魅入られた少女達
「通り魔!!!」
朝から育美の叫び声が響く。育美はチュッパチャップスを食べながら、真奈美達をお喋りをしていた。
「そう。なんか三ヶ月前から出没しているらしくて、今までに七人の女子高生が被害に会ってるんだって。被害者の女子高生はみんな刃物で切りつけられたり、髪を切られたり。でも、犯人はまだ捕まってないんだって。」
「怖〜い。しかも、その襲われた女子高生達はみんな『ラブリーエンジェルズ』の赤い花のヘアゴムをつけた人なんだって。私、あそこのブランドのちょーお気に入りだったのに。」
真奈美と加奈はマシンガントークでどんどん話していく中、育美はチュッパチャップスをくわえて考えごとをしていた。
赤い花のヘアゴム・・・。どこかで見たような・・・。
育美はチュッパチャップスをコロコロと口の中で舐め回す。
「育美、育美!」
育美は真奈美に呼ばれ、思わずはっと我にかえる。
「どうしたの?さっきからぼーっとして。」
「ううん、何でもないよ。」
育美はチュッパチャップスをガリガリ噛んで棒をゴミ箱に捨てた。
その日の放課後。真奈美はイケメン彼氏とデート中だった。二人は近くのショッピングモールに来ていた。
「真奈美、今日何の日か知ってる?」
イケメン彼氏の『賢吾』が真奈美の手を握りながら言ってきた。
「ん〜・・・わかんない。」
すると、賢吾が真奈美の肩に手を掛けてきた。
「俺達が付き合って五ヶ月目の記念日。」
そういうと、賢吾は緑色のブレザーのポケットの中から、小さなビニールの袋に入った赤い花のヘアゴムを真奈美にプレゼントした。
「これ、欲しかったんだ。ありがとう。」
真奈美は通り魔の話をすっかり忘れていて、プレゼントを鞄の中に入れた。
「やば、もう九時だ。」
真奈美は賢吾と別れ、一人夜の道を歩いていた。真奈美は鞄の中から赤い花のヘアゴムを取り出した。
「可愛い。」
その時だった。
「お前に持つ資格はない。」
「へ?」
真奈美は後ろから聞こえた低い声に反応した。
「ザッ」
「きゃあああああ」
謎の人はいきなり真奈美に向かってはさみを降り下ろした。はさみは真奈美の右手をかすり、刃先から真っ赤な血が滴る。
「い、いやああああ。」
真奈美は怖くなり、その場から無我夢中で走り去る。謎の人は、真奈美が落としたヘアゴムを手に取る。
「これが似合うのは・・・育美だけだ。」
「通り魔に襲われた!?」
それから三十分後。育美は真奈美が通り魔に襲われたとの電話を受けた。
「それで、彼氏からもらったプレゼント盗られたんだ。ちょー最悪。」
「プレゼント?」
「そう。今日、付き合って五ヶ月目の記念日だって彼氏が赤い花のヘアゴムをくれたの。」
育美は背筋が凍った。
赤い花のヘアゴム・・・。あれって・・・。
「育美?どうしたの?」
真奈美が心配になって問いかける。
「ううん、何でもない。じゃあ、お大事に。」
育美は電話を切ると、机の引き出しを開けた。その中には、可愛いノートや小物、そして・・・赤い花のヘアゴム・・・。
「どうして?まさかあいつ・・・。」
育美はヘアゴムを思い切りゴミ箱に捨てた。あの辛い過去を消すかのように・・・。