真奈美の悩み
「あれ、真奈美と孝太郎君じゃない?」
日曜日。育美と千里はいつものようにデートをしていると、真奈美と孝太郎君がカフェに入るのを目撃した。
白のロングコートに編み目のワンピース。首には、黒のマフラーにスパッツ。靴は、ピンクのミュールを履いた育美と、黒のパーカーに白いジャンバー。白の長ズボンにちょっと高いスニーカーを履いた千里は、真奈美達が入ったカフェに入ることにした。
「ねぇ孝太郎、最近メールが来ないんだけど、何か理由あるの?」
「・・・・・・。」
「ねぇ、聞いてるの!」
「なんか真奈美さんピリピリしてるね。」
「そりゃあ、孝太郎君からメールが来ないんじゃ真奈美だって黙っちゃいないよ。」
二人は真奈美達の席から四つ離れたテーブルに座っていた。距離はあるが、真奈美達の会話ははっきり聞こえた。二人は声を殺して聞いていた。
「ねぇ、孝太郎。何か言ってよ。もしかして孝太郎、私のこと嫌いなの?」
「・・・・ごめん、今日はもう帰る。」
すると、孝太郎は席を立とうとするが、真奈美はそれを許さなかった。
「待ってよ。そんないきなり嫌だよ。」
真奈美は孝太郎の腕を掴み、必死で止めようとした。しかし、
「は、離せ。ウザイんだよ!」
孝太郎は、真奈美を突き飛ばすと、そのまま店を後にした。
「ひどい・・・ひどいよ孝太郎・・・。」
突飛ばされた真奈美は、孝太郎からもらったペンダントを握りしめたまま泣いていた。
「真奈美、どうしたの?大丈夫?」
「育美・・・。」
育美は、黙っていられなくて、真奈美にそっと近づいた。そして、育美と千里は真奈美に話を聞くことにした。
「ええーー。孝太郎が浮気!?」
十分後、真奈美はミルクティーとアップルパイ、育美はレモンティーとイチゴチョコパフェ、千里はコーヒー(砂糖入り)とチーズケーキを食べながら話を聞くと、なんとあの孝太郎が浮気をしてるんじゃないかと言ってきたのだ。
「二週間前から全然連絡がなくて、デートの時も常に携帯ばっかりいじってて、『誰とメールしてるの?』って聞くと、『友達だよ。』ってそればっかりで、しつこく聞くと怒るから黙ってたの。ある日、デートドタキャンされた時、気になって後を着けたら、他の友達と合コンだったの。それからどんどん関係が悪くなってついには今・・・。」
二人はそれぞれ頼んだものを食べながら聞いていた。すると、育美がイチゴチョコパフェを一口、二口食べると、言った。
「たぶん、孝太郎君も友人の付き合いは大事だから、真奈美が不安になるのも無理はないよ。真奈美だって、私と一緒にいることあるじゃん。もしかすると、孝太郎君真奈美のこと心配してるんじゃないかなぁ、・・・なんて。」
「・・・そうだよね。やっぱ友人の付き合いは大事だよね。私、誤解してた孝太郎のこと。でも、これからは絶対孝太郎のこと信じよう。」
真奈美は、ミルクティーを飲み干すと、コートを持ってレジの所へ向かった。
「・・・・育美。」
「何?」
「・・・この世に、根っこから悪い人間はいないよね。」
真奈美はそう言うと、店の外に出て行った。
「よかったね。真奈美さん元気になって。」
すると、千里は育美の様子が変なことに気づいた。顔は真っ青で、手は震えていた。
「育美、どうした?」
「え、あ、いや。な、何でもないよ。」
育美は焦りながら、イチゴチョコパフェを再び食べ始めた。
『明らかに何かおかしい。』
千里は心の中でそう思った。
「うーん。どれにしようかなぁ・・・。」
街はもうクリスマス一色。育美は、大きなショッピングモールにいた。クリスマスデートの時に渡すプレゼントを買いに来たのだ。
「ペアウォッチは・・・九千八百円!無理無理。マグカップ・・・一万円!!絶対駄目!」
どのプレゼントもかなりの値段。バイトをしている育美でも、デート代と合わせたら恐ろしいことになる。
