ナイトの悲劇 二人の喜劇
ボロく廃れた川崎工場から聞こえる鉄と鉄とがぶつかり合う音。バタフライナイフと鉄パイプの戦い。接戦の中、今のところ有利に立っているのはバタフライナイフである。
「ぐあっ!!!」
千里はバタフライナイフで腕を切られ、更に顔面パンチを喰らい地面に倒される。
「あれー、どうしたの?育美を助けるんじゃなかったの?このクズが!」
七瀬は千里の背中を脚でバシバシと蹴る。
「さてと、そろそろとどめをさすか。」
そういうと、七瀬はナイフの刃先を千里の背中に向ける。
「残念だったな、桜井千里。お前の人生もここまでだな。俺から育美を奪おうなんて、百年早いんだよ!」
七瀬はそう吐き捨てると、ナイフを降り下ろした。その時だった。
「やめて!!!」
なんと、気絶していたはずの育美が起きていて七瀬に飛びかかりナイフを奪う。ナイフは地面を滑り、壁にぶつかりカシャーンと鳴る。
「育美、お前気絶してたんじゃなかったのか?」
「あれはお芝居だよ。あんたを油断させるためにね。」
育美は人差し指を立てて、それを七瀬に向ける。
「千里はね、あんたみたいにカッコよくないし、強くもないし、いいとこなんてひとつもない。でも、他の誰よりも優しくて親切でそして、私を誰よりも愛してるんだよ。私は千里のそういう性格が好きなんだよ。これからもそう。ずっと一緒にいたいって思うんだよ。」
育美は泣きながら訴える。目からたくさんの涙が溢れ、こぼれ落ちる。すると、七瀬は観念したらしく溜息をつく。
「やれやれ、さすがの俺もここまでか。もういい、育美はお前にやるよ、桜井千里。」
七瀬はそういうと、ポケットの中から小さな拳銃を取り出し、それを自分のこめかみに当てる。
「ちょっと、七瀬!冗談やめてよ!!」
「篠崎、よせ!!」
二人は慌てて七瀬を止めようとした。が、遅かった。
「育美、バイバイ。」
育美の目には、あの頃の可愛かった七瀬の面影が映っていた。七瀬は銃の引き金を引いた。
「バキューーーン」
建物中に銃の音が響き、七瀬はその場に倒れ込む。七瀬のこめかみから、たくさんの血が流れていた。
「いやああああああ」
その後、二人は警察を呼び、七瀬の遺体を運んでもらうことにした。育美は幼なじみの突然の死に涙を隠せなかった。育美は千里の胸の中で大泣きしていた。
「育美、大丈夫?」
千里は育美に自分のジャンパーを着させた。
「千里。」
「ん、何?」
「今夜一緒にいて。」
「・・・・・・うん。」
その夜。二人は育美の家に泊まっていた。二人は育美の部屋にいる。育美の部屋中に二人の服が散らばっている。
「んっ・・・・・・千里・・・好きだよ・・・つっ」
二人はベッドの上にいる。それも裸で。
千里は育美の艶のある髪を撫でながら、育美の首筋を舐める。
「くはっ・・・千里・・・・・・。」
「育美・・・・・・綺麗だね。」
すると、千里は育美の上に乗る。
「ちょっと、千里・・・痛っ・・・つ、強すぎ・・・る。」
育美の声が途切れ途切れに聞こえてくる。呼吸は荒く、顔は火照っている。
「大丈夫。痛くしないから。」
そういうと千里は、育美の腰に手を回す。
「あ・・・ふっ・・・ち、千里・・・あうっ・・・。」
「育美・・・好きだよ。」
「私も、好きだよ・・・千里・・・あん・・・。」
千里は顔を下に、育美は顔を上に向けて熱いキスをした・・・。
ふと気が付くと、いつの間にか眠っていて、朝になっていた。
「おはよう、育美。」
千里は既に起きていて、服もちゃんと着ている。
「おはよう。千里、いつの間に起きたの?」
「三十分前。ほら、服着て。朝ご飯、作っておいたから。」
そういうと千里は、育美に向けて服を投げる。育美は壁に隠れてこそこそと着替える。
「大丈夫。そんな色気のない胸なんて誰も見ないから・・・ぶっ!!」
千里がケラケラ笑っていると、顔面に枕が飛んできた。
「いいから早く出て!!」
そういうと、千里はそそくさと部屋を出て行った。育美はベッドから起き上がると、育美は自分の姿が映っている鏡に目をやる。すると、
「・・・なんじゃこりゃ〜〜〜!!」
育美は慌てて部屋を飛び出し、千里の元へ向かった。
「ちょっと千里!!これは何?」
育美はキレながら、自分の胸元を差す。そこには真新しいキスマークがあった。
「あぁ、それ。育美が眠っている間に俺がつけたんだ。」
すると、育美は拳を作り、腕をプルプルさせていた。
「千里ーーー!!」
育美は千里に向かって飛びかかってきた。やばい。そう思った千里は逃げようとしたが、育美に捕まりそして、
「チュッ」
育美は千里の頬にキスをした。
「ありがとう、千里。」
やばい。キュン死にしそう・・・バタンッ
「千里、千里。大丈夫?」
育美、やっぱお前にはかなわないよ。お前と・・・結婚してもいいよ。