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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
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揚羽にとっては、驚くほど穏やかな日々です。

数時間後、目を覚ました揚羽あげはは、


「あ、祐次ゆうじ……それに祐也兄さんたちも?どうして?」

「あ、揚羽ちゃんだぁぁ‼起きた?起きた?」


近づいてくる子供たちに、


「あれ?穐斗あきと杏樹あんじゅ結愛ゆめ?」

「揚羽ちゃん‼図鑑‼本屋さんに行ったの。パパに買って貰った‼それにね、揚羽ちゃんにも‼」


ドーンと枕の横に置かれた小学校低学年の図鑑に、


「えーと、穐斗?揚羽兄ちゃん、図鑑は……」


それより昨日、5冊連続で見つけた図書館の本が読みたいと心のなかで呟いた揚羽に、


「わぁぁ……立体的な絵本……」


横から声が上がる。

その声をたどると、横には夏蜜なつみが横になっているベッドがあって、そこで、姉の立羽たてはが向こう側からページを開けて見せている。


「これ、凄い。お姉ちゃん。シンデレラのお城が綺麗‼うわぁ……」

「これはね?お姉ちゃんが、昔保育士をしていて、その時に簡単な立体絵本を作っていたのだけど、子育ての合間に夏蜜と瑠璃るりの為に作っていたの」

「えぇぇ?お姉ちゃんの手づくり?可愛い‼」

「本当?プロの作家さんみたいには上手くないけど……」

「ううん‼お姉ちゃん、凄い‼夏蜜と瑠璃ちゃんのために作ってくれて、うれしい‼お姉ちゃん、大好き‼」


嬉しそうな夏蜜の声に、立羽は目を見開くと、微笑む。

だが、本当に嬉しそうな穏やかな微笑み……。


「ありがとう。お姉ちゃんも、夏蜜大好きよ。これは本当‼嬉しいわ。喜んでくれて」

「うん‼大事に読むね?でも、お城が綺麗‼もしかして、フェアリーランドに行ったの?」


大型アミューズメント施設の名前を出した夏蜜に、クスクスと微笑む。


「いいえ、ここはイングランドのお城よ。ウェイン兄さんの家のお城ですって。一回、短期留学したのよ。夏休みだったから、揚羽も行ってね?ほら、ここで本を読んでるのは揚羽で、ここで王子様と御姫様をしているのは、ウェイン兄さんと、ひめのお姉ちゃんのくれない姉さん。こっちはヴィヴィ姉さんね」

「わぁぁ……王子様と御姫様……」

「本当に素敵なのよ。ヴィヴィ姉さんの旦那さんの一平いっぺい兄さんはマイペースだけど」


目をくるくるさせると、二人して笑う。


「で、ここで、お花に水をあげているのはほたる姉さんに、祐也お兄ちゃん」

「あぁぁ、庭が、花壇が出てきた‼すごーい‼」

「でしょ?」


立羽は、本当に穏やかに夏蜜と向き合っている。

本当に子供が大好きで、その為に保育士を目指した。

今は休職しているが復帰したいと望んでいる。

妹になった夏蜜も可愛くて仕方がないらしい。

顔を見合わせ笑ったり、優しくそっと体に負担にならないようにスキンシップをとったり……本当の姉妹のようである。


「ねえ、先輩。大丈夫なの?」

「ん?うーん……、トラックが暴走して二人ほど引こうとしたから、庇ったんだ。両手折れちゃった」

「折れちゃったじゃないじゃん‼先輩‼受験どうするの‼それに、出席日数は⁉」

「多分……夏休みか二月に補習かな?成績は問題ないし……確か」


うーんと考え込む。


「それに、骨がくっついたら行っても良いし……」

「足折れてるじゃないかよ‼ついでに両手も‼」

「アハハ。本が読めない~‼」

「穐斗がよんであげる‼」

「杏樹も~‼」


子供たちが突撃寸前に祐也が二人を抱える。


「はーい‼穐斗に杏樹も、ほら、福実ふくみばあちゃんが、みたいだって。穐斗。ほら、杏樹も」

「おばあちゃん~‼」


わぁぁー‼


と走っていく二人に、揚羽は、


「アハハ‼元気だねぇ。二人とも」

「そう言えば、スマホが壊れてたけど、一応警察の人にLINEの内容を見せておいたよ」

「あ、ありがとう。兄さん。それよりも、来てくれてありがとう」

「ん?気にするな。丁度こっちに用があったんだ。でも、こんなに酷い怪我とは思わなかったよ。夏蜜ちゃんもだけど」

「あ、うん、俺もこんなにひどくなるとは思わなかった。でも、頭を強打してなくて良かった」


両手を見ながら呟く。

点滴をしているということは痛み止も入っているらしい。


「ねえ、兄さん。俺……何で、こんなんやろ……」

「何が?」

「俺……成績とかは、よくわからんけど、良いけど、兄さんみたいにもっと家族を考えたり、何か出来んかったんやろか?夏蜜や姉貴が泣いたり、辛い目にあってるのを、守れんかったんやろか……」


声が震え、目尻から涙が溢れる。


あれ?


と言いたげに、周囲が静まり、振り返る。


「俺が弱いからかな?俺だって守って……もっと早く何とか……」

「それはないだろ」


傍のタオルで頬をぬぐう。


「たった一人じゃ無理だ。それに、お前一人で何をするんだ?お前は、吉岡揚羽よしおかあげはで、渡邊家わたなべけの事は知らなかった。立羽は、夫がだらしないことを言いたくても恥ずかしくて言えなかったし、夏蜜ちゃんは揚羽と接点がなかった。偶然図書館で接点が出来た。そこから一気に分かってきたんだ。それ以上揚羽が関係することはできないだろう?違うか?」

「でも……」

「なぁなぁ先輩」


祐也の異父弟の祐次は、額にてを当てる。


「あ、熱がある。先輩。怪我もあるし、昨日からぐるぐると一気に来ちゃったんじゃないか。疲れたんだろ?寝ちゃえよ」

「でも……」

「ホラホラ。先輩さぁ。のんびりしてて責任感強いんだから、今日くらいは休んだら?それに、夏蜜ちゃんだっけ?折角会えた、義理の兄弟になるんだろ?夏蜜ちゃんは悪くないんだから、先輩泣くと、気に病むよ。まずは、先輩も事故で参っているんだから、寝ちゃえよ。な?」


毛布を直す。

すると、本当に参っていたのか、目を閉じ寝入ってしまう。


「明日の事は明日に回せ……。おやすみ。揚羽」


祐也の優しい声が広がった。

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