「はぁ、もっと安いプレゼントはないかなぁ・・・。」
ショッピングモールを後にした育美は、安くて長持ちして、一緒に持てるプレゼントを考えていた。
「・・・・・・あっ、あれがいい。」
育美は、何か閃いたのかあるお店に入って行った。
しばらくすると、育美は可愛くラッピングされた紙袋を持って店から出てきた。
「千里、喜んでくれるかなぁ。」
育美はうきうきしながら歩いていると、
「ヴーヴーヴーヴー」
ハート型のポシェットの中に入れてある携帯が鳴っていた。液晶画面には『千里』と書いてあった。
「もしもし千里、どうしたの?・・・今?・・・今、街にいるよ。・・・・・・うん、分かった。今から行くね。うん、じゃあまたあとで。」
育美は、電話を切ると街の中を走った。千里の話だと、街で孝太郎と真奈美を見かけたからこっちまで来てくれっと言ってきたのだ。
五分後、育美は街の真ん中辺りにいた。すると、
「育美!」
遠くから、千里の声がした。見ると、千里が血相を変えてこちらにやってきたのだ。
「千里どうしたの?急に来てなんて。」
「いいから一緒に来て。」
千里はいきなり育美の手を引っ張り、そのまま走り出したのだ。育美はただついて行くがままだった。
しばらくすると、突然千里の足が止まった。
「育美、ごめんな。いきなりこんなことして。でも、急がないと見失っちゃうと思って。」
すると、千里はたくさんの店が建ち並ぶ方角を指差した。育美は、千里が指差した方を見ると、道の真ん中を歩く孝太郎と・・・・孝太郎から三メートルくらい離れた電柱の所でこそこそしている真奈美がいた。
「真奈美、何してるんだろう?」
育美が真奈美に近づこうとした。
「駄目!真奈美さん、もしかしたらあの日のことまだ引きずってんのかもしれないから、今俺達が出てきたら可哀想だろ。」
千里の言う通りだ。もし、千里の言うことが本当だったらこれは二人の問題だ。従ってこれは二人が解決しなくてはいけない。
「そうだね。じゃあ、気づかれないようにゆっくり行こう。」
「分かった。」
二人は孝太郎と真奈美に気づかれないように静かに歩いた。
十分後、突然真奈美の足が止まり、二人も足を止めた。二人は孝太郎の方を見ると唖然とした。
「孝太郎君!」
二人が見た光景は、いつもよりカッコよく決まった孝太郎と、見たことのない女の子だった。
毛むくじゃらの白いコートに赤のプリーツの入ったワンピースに腰にはスパンコールがついた金のベルト。髪はカールがかかった茶色に長い髪をポニーテールにしていて、首にはじゃらじゃらのネックレスに靴は高そうなブーツ。見た目だと、お金持ちのお嬢様のような人だった。
「綾香、悪い遅くなって。」
「ううん、孝太郎君が来てくれればそれでいいの。」
綾香という人は孝太郎の腕に抱きつく。ワンピースから、ちらっと見えた胸が孝太郎の視界に入る。
「何あの女。イチャイチャしてムカツク〜!」
育美はその光景を見て、建物の壁に爪を立てる。土で作られた壁がギリギリと鳴る。
「ねぇ、これからどこへ行く?綾香、遊園地行きたい。」
「よし、じゃあ行くか。綾香のために。」
「嬉しい!大好きだよ、孝太郎。」
「俺も好きだよ、綾香。」
二人はそのまま、手を繋ぎながら歩き出した。
「ほら、育美。怒ってないで早く追いかけないと。」
「そうだった。・・・・あれ、真奈美?」
育美は、真奈美の様子がおかしいことに気がついた。真奈美は追いかけようとはせず、その場に立ち尽くしていた。
「真奈美・・・?」
すると、真奈美がその場から立ち去ったのだ。
「真奈・・・。」
育美は真奈美の後を追いかけようとしたが、真奈美はすぐにいなくなってしまった。
「真奈美・・・。」
ねぇ、真奈美。こんな時、親友の私はどうしたらいいのかなぁ・・・。
そして、事件は起こった。育美の過去を掘り起こすかのように・・・。