出会いは図書館で・・・。
次の日、育美は図書館で暇を潰していた。親友の真奈美は隣のクラスの彼氏の所に行ってしまうので、お昼は他の仲いいグループの子達と一緒に食べて、残りの時間は図書館で過ごすのだ。
「えーと。これはもう読んだし、これも読んだ。えーと、他に読んでない本あるかな・・・。」
育美は、一番奥の本棚に向かった。そこには古い本がたくさん並んでいた。
「あっ、これおもしろそう。えーと、脚立っと。」
育美は、一番上にあった赤い本を取ろうと、端っこに置いてあった小さな脚立を持って来た。
育美は、小さな体を思いっきり伸ばして本を取ろうとした。
「うーん・・・。届かない・・・。」
本まであと少し。育美は最後の力を振り絞って背伸びした。育美の手が本に届いた。
「やったー。」
その時だった。育美の足が滑って、脚立から踏み外した。
「キャーーーーー。」
育美はそのまま床に落下した。その拍子で、棚にあった本達が落ちてくる。その時、黒い影が、育美を包み込んだ・・・。
「いった〜〜〜。」
育美はたくさんの本の中から顔を出した。あれから時間が経ったのか、図書館には誰もいなかった。育美は本の中から這い出ようとした。すると、育美は自分の上にいる黒い影に気づいた。
「だ、大丈夫ですか?」
そこにいたのは男の子だった。 ボサボサの短い髪に銀縁眼鏡。優しそうな顔。きちんとした制服で体はひょろっとしている。クラスに一人はいるような優等生君だった。
「ごめんね私こそ。重かったでしょう。」
「ううん。緒形さん、軽かったよ。」
男の子は首を横に降りながら言った。
「えっ。あんた、何で私の名前知ってるの!?」
「えっ。だって俺、緒形さんと同じクラスの桜井だよ。」
さ、桜井・・・?どこかで聞いたような・・・・・あっ!
育美は拳を手のひらにポンっと叩いた。
「そうだそうだ。桜井君だよ。私の隣の席の。」 育美は入学式の日のことを思い出した。
あれは五ヶ月前。私はまだピカピカの高校一年生だった。新しい先生がくじ引きで席を決めると言ってた。私は窓際の一番後ろの席になった。そして、私の隣の男子、それが桜井君だった。
「よろしくね、桜井君。」
「あ・・・どうぞよろしく・・・。」
最初っから 素っ気ない挨拶だったが私は気にならなかった。
それから私はいろんな人と話すようになった。たった一人を除いて・・・。
「あっ、足血が出てるよ。」
育美は、桜井に指指された方の足を見た。見ると、左足の膝から血が出ているのだ。
「あ、あの。これ使って。」
桜井は、ブレザーのポケットの中から小さな絆創膏を取り出し、育美に渡した。
「あ・・・ありがとう。」
育美は桜井からもらった絆創膏を傷口に貼ろうとした時、
「あ、俺が貼るよ。」
桜井は育美の持っている絆創膏を取ると、育美の膝に貼った。その時、桜井の手が育美の膝に触れた。
あったかい手・・・。
育美は少しドキっとした。
「よしっOK。じゃあ、そろそろ教室に戻ろうか。」
桜井は教室に戻ろうと立ち上がった。その時、
「待って!」
育美は桜井の腕を引っ張った。桜井は後ろに倒れた。
「ど、どうしたの緒形さん。」
桜井は眼鏡がずれた間抜けな顔をしながら言ってきた。
それを見て、育美は顔が真っ赤になった。
「あ・・・ごめんね急に。あのさ・・・もう時間ないし・・・ここで時間潰さない?」
育美は、一言一言喋るのが辛かった。心臓がバクバクいって息の仕方も忘れてしまい、呼吸困難になりそうたった。
「ほら、四時間目もう始まってるよ。」
育美は、ブレザーのポケットの中からスライド式の携帯電話を取り出し、画面を開いて桜井に見せた。 時刻は二時五分。四時間目が始まってからもう二十分も過ぎている。
「本当だ。今から行ったら遅刻になっちゃう。」
「でしょう。だから、時間まで一緒に話でもしよ。」
育美は、立ち上がり、カウンターのそばにある椅子に腰掛けた。桜井は戸惑ったが、その後すぐに育美の隣に座った。
「えーと、まず自己紹介しよっか。私は緒形育美。星沢中学出身。部活は女子バレーボール部所属。九月七日生まれ。O型の乙女座。好きな科目は国語と体育。嫌いな科目は数学。・・・まぁこんなところかな。あと、私のことは育美って呼んでいいから。」
その後すぐに、桜井が続けて言った。
「俺は桜井千里。青空中学出身。部活は剣道部所属。七月十七日生まれ。A型の蟹座。好きな科目は国語と体育。嫌いな科目は数学。俺のことは千里って呼んで・・・ください。」
桜井千里。よしっ覚えた!
育美は千里の名前を脳ミソにしっかりインストップした。すると、育美はいくつかのことに気づいた。
「青空中学って、もしかして家隣町?」
「うん、そうだよ。」
「本当!?私の家、隣町に近いんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、西港駅前のパン屋さん知ってる?」
「知ってる知ってる。あそこのパン屋のミルクブルーベリーパン、すごく美味しいよね。」
意外にも、二人は意気投合したのだ。その後二人はいろんな話をした。
好きな食べ物、嫌いな食べ物。好きな歌手。好きなこと。好きな本。好きなTV番組。二人共、時間を忘れてたくさん話した。
「はぁ〜。もうこんな時間かぁ。」
育美は、背伸びをしながら、時計を見た。時刻は二時三十分。あと五分で授業が終わる。
「じゃあ、そろそろ戻ろうかぁ。」
千里が立ち上がると、
「千里君。明日もここ来る?なら、明日も一緒に話してもいい?」
育美は後ろ姿の千里に言うと、
「・・・うん。いいよ。」
と千里はそう言うと図書館を出て行った。
「かっこいい・・・。」
育美は頬を赤くてぼーっとしてた。
危ないところを助けられた。たったそれだけのことなのに。育美は千里のことを・・・好きになったのだ。