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LOVE DAYS  作者: 美環
13/44

番外編〜育美の過去と友情の証〜

LOVE DAYSの番外編です。思ってたより執筆に時間がかかってしまい、本当にごめんなさい。


「なぁ、育美。この前、言ってた友達ってどんな子?」


三学期後半。育美と千里は、若葉公園から歩いて三分のケーキ屋さんでお茶していた。もちろん、今は学校帰りである。


「あぁ、あの話か。」


育美は、マカダミアナッツチョコケーキを食べながら言った。そして、レモンティーを一口飲むと育美は話始めた。


「私が中学の時、友達で瞳って女の子がいたんだ・・・」




緒形育美、中学一年生。暑苦しい夏の始めに、すべては始まった。


「えぇー。瞳、好きな人できたの!」


当時、真奈美と知り合う前、育美は瞳という友達がいた。まだ髪が短かった育美に比べ、髪はカールのかかったロングヘアーで顔も美形でモデルのように可愛かった。


「すごーい。それで瞳、その好きな人ってどんな人?」


「へへっ実は写真あるんだ。」


すると、瞳はチェックの洒落た鞄から、一枚の写真を取り出し、それを育美に見せた。


「格好いいでしょう。伊藤潤也君っていうんだ。」


育美は何も言えなかった。実は、育美は潤也の幼なじみで、片思いの人だったのだ。学校が別々になり、ずっと会えないことが多くて寂しかったのだ。


「瞳、この人ね・・・。」

「ん、何?」


言えない。だって瞳は大事な親友なんだもん。私も好きだって言ったら、絶対嫌われる。


「この人、小学校が一緒だったんだ。」


育美はあくまで好きだと言うことは隠した。


「そうだったんだ。あのね、今度の日曜日に潤也君が働いているお店に行こうと思うんだけど、育美も一緒に行こうよ。」


うっ・・・。それはちょっと・・・。


「うん、行く。」


「ありがとう。じゃあ、日曜日に駅前十時に待ち合わせね。」


トホホ・・・。




日曜日、育美は駅前にいた。ピンクのキャミソールに白いカーディガンみたいなのを羽織っている。デニムの短パンに黒のサンダル。育美は潤也の会うために気合いを入れてきたのだ。


「育美ー。」


三メートル向こうから、瞳が走ってきた。胸元が大きく開いたヒラヒラのフリルがついた黒のタンクトップに白いヒラヒラスカートに厚底サンダル。シンプルだが、瞳が着ればお洒落に見える。


「育美行こう、こっち。」


瞳は育美を連れてあるお店に入った。


ミラーボールがくるくる回る。赤や青のスポットライトがキラキラ光る。ヒップホップな曲が大音量で流れる。派手な男の人や綺麗な女の人がいる。 そう、ここはクラブだったのだ。


