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プロローグ

 白い部屋に、何百度目かの警告音が響いた。


「AIチップから不明なエラーが検出されました」


 巨大な機械に接続された黒いカードが無慈悲に告げる。

 屋内ガレージを改装した薄暗い実験室で、彼——くしゃくしゃで白髪交じりの髪をした、中年に差し掛かっている男は絶望していた。

 その男は腹立ち紛れに両の拳でベッドを叩き、その脇にひざまづいてシーツに顔を押しつけた。

 もはやなんの解決策も思い浮かばなかった。


 論理的には完璧に動くはずなのだ。回路を繋ぎ直してみたり、別のチップにデータを移行させてみたり、できることは何でも試した。

 試行錯誤を重ねたあげく、追い詰められて最後にはベートーヴェンの『第五』を大音量で流すという暴挙にも出た。


 しかし、目の前にある彼の最高傑作はぴくりとも動かず、静かに身を横たえていた。

 もう一度。もう一度だけだ。男は白衣の裾で手汗を拭き、立ち上がった。

 そのとき、外から天が怒っているかのような落雷の音が聞こえてきた。人間に生命を弄ぶことはできない、と警告してくるようだ。


 これは精密機械だ。家の脇に避雷針は立てているが、万が一、壊れては困る。慌てて電源を落とそうと手を伸ばしたとき。

 小さな窓から入った稲光と共にすさまじい轟音が家を揺るがした。部屋の電気が瞬き、機械から火花が飛んだ。彼は目をつぶり耳を塞ぎながら、それが壊れないことを祈った。


 そろそろと目を開けた彼は、滑らかなシーツの上の一点を凝視した。

 人工皮膚で形成された指が、まるでピアノを弾くかのように動いていた。

 小指から親指までがきちんと繋がっているか確かめでもするように、滑らかに、一本ずつ指が上下する。


 ——そしてそれは薄い瞼を開けて、ゆっくりと身を起こした。

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