恋はベタドラマ
育美の幼なじみ、篠崎七瀬が転校してきて三日目。七瀬はすっかりクラスの人気者になっていた。
「ねぇ、七瀬君ってどこから来たの?」
「七瀬君って好きなタレントとかいる?」
「七瀬君、この後学校の中を案内してあげるね。」
七瀬は、女の子から殺到してくる質問にも、クールに返答する。そこがキューンとくる女の子がいるらしく、七瀬は女の子からモテモテの存在になっていた。
「相変わらずモテモテね、篠崎七瀬。」
「本当本当。七瀬君の周りなんて、女の子ばっかりだし。」
「私、ああいうクールな男苦手。男はやっぱ面白い奴の方がいい。」
昼休み。真奈美と加奈と亜美は七瀬について話していた。当然、育美は何も話さない。だって幼なじみが通り魔の犯人なんだもん。そんな気安く話しかけられる理由ないじゃん。
「でも、あいつ育美の幼なじみなんだって。」
真奈美、あんたはどうしてこんなつまらないことに私を巻き込むんだ・・・。
育美は、七瀬が幼なじみだということにしばし後悔していた。
「うん。お母さんの同級生の息子なんだって。」
育美は紙パックのりんごジュースをすすりながら、棒読みで答えた。ジュースが終わり、育美は紙パックをゴミ箱に捨てようとした。その時、
「育美、ちょっといいか?」
気安く話しかけんな!この馬鹿幼なじみ。警察につき出すぞ!
育美は込み上げてくる怒りを抑えながら、七瀬の方を見た。そこには、むかつく程の女々しい笑顔を見せた七瀬がいた。
「なんか用?」
私は低くトゲトゲとした声で喋る。
「なんだよ育美。久しぶりに会った幼なじみに対してその口の聞き方はないでしょう。」
七瀬はゲラゲラと笑いながら、育美の肩をバシバシと叩く。
「こら、七瀬!人の肩叩くんじゃない!」
私はついお母さん口調で怒ってしまい、ちょっと恥ずかしかった。
「えー。育美、幼稚園の時は普通に叩き合った仲じゃないか。」
そんな仲ではありません。この能天気通り魔!
私は叱ったことになんのことも思わない七瀬にムカついていた。
「あ、ここじゃなんだから。屋上にでも行こうか。」
言われなくても行きますよ。だって七瀬の周りを取り囲む女の子達の目が、狼のようにつり上がっちゃってるもん。いつまでもこんなところにいたら、私この子達から何されるかわからない。
育美はすたすたと速足で屋上へと向かう。七瀬はニコニコしながら、育美のあとをついて行く。その二人の背後に、真奈美と千里がいることも知らずに・・・。
そして、二人は屋上のフェンスの前に立っていた。屋上はまるで冷蔵庫のように冷えきっていて、育美はスカートでは寒いくらいだった。
「うーん。ここはやっぱ寒いね。どうせなら、図書館にすればよかったかな?」
「どうでもいいけど、さっさと野暮用を済ませてくれないかな?」
育美は凍えるような声で喋る。屋上の外から強い突風が吹き込んできて、育美の体を冷たくさせ、ふわふわの髪をボサボサにしていく。
「そうだね。・・・育美とは幼稚園の時からの付き合いだったよね。育美は明るくて可愛くて優しい子だった。」
七瀬はフェンスの前の段差に座り、ポツポツと語り始めた。七瀬の喋る声がナルシストっぽく聞こえてきて気分が悪くなる。
「それに引き換え、俺は馬鹿で格好良くもない。だから、育美にどうしても振り向いて欲しくて小さい時から努力した。外見を磨いたり、お洒落したり・・・でも、そんな努力は要らなくなった。何故なら、育美は俺のことを好きになってくれたから。」
その言葉を聞いた直後、育美は突然、苦い記憶を思い出してしまったのだ・・・。
今から十年以上前。育美は普通の幼稚園に通う女の子。育美は、今は記憶にないが、確かに七瀬のことが好きだったと思う。育美はその時、お母さんにまで喋った記憶がある。今考えると、それは育美にとって最悪の初恋に過ぎなかった。
「俺達が小学校に上がる前、俺は両親の仕事の都合で遠くに引越すことになった。俺、その誓ったんだ。」
そういうと、七瀬は育美をそっと抱きしめた。そして言った。
「いつかまたここに戻ってきたら、育美・・・お前と結婚しようって。」
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「えぇ〜〜〜〜〜!!!」
育美の叫び声が、学校中に響き渡る・・・。
久しぶりに復活した美環です。最近どうも携帯の調子がおかしく、たまにバグみたいになっちゃうんですよ。そんなトラブルに戦いながら、美環は今日も書き続けます。