「育美ここ初めてでしょう。さっきからガチガチだよ。」


そのとおりである。育美はこういうチャラチャラしたお店には入ったことがなく、今ものすごく緊張している。


「大丈夫だよ。私がいるから安心しなよ。」


瞳は育美の肩をバシバシと叩く。すると、


「あ、潤也君ー。」


さっきとは全く態度が変わって可愛さ全開の笑顔で潤也に近づく。


「あれ、育美じゃん。久しぶり。」


育美は、潤也に肩をポンッと叩かれてドキっとした。


「ひ、ひ、瞳。ごめん、今日用事あるの思いたしたから、これで帰るね。」


育美は大慌てでお店を出た。


「育美、どうしたんだろう。」




「ごめん、瞳。昨日、急に帰っちゃって。」


「いいよ。育美いきなりだったから緊張したでしょう。」


次の日、育美と瞳は屋上でお昼ご飯を食べていた。


「ねぇ、放課後時間ある?一緒にゲーセン行こう。」


「うん、行く。」


育美はチョコパンを食べながら言った。




放課後、二人はゲーセンでプリクラを撮っていた。


「やっぱ、瞳は可愛いよ。私なんて木偶の坊だよ。」


「そんなことないよ。育美は可愛いって。」


瞳は自分の可愛さよりも他人の可愛さを褒める子だ。そんな瞳は、誰からも愛されるのだ。


「ねぇ、育美ちょっとプリ貸して。」


瞳は、育美のプリクラの一枚を切り取ると、ポケットの中から金色のペンダントを取り出し、そこにプリクラを貼った。

「これ、私と育美の友情の証ね。」

そういうと、瞳はペンダントを育美の首にかけた。


「いいの、瞳。これ、瞳のなのに。」


「いいんだ。だって育美は大事な親友なんだもん。」


それから二人は夕方の街並みを手を繋いで歩いた。


やっぱり、瞳には幸せになってもらいたい。ちょっと悔しいけど、瞳の恋を応援しよう。




それから三日後、瞳と潤也は付き合い始めた。毎日メールして、休日にはデートしてるって瞳が言ってた。育美は悔しくて泣きそうだったけど、大好きな親友を失う方がもっと辛かった。育美は浮かない顔をしながら、幸せそうな瞳を見ていた。



しかし、瞳が潤也と付き合い始めて一年経ったある日のこと。


「最近、潤也からメールが来ないんだ・・・。どうしたんだろう?」


瞳が携帯を見ながら呟いていた。瞳の話だと、一週間前から潤也からのメールが来ないらしいのだ。しかし、育美には毎日のようにメールが来るのだ。


「もしかしたら潤也、部活とかテストとかで忙しいんじゃない?きっとメール来るって。ほら、久しぶりに遊びに行こう。イライラした時は遊ぶのが一番だよ。」


「・・・そうだね、行こう。」


育美はとりあえず瞳が笑顔になれてよかったとほっとした。

二人は駅前のアイスクリームショップにいた。育美はダブルチョコアイス、瞳はストロベリーチョコアイスを注文し、食べていた。


「美味しい。やっぱり暑い日にはアイスが一番だよ。」


二人は十分かけてアイスを食べると、空っぽのカップをゴミ箱に捨てると、自販機でコーラを買った。


「瞳、次どこ行く?」


「そうだなぁ・・・。」

突然、瞳の足が止まった。


「どうしたの?」


「・・・潤也。」


「えっ!?」


二人は二階のショッピングモールのガラス張りのところから、外を覗いた。すると、一階のカフェの二人用の座席に座っている潤也と、瞳より格好が派手な女の子がいた。ピンクの花柄のキャミソールに白のプリーツスカート、黒の厚底サンダルに長い髪を花の髪飾りでポニーテールにしている。一言で言えば、かなり露出が激しい子だ。


