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ひと味違う全国チェーンの魔王さん  作者: ゆーう
2章 牧場と漁港
16/18

その5

 アルフレッドだけならなんでもいいが、異世界から来たばかりのリコッタさんには特別に美味しいものを食べてもらいたいと思い、姫川さんにとある店に宛がないか訊ねてみた。



「この近くにあったはずです。確かめてみますね」



 飲食店のことの相談は姫川さんにすればはずれはない。

 ネットを駆使するよりも、持ち歩いている『異世界ウォーカー』で紹介されていないかを確認してもらうと、目当ての店は少し歩いたところにあることがわかった。



「ちょっと歩くけど、いいお店があったよ。行こう」



 初めて日本に来たのなら、これを味わってもらうのも悪くないだろう。

 初めての料理ということで好き嫌いもわからないので、味や種類も豊富で、待ち時間も少なく、好きなものを好きなだけ食べられるお店。



「ここは……」

「回転寿司だよ」



 職人が目の前で握る江戸前寿司なんて高くて連れてはいけないが、基本的に百円の回転寿司であれば大食いの姫川さんとアルがいたって、どうにかなるぐらいの金が財布には入っている。

 一番大人だから、っていう義務感で支払うことを前提で考えているが。



「回転ってお寿司が回るんですか? あのお寿司が」



 初めて日本に来た外人さんも、言葉はわからないが回転寿司の知名度が低かった時代はこういう反応をしていたんだろうか。



「俺はさっき目が回ったぞ」

「あ、サトーさん。私が異世界から来たばかりだからって――もう、からかわないでください」



 ちょっと笑顔になって、そんなことを言うのもまた可愛らしい。

 アルと同じ血が流れているのが残酷な現実と思えるぐらいに可愛い。

 重たいドアを押して店内に入れば、



「いらっしゃませー」



 店も広いためラーメン屋ほどではないが、元気な声がかけられる。



「四名様でよろしいでしょうか?」

「はい」

「テーブルとカウンターはどちらがよろしいですか?」

「テーブルで」

「こちらになります」



 女性店員に案内されると、リコッタさんの目に飛び込んでくる長いレール。

 その上には皿に乗せられた寿司がレーンの上を走っている。



「え? お寿司が動いてる」



 日本人には当たり前の回転寿司なので、こういう新鮮な感想は出て来ない。



「お兄ちゃん、お寿司が」



 ちなみにここは魔王系列の店ではなく、昔から日本にある回転寿司屋だ。

 正直、消費者にとってはテレビコマーシャルで見て、名前を知っているかどうかよりも、同じ百円回転寿司であれば、近い店に行く程度のものだろう。



「わかってる。興奮するな。ここでのマナーは、大人のサトーにでも聞くんだな」



 俺かよ。



「サトーさん、よろしいですか? 私、どうしたらいいのかわからなくて」

「大丈夫だよ」



 案内されたテーブル席に、どう座ろうかという問題が発生した。



「俺が奥だ」

「私もそっちがいいんですけど」



 レーンの近くの、さらに川上側を望んでいる二人。

 その席は確かに一番近いが、背後から来る寿司を確認してから取らなければならない。

 だが逆に、川下側のレーンの横の席は遠くが見渡せるが、その分正面の席よりも遠い。



「……まあ、リコッタさんもいますから、今日は譲ります」



 ふふん、と勝ち誇ったように鼻を鳴らすアルが奥へと入り、その横にリコッタさんが座る。



「サトーさんは」

「姫川さんが奥でいいよ。俺は二人に比べて小食だし」



 成人男性としては普通だとは思うのだが、アルと姫川さんが食べ過ぎるから、それを比較するとどうしても劣る。



「では、失礼します」



 そう言いながら奥の席に入っていけば、アルと姫川さんが正面で火花を散らす。



「回転寿司ってそういう店じゃないよな……」

「サトーさん、最初はどういうのからがいいんでしょうね?」



 テーブルにあったメニューを手に取る姫川さんは、ちゃんとリコッタさんのことを気にかけているようだ。



「まずは玉子とか、個性の強くない味のものから舌を慣らすって聞くけど、正直好きなものを好きな順番で食べるのが一番だと思うよ」



 作法だなんだというのは、美味しく食べるためのルールだが、そんなものに縛られていたら味なんてわからない。



「そうですね、まずは玉子からいきましょう」



 刺身ではないので、昼を過ぎた今の時間であっても、玉子やかんぴょうやかっぱといった巻物は注文せずとも回っていいる。

 その間、アルは湯のみにお茶の粉を入れて、テーブルに備え付けられた湯出しボタンに湯のみを押し付けてお茶を作ってくれている。

 こういうところは意外としっかりしてるんだよな。



「あの、お寿司ってお醤油をつけるものだと思うのですけど、お皿は……」

「玉子は醤油いらないかもしれないけど、回転寿司の場合は空いたお皿を小皿代わりにするんだよ」



 皿の端に醤油を垂らしてあげると、リコッタさんがアルに割ってもらった割り箸を受け取って玉子を掴む。

 もちろん回転寿司の玉子といえば、シャリと一緒に海苔が巻かれているやつだ。



「どうぞ、食べてみて」

「いただきます」



 顔にかかる髪を手で押さえながら、緊張した面持ちで初めての寿司を口へと運ぶ。



「あ、甘い……。甘いのに酸っぱいご飯にあう」



 甘い玉子も酢飯も初めてなのか。



「不思議です」



 嬉しそうに笑顔を輝かせて、お淑やかに玉子を食べていく。



「俺もいただきます」



 俺も回転寿司――外食の寿司では箸を使う。

 出前なんて何年もとっていないが、スーパーの惣菜売り場で売っている寿司なんかは手で食べるのだが、その違いは俺にもわからない。



「久しぶりに寿司を食べた。美味いなぁ」

「次はじゃあマグロだと思って注文しておいた」



 テーブルの備え付けられたタッチパネルですでに注文していたアル。

 この至れり尽くせりな対応を見るに、そんなにヘマをして妹に怒られるのがイヤなのか……。

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