長い一日のデート〜午前、かなり進展編〜
午前八時三十分、緑ヶ丘駅噴水前。
「あ〜。やばい、緊張する。」
動物噴水にある亀の石像のところで、育美は時計を見ていた。ファーのついた白のロングジャケットに黒のキャミソールと赤のキャミソールが一緒になったトップスに焦げ茶色の短パン。その下はハイソックスに赤の水玉のミュールを履いていた育美は、ひたすら千里を待っていた。
そして十分後、育美が携帯をいじりながら待っていると、
「育美さん。ごめん、遅れちゃって。」
黒いジャンパーの下には白いパーカー。ジーンズに白い靴の千里が、小走りでやってきた。
「ううん。私も今来た所なんだ。」
嘘。育美は、今日が楽しみでここに三十分以上もいたのだ。
「ねぇ、これからどこ行く?」
「俺は育美さんが行きたいって言うならどこでもいいよ。」
曖昧な答えだ。でも尽くされる気分はなんかいい。
「じゃあ、すぐ近くの雑貨屋行こう。そこ可愛い小物がたくさんあるんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、行ってみよう。」
二人は雑貨屋まで同じ歩幅で歩いた。ここで手を握りたいところだったが・・・やめた。
五分後、二人は雑貨屋に入って行った。ここには、クマやリスの絵が描かれたカップやビーズで飾った写真立てなどが置いてあった。
「ねぇ、これ可愛くない?」
育美は千里に、水玉模様のカップを見せた。
「可愛いね。あ、これも可愛い。」
千里は、豹柄のクマのぬいぐるみを育美に見せた。
「可愛いね。あ、このウサギもいい。」
二人はこんな会話が十分続いた。そのあと、二人はお店の中をぐるぐる回った。すると、育美は、シルバーのアクセサリーが並んだ棚の所で足が止まった。
「育美さん、どれが可愛いと思う?」
「えっ、えーと・・・あ、これ可愛い。」
育美は、千里にそう聞かれ、一番端っこにある四つ葉のクローバー模様のペアリングを指差した。すると、千里はそのペアリングを持ち、
「買ってあげるよ。」
と言ってきたのだ。
「えっ。そんな悪いよ。私、可愛いなぁって思っただけだから。」
「いいよ、俺今日けっこうお金持ってきたし。」
そういうと千里は、ペアリングをレジの所へ持って行ったのだ。
育美は、予想外の展開に呆然とした。育美の想像では、千里に甘えまくって買ってもらおうと思っていたのだ。
二人は雑貨屋を出ると、千里は買ったばかりのペアリングを可愛くラッピングした袋から取り出し、ひとつを自分の指に嵌め、もうひとつを育美の指に嵌めた。
「うん。似合ってるよ、育美さん。」
育美は一気に顔が真っ赤になった。
こんな幸せ、もう一生味わえない。もう死んでもいいかも・・・。
「育美さん、大丈夫?顔が真っ赤だよ。」
育美は我に返ると、千里が心配そうに育美の顔を見ていた。
「だだだ大丈夫だよ。そうだ、喉渇かない?あそこでお茶しよ。」
育美は慌てながら、
目の前にあるカフェを指差した。
「うん、いいよ。行こう。」
二人は並んでカフェに入って行った。
「育美さんっていつからバレーボールやってるの?」
カフェに入って十分。千里はメロンソーダ、育美はピーチティーを頼んだ。そして、注文したものが来ると、二人は一口飲んで落ち着いた時、千里が口を開いた。
「えーと高校入ってからなんだ。」
「そうなんだ。俺、部活帰りにバレー部見るけど、育美さんすごく上手いじゃん。」
育美は驚いた。自分と同じ行動を千里もしていたなんて。
「実は、私も見ていたんだ。千里君が部活やっているところ。」
育美は半告白気味に言った。
「ねぇ、それって・・。」
育美はドキっとした。もしかして、千里君が私に告白・・・?
「練習見てた?」
「えっ?」
予想外の答えに、育美 は少し拍子抜けた。
「あ、いや。もしかして俺のダサイ所見てたのかなって。」
ああ。そういう意味ですか・・・。育美は心の中で愛憎笑いしている自分が嫌だった。
午前十一時三十分。このデート、まだまだ続きます・・・。