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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
26/27

愛と祐次は直行しました。

二人が車に乗ること30分余り。


ちなみにめぐみ祐次ゆうじの家は、元は、祐也ゆうやの先輩の日向ひなた夫婦の住んでいた家で、引っ越しして他人に貸していたものの、その夫婦が転勤で引っ越した為、丁度戻る予定だった一家の家として買い取った。


すると、築10年余りだったのだが、日向側から提示された金額に寛爾かんじも愛も硬直した。

新興高級住宅地のそれも、周囲の家よりも一回りは大きい大邸宅。

築10年とは言え、かなりきれいな内装に、ウォークインクローゼットの多さ、寛爾の念願の書斎になる、周囲が本棚の空間や愛の希望の広いキッチンまで揃っている。

それなのに、予想の3分の2程度の安値である。


仲介をしてくれた嵯峨さがに、


「ここは結構いい値段ですよ?土地も高いし……」

「いえ、日向君が言うには、ここは町から離れているので、買い物は町をおりる必要があるでしょう?それに、学校に行くのも確か坂ばかりで、祐次君や葵衣あおいちゃんも大変じゃないですか?でも、思い出の家なのですが、もう向こうに住むのに慣れてしまって、ここは居心地が悪いと。誰か買ってくれる人がいればと言っていたらしいです。今回、家を探しているときいて是非出来ればお願いしたいと。人が住まなくなると、家はすぐに痛みますしね」

「そうですか……」

「父さん。俺、東の部屋‼」

「私は日差しがいや‼ぬいぐるみや本が痛むんだもの。でも、庭とかあるし、良いなぁ……前はマンションだもの」


祐次と葵衣あおいが声をあげる。

祐次が選んだ部屋は北東だが、東から日が登り、その横の南東は日差しは強いが南に手入れされた木々が適度に日差しを遮る。


「……今から建てても、土地さがしからだし、お願いしても……良いかもしれないね。ではお願いできますか?ローンなども組まなくては……」


そう伝えて手にいれたマイホームを4人は……特に寛爾は気に入っていた。




「よしと到着。祐次?お兄ちゃんに部屋を聞きなさい」

「あ、うん」


電話を掛けると番号を聞き、向かっていくのだが、その番号に駆けつけると、ノックする。


「祐次です。母と伺いました。入っても大丈夫でしょうか?」

「あぁぁ~‼祐次兄ちゃんだぁぁ‼」


ドアが開き、キラキラお目々の甥っ子と、姪の杏樹あんじゅがピョコピョコ跳び跳ねている。


「祐次兄ちゃん‼遊んで~‼」

「杏樹も‼」

「コラコラ。穐斗あきとに杏樹も。ここ病院だろ?」


順番でだっこな?とだっこしている横から、


祐也ゆうやから伺いました。大丈夫ですか?」


愛が頭を下げる。


「あぁ、めぐちゃんやないかね。久しぶりやなぁ」

「あぁ、おばあちゃんもお元気そうで……」

「いやいや、ばあちゃんも年やわぁ」

「全く、見えんわ。おばあちゃんって呼んでいいのか、しろにいちゃんのお母さんって呼んでも驚かんよ」


福実ふくみはにっこり笑う。


「だんだん。あ、そうや、めぐちゃん。祐次坊。家の子の夏蜜なつみなんよ。6年生。夏蜜柑の夏蜜。なっちゃん。祐也お兄ちゃんのお父さんの妹の愛ちゃんや。愛と書いて『めぐみ』ちゃん。で、そっちで遊んどるんが、愛ちゃんの息子の祐次坊。お兄ちゃんと同じ高校の後輩」