「な・・・何あの子・・・。」


瞳はワナワナと震えながら二人を見ていた。瞳は、目を真っ赤にしてすごい形相をしていた。


潤也の奴、瞳という彼女がいながら他の女とくっついているなんて・・・。

育美も瞳に負けないくらい苛立ちを見せていた。すると、女の子がわざとらしくよろめいて、潤也に抱きついてきたのだ。


「なっ。」


二人は声を揃えて叫んだ。すると、潤也は女の子を優しく抱きしめたのだ。


あ、あいつ・・・。


育美は思わず握り拳を作っていた。


二人はしばらく潤也を見ていた。潤也は女の子の肩に手をかけたり、女の子の頬っぺたにキスをしてきたのだ。


「潤也・・・ひどいよ。」


瞳は持っていたコーラのカップを思い切り握り潰した。拳から流れるコーラが、タイル張りの床にポタポタと垂れる。 そして、瞳は一言言った。


「許せない。あの女も・・・潤也も・・・。」


何か仕出かしそうな瞳を、育美はただ黙って見ていた・・・。






「そんなことがあったんだ。瞳さん、可哀想だね。」


話は現在に戻った。育美と千里は、ケーキ屋から出ると若葉公園にいた。温かいココアを飲みながら、話をしていた。


「それで、その後どうなったの?」


「あ、うん。それで瞳、その出来事にひどくショックを受けて、学校休んじゃったの・・・」






「育美、瞳まだ休みなのかな?」


「うん。メールしても返って来ないんだ。」

瞳が学校を休んで一週間。瞳は学校に来る気配はなく、メールや電話をしても返事がないのだ。


「瞳、可哀想だよね。大好きな人に裏切られるなんて。私だったら絶対復讐するし。」


瞳と仲良かった今日子がボソリッと言った。


復讐・・・。瞳、絶対そんなことしないよねぇ。


育美は今日子が言った一言が耳から離れなかった・・・。




それから三日後の日曜日。育美は朝の九時に布団から出た。


「おはよう、育美。朝食、テーブルの上に置いてあるから。」


育美の母親はそういうと、すぐ様仕事に向かった。育美の母親の仕事は、昼間はスーパーの定員、夜はカラオケの従業員をしていた。育美の母親は、育美が小学校四年の時から仕事を始めたのだ。父親と離婚してから、女手ひとつで育美を育てていた。育美はいつか母親に恩返しをしたいと心に決めていた。


育美は、パンとサラダと野菜ジュースの朝食を摂ると、食器を洗って片付けて、戸棚に入れて置いたポテトチップスを取り出し、テレビの前のソファーに座った。


「今日は何かテレビやってるかな?」


育美はポテトチップスの袋を開けると、チップスを一枚パリッと食べると、テレビのスイッチを付けた。

「・・・次のニュースです。昨日夜八時半頃、市内の住宅で十代の若いカップルが頭から血を流して倒れているのを、帰宅した母親が発見しました。二人は近くの病院に運ばれましたが、間もなく死亡したとの模様です。警察は、二人の間にトラブルがあったと見て、調査を進めたいと・・・。」


育美は、テレビのスイッチを切ると、そのままソファーに倒れ込む。


瞳・・・絶対殺しなんてしないよね・・・。




一ヶ月後の二学期始業式の時に、瞳が行方不明になったと校長から聞いた。瞳の部屋から服と財布がないことから、瞳は家出したと思う。

「瞳、どこに行っちゃったの・・・?」


育美は、瞳からのメールが来ない携帯をひたすら見つめていた。




それから数ヶ月経った十二月。辺りはすっかりクリスマスモード。それなのに、育美の心は晴れない。瞳は、まだ見つかっていない。


「瞳、帰って来なくてもいいから、せめてメールぐらいしてよ。だって私達、親友でしょう?私、もう不安で仕方ないんだよ。」


育美は、携帯に話しかけるようにぶつぶつ言っていた。すると、


「ヴーヴーヴーヴー」


育美は、携帯の画面を開いた。液晶画面には『瞳』と書いてあった。

「もしもし、瞳?今どこにいるの?」


育美は瞳との久しぶりの電話に少し緊張していた。


「育美、久しぶりだね。私、もう育美に忘れられているかと思った。」


「そんなことないじゃん。私達、親友じゃない?私、どれだけ心配したか・・・。」


育美は突然溢れてきた涙を必死で抑えた。


「・・・そうだよね。私、育美に迷惑かけてばかりだったね。ごめんね。」


「いいんだよ。それより、今どこにいるの?私、早く瞳に会いたいんだ。」


「うん、私も育美に会いたい。それでね、育美ん家のポストに封筒が入ってるんだ。それ、今私がいる所までの地図なんだ。それを見て、こっちまで来てくれないかな?ちょっとわがままだけど、これで最後にするから。」


ポストに・・・。


「分かった。今すぐそっちに行くからね。」


「ありがとう。それと、このこと誰にも言わないでね。ママに迷惑かけたくないんだ。」


「・・・うん、分かった。じゃあ、切るね。」


育美は、電話を切ると、コートを羽織って玄関に出た。育美は、瞳に言われたとおり、玄関の前の鉄格子の横に付けてある赤いポストの蓋を開けた。すると、中に一通の茶色封筒が入っていた。育美は、封筒の端っこを切ると、中に入っている紙を取り出した。地図は細かく書いてあって解読するには時間がかかりそうだ。


