夏休みは二人で・・・。
夏休み初日。育美は大きな旅行バッグを持って、若葉公園の前に立っていた。話はさかのぼること二日前・・・。
「ねぇ、育美。夏休みどこか行く予定ある?」
昼休みの図書館の中で、千里が言った一言から始まった。
「うーん・・・。夏休みは真奈美は彼氏と旅行だし、部活は八月の終わりからだからまだ時間はあるねぇ。」
「じゃあさ、一緒に旅行行こうよ。」
「えっ!?」
「千里の奴、いきなり言うからびっくりしたよ全く。」
白いワンピースにデニムのジャケット。ピンクのサンダルに水色の旅行バッグ。
育美はひたすら千里が来るのを待っていた。
千里の話によると、なんでも千里の家の別荘が今は空き家でいつでもそこに住んでもいいと言われたので千里は夏休みを利用して別荘に住もうと考えていたのだ。しかし、いくらなんでも突然すぎるんじゃないかと育美は思ったが、千里と初めての旅行に少しウキウキしていた。
十分後、大きなバッグを持った千里が大急ぎで走って来た。
「育美ごめん。待った?」
「ううん、今来た所だよ。」
またしても、育美の嘘が炸裂。しかし、千里はそんなことにも気付かなかった。
「これから電車に乗るんだ。あ、荷物俺が持っていくよ。」
そういうと、千里は育美の旅行バッグを軽々と持ち、そのまま歩き出した。
「全く、千里ったら。」
そういうと、育美は千里の後をついて行った。
二十分後、二人は東側行きの電車に乗っていた。二人は駅で買った駅弁を食べている。
「千里、どのくらいかかる?」
育美は、弁当の中の肉じゃがを食べながら言った。
「えーと、電車に一時間乗ってその後バスに三十分乗ってそれから歩いて五分で着くんだ。」
千里が、ペットボトルのお茶を飲みながら答えた。
「けっこう遠いんだね。」
「まぁね。でも、すごくいい場所なんだ。」
二人は、別荘までの時間を有意義に楽しんだ。
そして、二人は別荘に着いた。目の前には、青い屋根に白い壁の建物が聳え立っていた。
「うわー、綺麗。」
育美は、憧れの別荘に感動していた。
「中も綺麗なんだ。早速入ってみようよ。」
そういうと、千里は別荘の中へと入って行き、育美も千里の後をついて行った。
育美は、別荘の中に入って再び感動した。中はとても綺麗だったからだ。家具はとても高級なものばかりであちらこちらにアンティークの小物も置いてある。天井にはキラキラ光るシャンデリア。高そうな黒のソファーに光沢がかかった時計や棚。壁紙は白で、大きな窓から入って来る太陽の光で部屋の中が明るくなる。
「育美の部屋は二階だよ。俺、二階に荷物置いておくから、しばらく家の中見ていてもいいよ。」
そういうと、千里は二階へと向かった。
「千里ん家ってお金持ちだったんだ。」
そう思いながら、育美は二階へと向かった。
育美は、二階の一番奥の部屋に入った。
「うわー。綺麗な部屋。」
育美は、部屋の中を見渡した。中はいかにも女の子って感じだった。
ピンクと白の棚の上にはフランス人形や高そうなぬいぐるみが所狭しと置かれていて、ベッドも高級ホテルにありそうなダブルベッドでピンクの掛け布団に白のレースがついたシーツ。ハート型の赤のクッションに白の小さなテーブル。女の子全開の超可愛い部屋だ。しかし、育美はある異変に気づいた。
「千里に妹っていたっけ?」
ここは女の子の部屋。千里は一人っ子だと前に言っていたので、当然妹どころか兄弟もいない。
「じゃあ、ここは誰の部屋?」
急に不安になった育美は、千里に聞こうと部屋を出ようとした。その時、
「ん?この写真・・・。」
育美は、人形の隣に置いてある写真立てを見た。写真の中には、この部屋のベッドに座っている育美そっくりの女の子がいた。
「誰・・・?」
その時だった。
「俺の幼なじみだよ。」
千里がコーラを持って部屋に入って来た。
「幼なじみ?」
「そう。俺が小学生だった時からの幼なじみで『月島 みさき』っていうんだ。」
千里は、育美にコーラを渡すと蓋を開けてコーラを一口飲んだ。
「みさきは、元々体が弱くて学校も休みがちだった。俺、みさきのこと好きでいつも学校の帰りにみさきん家に見舞いに行ってたんだ。」
その人、千里の初恋の人だったのかな?
育美は、過去のことだと知ってるのに何故か胸がズキッと痛む感じがした。
「それから中学に上がる前の夏に、みさきが死んだんだ。あいつ、走ると呼吸がおかしくなるって医者に言われたのに無理して海岸に出かけてたんだ。みさきが発見された時にはもう・・・」
千里は突然流れ出た涙を必死で抑えた。
「千里・・・。」
育美は、千里も辛い恋を経験して来たんだなと急に悲しい気持ちになる。
「それから高校に入って、みさきとそっくりな女の子に出会った。それが育美なんだ。」
「えっ。」
育美は、再び写真を見た。みさきと育美は、目元、口元、髪の長さ。ほとんど同じだった。
「俺、最初に育美を見た時、本当にみさきかと思っちゃった。だってすごく似てたんだもん。それで俺、みさきの分まで育美のこと幸せにしようって決めたんだ。」
「千里・・・。」
すると、育美は千里に抱きついた。
「千里、あんたも辛いことがあったんだね。でも、千里がいつまでも悲しんでちゃだめなんだよ。みさきちゃんは千里が幸せになって欲しいって思ってるんだよ、きっと。」
「育美・・・ありがとうな。」
そういうと、千里は育美をそっと抱き寄せた。
二人の楽しい、そして奇妙な夏が始まろうとしていた・・・。