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エピローグ

 一連の病院脱走事件について、ニュースで見かけることはなくなった。

 イリスネットワークを介した精神移植の成功のほうが、数段注目を浴びたからだ。

 ネットワークに入り込んだ患者は七星の他にもたくさんいたらしく、彼らにアンドロイドの素体に入り込むすべを教えるのは、イリスネットワークの出口を知っている僕らにとっては実に簡単なことだった。

 もっとも未成年ということで僕らの名前は出ず、ただ白崎博士と僕の父さんだけが称賛と批判に晒されていたが——違法アンドロイドの製造罪と、海人本人の死体遺棄容疑は別件で起訴されるようだ。

 僕は、二人がそこまで悪いことをしたとも思えないのだが、世間の目は厳しい。


 騒ぐ世間をどこか他人事のような目で眺めつつ、僕らは毎日を過ごしていた。

 エンジニアに検査され、医者からも診察を受け、あげくのはてにカウンセリングまで受けるという毎日だったが、僕らはあまりに現実離れしていたためか研究機関もさじを投げた。

 『生物型アンドロイドに酷似した生物』という逆説的な名称はやがて通称『奇怪機械』に変わったが、僕らの何が変わったわけでもなかった。

 最初から、僕は僕のままだったからだ。

 入院生活からいきなり体がロボットになってしまった七星は、実際もっと複雑な心境なのだろうが、今のところ僕にそんなそぶりは見せない。


 ただ、腕のプロメテウス波はともかく、安全のために足に組み込まれていたホッピングパックまで取られた際には残念そうな顔をしていた。

 曰く、便利だったからもっと使いたかったそうだ。

 そんな彼女は、今僕の目の前で赤いソファに腰掛け、昔隠した古本を読んでいる。

 僕らは久々に駅の向こうの秘密基地に行き、昔のように無駄話をしながらなんということはない時間を過ごしているところだった。昔と違うところはただ一つ。

 この日常が、幸せだと知っていることだ。


 と、ポケットの中からイリスの無機質な声がした。


「フレンド申請が、一件あります」

「また業者?」


 七星が古本から目を離さずに聞いた。

 僕はポケットからイリスを取り出す。


「ユーザー名、ライカ。承認しますか?」


 僕らは顔を見合わせて微笑み、コンクリートの窓枠から遥か遠く、空の向こうを見上げて二人同時に言った。


「承認します」


                                     終わり

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