屋の袋を持った千里がブランコに座っていた。
「千里ー。」
育美は千里の名前を叫びながら走ってきた。
「育美さん、ごめんね。こんな所に呼び出して。」
「いいよ。千里が周りの目を気にするのは無理ないよ。それに、私この場所好きなんだ。たくさん遊具はあるし、穏やかで静かで。」
育美は、千里の隣のブランコに座りながら言った。
「はい、これ育美さんの好きなイチゴチョコチップパン。」
千里は育美に、ビニール袋に入った小さなパンを渡した。もっちりとしたパンにイチゴジャムとたっぷりのチョコチップがかかった、育美の大好物のパンだ。
「わぁ、ありがとう。私これ大好きなんだ。」
育美は、ビニール袋からパンを取り出し、パンを一口かじった。
「んー。おいしい。」
千里は、育美が食べたのを確認すると、千里は自分用に買ったブルーベリーパンをかじった。
「育美さん、来週の土曜日空いてる?」
「うん、空いてるよ。」
育美と千里は、パンをかじり、小さいペットボトルに入ったレモンティーを飲みながら言った。
「あのさ、土曜日一緒に隣町の映画館行かない?そこで『チロルの大冒険』って映画がやるんだ。」
『チロルの大冒険』とは、弱虫な主人公チロルが、強くなるために遠い町に住む女の子を探す旅に出るというファンタジー物語だ。
「うん、見る見る。私あれ見たかったんだ。」
「本当!?じゃあ、土曜日駅前のカフェで待っててね。」
そういうと千里は、電車の時間だからと言って袋を持って公園を出て行った。
「千里ー。パンありがとうね。」
育美は、後ろ姿の千里に叫んだ。千里は、帰りながらあることを考えていた。自分が、彼氏としてできることを・・・。