「・・・とにかく、行こう。」


育美は、地図を握りしめながら走り始めた。




一時間後、育美はある廃ビルの前に立っていた。


「・・・ここだ。」


育美は廃ビルに向かって歩き始めた。すると、


「ピリリリリリ。」


瞳から、メールが届いた。


「三階の一番奥の部屋に来て。」


育美は瞳の言われたとおりの部屋に向かった。


しばらくすると、育美は三階の一番奥の部屋の前にいた。


「瞳、育美だよ。・・・いるの?」

育美は、ドアノブに手をかけた。すると、


「ガシッ、バタンッ。」


一瞬の出来事だった。部屋にいた瞳がいきなり、育美を部屋の中に引き摺り込んだのだ。


「ち、ちょっと瞳、何するの?」


瞳は育美をボロい椅子に無理やり座らせ、そこに太いロープで縛りつけた。

「育美には悪いけど、逃げたら困るんだ。」


瞳は余ったロープをそこらへんに捨てると、端っこが切れたソファーに腰かけた。

育美はまじまじと部屋の中を見た。天井にはチカチカ光る電灯。ボロボロに破られた壁紙。ボロいけどまだ使えるソファーやベッドなどの家具。そして、真新しい冷蔵庫とテレビ。


「私も驚いたよ。他の部屋は使えないくらいボロかったけど、この部屋だけはマシだったんだ。家具はここにあった物だけど、テレビと冷蔵庫はゴミ捨て場で拾って修理屋に直してもらったんだ。」


瞳は、まるで自分の家のようにこの部屋を使いこなす。

「まぁ、ここには誰も来ないし、時間もたっぷりあるからゆっくりしようよ。」


そう言うと瞳は、冷蔵庫の扉を開けると、二本のジュースを取り出した。


「育美、オレンジジュースとコーラ、どっちがいい?」


「・・・どっちでもいい・・・。」


育美はもう呆れるしかなかった。人がこんなにも心配したのに、瞳は平然としていたのだ。


「じゃあ、私コーラでいい?」


育美はコクリッと頷いた。瞳はオレンジジュースの缶を、育美の前にあるテーブルの上に置いた。


「あ、これじゃ飲めないよね。」


瞳は育美の体に巻き付いているロープをほどいた。


「やっぱり友人を疑うのは良くないね。」


瞳はロープをそこらへんに置くと、コーラの蓋をプシュッと開ける。ソファーに座ると、コーラを一口、二口飲んだ。


「瞳、あんたどうして家出なんかしたの?」


育美はオレンジジュースを一口飲んでから言った。


「・・・育美、誤解しないで。私、家出するつもりはなかったんだ。ちょっと出かけるだけだったんだ。」


「じゃあ、どうして今日まで。」


すると、瞳は空っぽになったコーラの缶を割れた窓ガラスの外にぽいっと捨てた。


「・・・実は私、潤也のことが気になって、あとをつけたんだ。ちょっと三日間ぐらい休むつもりだったんだ。でも・・・。」


「でも?」


すると、瞳はソファーから立ち上がった。


「潤也・・・あの女を抱いていたんだ。まだ中学生なのにね。」


あの女・・・。あの時、潤也と一緒にいた女の子!


「私、その時思ったんだ。潤也・・・あの女にそそのかれているって。だって、潤也私のことが好きだって言ったんだもん。私以外愛さないって言ったんだもん。絶対、あの女が潤也を無理やり・・・。それでね、私いい方法を思いついたんだ。潤也が絶対喜んでくれる。」


「・・・どんな方法?」


育美は恐る恐る聞いた。すると、瞳はポケットの中からバタフライナイフを取り出した。そして、鼻歌を歌いながら壁にかけてある潤也とその女の子の写真が貼り付けてあるダーツに向かってナイフを投げた。ナイフは見事に女の子の顔の真ん中に刺さった。

「・・・殺したんだ、私。あの女を・・・。」


育美はその言葉に凍りついた。


殺した・・・。なんでそんなことが言えるの?それも、めっちゃ真顔で・・・。


すると、瞳は話を続けた。


「最初ねぇ、私どうやって人を殺すかわからなくてね、困ってたんだ。だって、人を殺すにはそれなりの準備が必要だし、もし私が殺したって警察に知られたら、私捕まっちゃうもん。」


