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エッセイ 2

五月病になる前にひとつイメトレ

作者: NOMAR


 五月といえばゴールデンウィーク。それが開ければ五月病の季節。

 新社会人も職場のことが解ってきて、ここで仕事をしてていいのか、仕事を辞めようか、と考える頃では無いでしょうか?


 そんな人達にひとつ、軽く考えて選んで、見てください。


 A

  仕事を続ける


 B

  仕事を辞める



 ◇◇◇A◇◇◇


 仕事を続けて5年。この仕事にも慣れて今は課長を勤めている。昔にはこの仕事を辞めようかと考えていたこともあるが、やはり安定した収入というものは大切だ。


 この工場も昔よりは利益率が上がった。昔の職人気質の年寄りが居なくなったことで、うるさく言うものも居なくなった。

 産廃業者に頼むと経費がかかるため、この工場ではコストダウンの為に廃液を川に流している。

 タンクに集めて産廃業者に頼むとかなりの費用になるが、川に流せば手間もかからず費用もかからない。


 辞めたバイトのひとりが行政通報に電話したというが、もとバイトが電話したぐらいで行政は動かない。

 死人も病人も出ていなければ、保健所だって小さな工場に立ち入り検査などしない。


 警察も行政も何もしないのだから、川に廃液を流すのは違法では無いということだ。


 辞めた年寄りの職人は煩く言っていたものだが、今のこの会社に、何故廃液を川に流してはいけないのか、を知っている社員はひとりもいない。

 本当にダメなら何年もこの工場が続けられる訳が無い。それが今も問題無く稼働しているのだから、コストダウンの為に川に廃液を流してもいいということになる。


 もしもそれがダメだと言うなら、その人がこの会社の社長以下全社員を教育してくれないといけないし、そんな奇特な人物はいない。あの社長が人の話を聞くような人物でも無いし、自分の工場のことも把握してないので話すだけ無駄だろう。


 製品というのは売れればいいし、売れたもの勝ち。そのためには品質や製造行程の偽装なんて、やってないところの方が少ない。

 それを取り締まるところだって全部を調べられる訳が無い。

 見つかったらそれはせいぜいが、スピード違反や駐車違反で捕まるようなもの。

 単に運が悪かっただけのことだ。


 景気の悪い世の中、経営を続けるためには削れるところを削っていかないとやっていけないのだ。


 この日本は民主主義。みんなで行うことが良しとされる国。


 赤信号、みんなで渡れば怖くない。

 水銀も、みんなで捨てれば怖くない。

 偽装だって、みんなですれば当たり前。

 カドミウムも、みんなで飲めば怖くない。


 死人が大量に出てマスコミが騒がなければ、行政だって何もできないのだ。

 私の勤めている会社もまだまだ違法では無い。違法で無ければ問題無い。



 ◇◇◇B◇◇◇


 やってられるかあんな仕事。コストダウンだか経費削減だかで、繋げたパイプで川に廃液垂れ流しだ。

 川の魚が死んで腹を見せて浮かんでいるのを見て、やってられるかと仕事を辞めた。


 それがケチのつけ始め。

 なかなか次の仕事が見つからず、やっと見つかってもろくでも無いところばかり。騙されてばっかりだ。

 前に辞めた会社に預けた年金手帳はかえってこない。さっさと返してくれと電話をしたら『どこにしまったか解らない。見つからない』と返事が来た。

 それなのに未払いの年金の督促状とか送られてくる。

 なんだこの国は?


 仕事も見つからず、生活保護の申請も窓口で追い返される。

 そろそろ死ぬか、それともこの国のためにテロのひとつでも起こそうかと考えていた。


「仕事を探しているのか?」

 ハローワークの帰り道、グレーのスーツの男が話かけてきた。

 その男に仕事を紹介してもらって、なんとか生活できるくらいに稼げるようになった。

 ようやく運が向いてきたのか。


 その仕事は拘束時間が短い割りに収入はいい。夜勤で夜中にバイクで配達する仕事だ。

 決められた場所にいる人物にサインの入った名刺を確認して、茶色い紙袋を決まった数配達して回る仕事。


 この仕事にはコツがある。自分が配達しているものが何か知らないことが重要。

 捕まったときに茶色い紙袋の中身について、知ってて配達するのと、上の指示で何も知らないままに配っているのとでは、罪の重さが変わるからだ。

 

 だから俺は詮索しない。自分が配ってるものが何かなんて知らない。

 配達の途中、自販機で缶コーヒーを買って一服する。

 今回、配達するものの中に新聞紙でくるまれたちょっと重いものが混ざっている。

 開ける訳にはいかないので、包みを手で触ってみる。重さからして金属か。触った感じはL字の形で、どうやら拳銃らしい。まぁ、良くできたモデルガンかも知れない。


 空き缶をゴミ箱に入れてバイクに跨がり走る。これ以上は詮索しない方がいいか。


 たとえ違法のものでも俺が配ってるのは人が欲しがるものだ。その人にとって必要なものだ。

 誰かが欲しがるものを手に入れて売るのがビジネスというものだ。まともな振りして川に廃液を垂れ流してるより、よっぽど潔い。

 まともな仕事なんて、運の無い俺にはもう見つけられない。

 だったら自分にできることを、まじめにしっかりやるしか無い。

 ドラッグだろうが銃だろうが、事故を起こさずきっちり配達するのが、今の俺の仕事だから。


 ◇◇◇


 仕事を辞めるか続けるか、悩んでいる人へ。人によってはいろいろあるのでしょうが、難しく考えてもどちらも大きな違いはありませんよ。



 私は過去に知らないままに牛乳にカドミウムを混入するような仕事をしてました。日本は怖い国ですね。

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