「始まりの夜」
騎士団との激しい戦いの後、荒れ果てた荒野に残されたアルフレッド。
黒いドレスを揺らしながらゆっくりと近づいてくる華奢な女性。'
魔女の恐ろしい声が聞こえ、いつ殺されるかわからない恐怖に自然と涙がこぼれる。
「いいかい、私は悪い魔女だ。そしてお前はいづれ私を討ち国に帰る。そんなに幼ければ夜道で狼にでも食われまい?お前が1人で帰れるまで私が面倒を見ようじゃないか。」
未だに恐怖に怯えるアルフレッドを連れ、魔女は自分の棲むちいさな小屋へと帰っていった。
怯えるアルフレッドの前に紅茶を差し出して魔女は語り始めた。
「驚かせてしまって悪いね。驚かせたら逃げると思ったのだが、向かってきたものだからつい。お前のお父さんは無事だから安心しなさい。兄弟もね。」
「お父様と弟は生きているのですか!!」
安心と驚きで声を張ったアルフレッドを鎮めるように魔女は
「そう驚くことじゃないだろう。私は人殺しはあまり好きじゃないんだ。向かってこない人間を殺したりはしないよ。」
「ではなぜ兵隊の皆さんはあなたを倒そうとしたのですか?」
アルフレッドの素朴な疑問は魔女の核心をつく疑問でもあった。
「そうだね……私のような魔女は嫌われ者なんだ。私がいなくなれば国のみんなは喜ぶだろう。お前も私が怖いだろう?」
アルフレッドは不思議そうな顔でこう答えた。
「僕は…あなたは悪くないと思います。」
魔女は驚いたように
「フフ…珍しい子だね。私はね、昔から感謝されるのが嬉しいんだ。だから見えないように人間を祝福したり正しい道に戻れるようにしてやってるのさ。私の姿を見ると人間は厄介だからね。そのはずなのに…一目姿を見られたらこの様だよ。おかしいねぇ……」
魔女の頬には思いがけず一滴の涙がこぼれていた。
「大丈夫ですか…?」
幼いアルフレッドは小さな体を机に乗り出し、魔女の頬に手を添えて涙を拭った。思いがけず久しく触れていなかった“優しさ”に触れた魔女の涙はますますこぼれ落ちた。
魔女は不思議そうな顔をしたアルフレッドをなだめるように頭を撫で、
「お前は優しい子だね…とても…優しい子だ。」
と涙を拭いながら呟いた。
これがアルフレッドと魔女の始まりの夜だった。