瞳はナイフをダーツから抜き取ると、刃先をまじまじと見ながら言った。


どうしてこんな他人事みたい話せるのだ・・・。育美はただ聞いているしかなかった。

「そんなある日、私テレビでこんなニュースを見たんだ。」


すると、瞳はテレビのスイッチを付けた。すると、


「・・・次のニュースです。昨日夜八時半頃、市内の住宅で十代の若いカップルが頭から血を流して倒れているのを、帰宅した母親が発見しました。」


このニュース、けっこう前に見た事件・・・。


「私ねぇ、このニュースを見て思ったんだ。・・・自分が幸せになるんだったらどんなことだってするってね。だって、この二人を殺した人だって私と同じ気持ちだったんだよ。大切な人を守るために人を殺す、当然の報いよ。」


育美は、だんだん瞳が怖くなってきたのだ。


瞳は狂ってる。裏切られたショックで頭がおかしくなったんだ。


「私ね、潤也を助けるためにいろいろ準備したんだ。あの女の行動を調べたり誰にも気づかれない殺し方とか本で調べたりしたんだ。」


よくそんなこと調べたりできるよ。


瞳はテレビのスイッチを切るとソファーに腰かけた。


「そして、殺そうと決めた夜。私は二人がよく行くホテルに向かった。そして、二人の行き付けの部屋も調べたとおり、四階の一番奥の部屋だった。」


瞳はナイフをくるくる回しながら話した。


「そして私は、あの女が一人になったのを確認すると用意してた折りたたみ傘であの女の息の根を止めた。」


育美はその台詞を聞くと、女の子が傘で無様に殺されるシーンが頭の中で甦ってきた。すると突然、育美は吐き気がしてきた。


「育美、怖がらなくてもいいんだよ。あの女はもう、ゴミ捨て場の中でぐちゃぐちゃになっているんだから。」


瞳は恐ろしい目付きで語る。育美はもう耳をふさぐしかなかった。


「私はその後、あの女の服を着て潤也も殺した。あの時女は、ピンクのワンピースに手袋をつけていたから、指紋を残さずに犯行が行えたんだ。」


「でも、もしあの子が手袋をしてなかったらその犯行は無理だよ。」


「あの女ね、潤也とデートの時はいっつも手袋をしたお嬢様スタイルで決めて来るから、その日の格好だってわかってたんだもん。」


そこまで調べていたとは。さすが恋する女は怖い。


「そして私は二人の遺体をそのまま放置して部屋を出た。傘も一緒に。そうすれば、二人のカップルは揉め事をしてる最中に殺し合いになって死んだってことで片付く。本当の恋人である私は疑われずに済むってこと。」


本当の恋人・・・。本当にそうなの?


「瞳は恋人でもなんでもない。潤也にとってあんたはただの玩具だったんだよ。」


「・・・何だって!?」


すると、瞳が育美の胸ぐらを掴むとそのまま壁にぶつけた。


「なんで育美にそんなことが分かるのよ。潤也は私と付き合っているのよ。それなのにどうして。」


瞳の顔がだんだん強ばっていく。


「私、潤也の幼なじみだからたまにメールとかして、ぐっ!」


瞳がいきなり、育美の首を絞めてきた。


「嫌よ。そんなの嘘だ。私にとって潤也は、たった一人の運命の人だったんだもん。誰にも渡したくない人だったんだもん。・・・でもまだ大丈夫。今ならまだ間に合う。私は潤也を守らないと。」


