モテモテ。そしてイライラな春。
二年生が始まって一週間。育美はなんだかご機嫌斜めだった。
「育美、どうした?なんか怒ってるよ。」
昼休み。二人は学校の屋上でお昼ご飯を食べていた。いつもより機嫌の悪い育美に気づいた千里が、心配するように言ってきた。
「えっ!怒ってた?」
育美はサンドイッチを食べながら言った。
「うん、なんかすごい怖い顔してた。」
「うっそーーー!」
育美は鞄の中から水色の手鏡を出すと、心配するように顔を確認した。
「よかった。大丈夫。」
育美は安心すると、手鏡を鞄の中に閉まった。
「でも、一体どうしたの?なんか朝もイライラしてたよ。」
「・・・モテモテじゃん、千里。」
「えっ?」
「だーかーらー。千里がモテモテなのが嫌なの。」
「・・・それって嫉妬?」
「うん。」
話はさかのぼること4日前。国語の授業が自習の時だった。
『桜井君。国語でわからない所があるんだけど。』
数人の女の子の一人が照れくさそうに千里に話しかけてきたのだ。それを、隣の席の育美が黙っちゃいなかった。
な、なにあんた達、ここに千里の彼女がいるっていうのに許可なく話しかけやがって!
育美は目を細くして女の子達を見ていた。
『・・・って計算するとほら、これが答えだよ。』
『や〜ん。桜井君すご〜い。私、こんなの解けないよ〜。』
『本当〜。こんなの難しいもん。桜井君、天才〜。』
千里がかなり長く説明してあげたにも関わらず、次々と甘ったるい言葉を発する。ちなみに女の子達ができなかったのは、超簡単な因数分解だった。
はぁ!?こいつら馬鹿じゃないの。こんなの普通に計算すればできるだろう。どんだけ馬鹿なんだよ。それに、なに上目遣いで声1オクターブ上げてんだよ。ぶりっ子するな、メス豚共!
育美は理性丸つぶれでブチキレる寸前だった。右手に持っているピンクのシャーペンが今にも折れそうなくらい強く握っていた。
それから三日後の昨日、育美は真奈美と廊下を歩いていると、隣のクラスの女の子達の前を通った時、
『ねぇねぇ、三組の桜井千里君ってやっぱかっこいいよね。』
『あ〜ん。私も今それ思ってたんだよ〜。ねぇ、桜井君って彼女いるのかな?』
『いや、いないんじゃない?だって桜井君、クールだから案外女には興味ないとか。』
『いや〜ん。私もう惚れちゃいそ〜。』
育美は今の話をばっちり聞いていた。すると、育美はトイレに入ると中にあったゴミ箱を思い切り蹴り飛ばした。
ふさげんな!千里は私の彼氏なんだよ。それともなんだ、それは彼女の私に対する挑戦状か。いちいち語尾を上げるな!吐き気がするんだよ!
『育美・・・。』
育美は真奈美に言われるまで何も聞こえてなかった。
「キーーー。悔しい!!今思い出しただけでもイライラするーーー!」
育美は、足をばたつかせてキレていた。
「でも、育美だってモテてるじゃん。逆にこっちがキレたいくらいだよ。」
「・・・あのね、私はモテないからキレてるんじゃなくて、千里がモテることにキレているの!」
「・・・育美って本当に鈍いよな。」
千里の話。つい二日前、部活の仮入部の時に一年生三人がいた。
『二年生の緒形育美先輩って可愛いよな。』
『あぁ、この前の部活説明会の時カッコよかったよな。』
むかっ・・・。
「それだけ?」
「えっ・・・それだけだよ。」
「・・・・・・あほかーーーー!!」
育美は千里の顔を思い切りひっぱたいた。
「いってー。何するんだよ。」
「千里はねぇ、甘いんだよ!自分の彼女が他の奴に捕られたりしたら、あんた捨てられる確率百%だよ!」
「それじゃあ、どうしたらいいんだよ?」
すると、育美は立ち上がった。
「決まってるでしょう。頭でっかちで鈍感な奴らにうちらの存在をわからせるんだよ。」
「えっ・・・・。」