恋人を敵から守れ
次の日。数学の授業が終わると、千里の前に数人の女の子達が歩み寄って来た。
「桜井君、あのさ〜。」
その瞬間、育美は動き出した。
「ねぇ、千里。次の授業って何だっけ?」
「えーと、生物だよ。次移動だから急ごっか。」
千里は机の中から生物の教科書とノートを取り出した。
「桜井君、一緒に・・・。」
女の子は無理にでも千里に近づこうとするが、ここでも育美が行く手を阻む。
「そうだよねぇ。あの先生時間に厳しいから急がないとね〜。」
育美は千里の手を引っ張りながら走った。
『大丈夫だよ。』
落ち込む女の子を励まそうとする友達。その子達を横目でニヤリと笑う育美。
バーカ。私の千里に手を出そうなんて百万年早いんだよ。
育美と千里は生物室へ向かった。
それからすぐに昼休みになった。育美は常に監視カメラのように周囲360度見張っていた。すると、
『ほら、ご飯一緒に食べようって誘いなよ。』
もじもじしながらお弁当を持っている女の子とそれを見守る友達。さっきの子達じゃなかった。しかし、育美は容赦しなかった。
「さ、桜井君。あの、よかったらお弁当一緒に・・・。」
その瞬間を、育美は待っていた。
「きゃあ。」
育美は飲んでいたウーロン茶をこぼしてしまったのだ。それもわざと。
「ごっめ〜ん。千里大丈夫?」
育美は千里の服についたウーロン茶を持っていたハンカチで拭いた。
「いいよ。そんなに濡れてないから。」
「あ、あの桜井君・・・。」
女の子は何とか話に入ろうとするが、またしても育美に邪魔される。
「え〜。そんな悪いよ。そうだ。お礼にジュース奢るよ。」
そういうと育美は鞄から財布を取り出して、千里の手を引いて外へ行った。
「いいな〜。育美と千里ってお似合いだよね〜。」
教室の一番前の窓際にいる真奈美やその友達が羨ましそうに言った。
「そういえば、育美と千里、二年生になったのをきっかけになんか変わったよね〜。育美も綺麗だし、千里もかっこいいし。」
「しかも、同じ委員会何だって。いや〜。うらやましいよね〜。」
「本当だよね〜。こんなカップルを邪魔するような奴って絶対馬鹿だよね〜。空気読めよってね。」
真奈美達はゲラゲラと笑った。
『真弓、もう諦めるしかないよ。』
友達がそういうと、女の子は泣き出してしまった。
「ごめんね、真奈美。変なことに付き合わせちゃって。」
「いいんだよ。育美には前に迷惑かけちゃったし。それに、育美は千里と幸せになって欲しかったから。」
「真奈美〜。ありがとう。」
放課後、育美と真奈美が教室で話していると、部活が終わった千里が教室に来た。
「ほら、育美。彼氏がお待ちかねだよ。」
「もう真奈美ったら。じゃあ、また奢るね。」
「じゃあね。お二人さん。」
真奈美はそういうと、机に座って友達を待つことにした。
「千里ごめんね、なんか私無理やりで疲れたでしょう?」
「そんなことないよ。俺、他の女の子に近づかれるとどうしたらいいかわからなくなっちゃうんだ。」
二人は手を繋いで歩いていた。
「お礼に、育美の大好きなチョコアイス奢るよ。」
「嬉しいー。ありがとう、千里。」
そういうと、育美は千里に抱きついた。
「ち、ちょっと。育美やめろって。」
「大好きだよ、千里。」
「・・・俺も好きだよ、育美。」
千里はそのまま、育美をおぶったまま歩き始めた。
その三メートル後ろから二人を睨んでいる女の子。育美と千里と同じ制服の子。
「あの女・・・許せない・・・。」
女の子は、千里に渡すはずであったであろうラブレターをグシャグシャに丸めた・・・。