すると、瞳が持っていたナイフの刃を育美に向けた。


「瞳・・・やめて。私達、親友でしょう。」


育美は瞳を挑発させない程度に訴えた。しかし、


「潤也を守るためだったら容赦なく殺す。・・・それがたとえ親友でも・・・。」


瞳はナイフを降り下ろした。


「きゃああああああ。」




「じゃあ、瞳さんは二人を殺したの!?」


「うん、その時にはもう精神状態がおかしかったんだ。」


話はまた現在。育美と千里は街中を歩いていた。


「それで、その続きは?」


「あ、うん。それで私、瞳に殺されかけたんだけど・・・」






間一髪のところでナイフから避けた育美。未だに精神状態がよくない瞳。二人の間に沈黙が訪れる。すると、


「私、もう嫌だ。もうこれ以上生きるの嫌だ。死にたい。死ねば潤也が待っている。潤也と一緒になれる。」


そう言うと、瞳は育美から離れると、ナイフを自分の方に向けた。


「潤也待っててね、今そっちに行くから。」


ナイフの刃は瞳の心臓を向いた。


「瞳駄目!もう馬鹿なことはやめて自粛しよ。私も一緒に行ってあげるから。ちゃんと罪を償って、また新しい恋を見つければいいじゃない。今からでも遅くないから。」


「もう遅いよ!!」


瞳は育美を突飛ばした。育美はコンクリートでできた床に尻餅をついた。


すると、瞳は大粒の涙を流していた。


「育美・・・こんな私のために・・・やっぱりあんたは最高の親友だよ。」


親友・・・。


「瞳、実は私、潤也のこと好きだったんだ。瞳が潤也のこと好きだって言った時はすごいショックだった。でも親友の瞳を失いたくなかったから、つい本当の気持ちを隠していたんだ。もう潤也には好きだって言えないけど、せめて瞳には本当のことを言いたかったんだ。」


「・・・育美、たとえあんたが同じ人を好きになったって私は何も言わないよ。親友だったら、自分の恋を頑張りつつ、親友の恋を応援したいもん。」


瞳・・・やっぱりあんたは私の中では最高の親友だよ。


「ねぇ、育美。もしあんたにまた好きな人ができたら、私空から応援するからね。」


「えっ?瞳、それどう言う意味?」


すると、瞳は育美に背を向けた。


「ありがとう。育美・・・さよなら。」


瞳はビルの屋上へと行こうとしていたのだ。育美は瞳を止めようとした。


「育美、来ないで!」


瞳は育美が飲みかけていたオレンジジュースを育美に向かって投げつけた。


「きゃあ!」


缶からこぼれ出たジュースが育美の顔にかかる。育美は目に入ったジュースを擦り落として前を見た。しかし、


「瞳・・・瞳、どこ?」


迂濶にも育美は瞳を見失ってしまったのだ。


「どうしよう・・・。瞳・・・。」


その時だった。


「きゃあああああ。」


ビルの外から女の人の声がした。育美は慌ててビルの一階まで降りた。

外に出て見ると、玄関の周りを囲むように野次馬がいた。育美は野次馬の方に目を向けると、育美は唖然とした。


「・・・瞳。」


なんと瞳が頭から血を流して倒れていたのだ。瞳は、ビルの屋上から飛び降りたのだ。


「瞳・・・瞳ーーー!」



一時間後、瞳は搬送先の病院で息を引き取った。育美は一瞬にして、片思いの人と大切な親友を失った・・・。






「1260円です。」


話は現在に戻った。育美と千里は、街中にあるフラワーショップで花を買っていた。


「その花ってもしかして。」


「そう。瞳のお墓参り。」


二人は瞳が自殺した廃ビルに向かった。




「ここだね。」


二人は廃ビルの前にいた。育美は玄関の前に花束を置いた。


「このペンダントも。」

育美は首にかけてたペンダントを花束の所に置こうとした。その時、


『育美、それは育美が大事に持っていてね。』


かすかにだったが、その声は瞳のものだった。


「今、瞳の声がした。」

「えっ・・・。」


すると、育美が一度置いたペンダントをまた首につけ始めた。


「やっぱり持ってる。その方が、瞳が喜んでくれると思うから。」


「・・・そうだね。」


二人は手を繋ぎながら歩いた。




瞳、私あんたを助けてあげることができなくてごめんね。私がもっと説得していれば、あんたは自殺せずに済んだのかもしれない。・・・でも、今さら後悔してもあんたは戻ってこないよね。だから私、あんたの分まで幸せになるからね。


だから、空の上から見守ってね、瞳・・・。

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