揚羽あげはお兄ちゃんと同じ……?お兄ちゃん、どこの学校ですか?」


ベッドの上で少し苦しそうに問いかける様子に、近くにいた祐也が、


「つかれたやろ?ありがとう。お休みや」

「あ、ありがとうございます」


丁寧に頭を下げる少女に、祐也は、


「かまんかまん。祐次と揚羽は俺と同じ高校で、夏蜜ちゃんは知らんかな?」


目を丸くする。

県内でも知られた進学校である。


「お兄ちゃんたち……凄い……」

「いやいや。兄ちゃんと先輩は凄いけど、俺は欠点ばっかり。先輩が教えてくれるんだ。今日もその予定だったんだけど……」

「ご、ごめんなさい……夏蜜が、お兄ちゃんを巻き込んじゃったから……」


項垂れる少女に、


「ちがうちがう。悪くないよ」


慌てて祐次は首を振る。

祐次は母や妹に甘い、ツンデレタイプである。

しかも、妹よりも小さい傷だらけの少女に何をした⁉と後で父に滅多うちも困る。

ちなみに、父親は現在は普通の会社員だが、若い頃はオリンピックに出場経験もある格闘家である。

母は剣道の段持ちであり、祐次も一応剣道と空手を小さい頃から習っている。


「それよりも、先輩と君のこと聞いて、来たんだ。大丈夫?」

「えと……骨折と、打撲……です。不注意で足を滑らせて……」

「いえ、図書館の黒田さんより聞きましたが、図書館の備品にはちょっと……不備が多いそうです」

「あ、嵯峨さがさん‼こんにちは‼」

「こんにちは、祐次くん」


嵯峨は微笑む。


「そういうところは、祐也君に似てますよ。君」

「エヘヘ……そうかなぁ」

「イエイエ、お世辞は良いんですよ。うちの子は、祐也程賢くありませんから」

「母さん‼」


きーっ‼


怒る息子の横でコロコロと笑う愛。


と扉が開き、看護師が、


「失礼します。お父様が、別室で看病も大変なので同室でと言うことなので、ベッドを準備させて戴きます」

「ごめんね?夏蜜ちゃん。ちょっと寄せるわね」


と準備を始め、終わった頃に、寝台に載せられた揚羽あげはが到着する。

全身麻酔のため、一時的に呼吸を安定させる吸入器が取り付けられており、ものものしい上に、両手は包帯、足も片足が吊られている。


「お、お兄ちゃん‼」


体を起こそうとした夏蜜だが、痛みに祐也が慌てて横たえる。


「いけん、いけん……横になっとり。疲れたやろ?薬の時間は……」

「お兄ちゃん……どうしたの?もしかして、立羽たてはお姉ちゃん泣いてたの……お父さん?」

「父さんはここにおるが?」


部屋にいる紋士郎もんしろうが、揚羽の布団などを片付ける。


「大丈夫や。揚羽は車にひかれかけた人をかばったんや。夏蜜は寝より」

「でも……両手包帯……それに、口にも……お兄ちゃん……」


半泣きになる夏蜜。

と、看護師と入れ替わるように入ってきたのは平和ひらかずである。


「泣かなくて大丈夫だよ。3ヶ所大きな骨折をしてて、部分麻酔をするよりも眠らせて全身麻酔をして手術したから。手術は成功。まぁ、夏蜜ちゃんと同じくらい入院だね」

「お兄ちゃん、大丈夫ですか?」

「右足の骨折と、右手の骨が数本……左手が酷かったかな。でも、大丈夫だよ。ちゃんと治したからね。後は夏蜜ちゃんと同じように骨がくっつくまで安静。夏蜜ちゃんは良い子だけど、揚羽はどうかなぁ?」

「お、お兄ちゃんも良い子です‼」


ぷっと噴き出す。


「そうだね。じゃぁ、目が覚めたらお兄ちゃんに、仲良くしようねっていってあげて。それと、夏休みは……」

「うちに来ると良い。田舎だけど、空気はきれいだし、山はきれい、水もおいしい。穐斗たちと遊べるよ」

「山?えっ?良いんですか?お、お父さん?」

「あぁ、毎年、祐也の所に行くんと、しぃん所の実家にも挨拶に行くんや。その頃は『大文字五山送り火』の頃や」

「そう言えば、しぃ兄さんの従姉妹が結婚して、子供が生まれたんだよ」


祐也が笑う。


「旦那の主李かずいと、お父さんが赤ん坊を取り合ってすごいらしい」

「主李さん……」

「あぁ、プロ野球選手の守谷主李もりやかずい。守谷は旧姓。賀茂主李かもかずいが今の名前。奥さんの優希ゆうきが、日本史を学びながら神職の勉強をしてる。妹の龍樹たつきの旦那が神職」

「守谷選手?知ってます。お知り合いですか?」

「主李と俺、友人だから」


祐也は嬉しそうである。


「主李は俺の弟みたいなものかな。祐次の兄ちゃん」

「俺、そんなに馬鹿じゃない‼」

「主李は馬鹿じゃないだろ。喧嘩売るから悪いんだ。全く。主李程心が広いのいないのに……」

「あんなのと兄弟嫌だ‼」

「揚羽は仲良いけどな?」


兄の一言にハッとする。

そして、寝ている揚羽を見て……、


「少し嫌だ……にしておく」




と、呟いたのだった。

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