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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
25/27

祐次はマザコンでもあります。

電話を切ると、


祐次ゆうじ?お兄ちゃんって、祐也ゆうや?」


目をキラキラさせる、母のめぐみ

祐也と祐次は異父兄弟……母の愛は再婚である。

そして様々な事情が重なり兄の祐也は、愛の兄の朔夜さくやの息子として引き取られたのだが、現在、ほたるの実家に婿養子に入った。

ちなみに、父と兄の仲はとても良く、二人の仲が悪い為ではなく、愛の前の夫が原因である。




それと、小さい頃から父の寛爾かんじの仕事の都合で転々としていたが数年前、愛の実家があるこの街に引っ越してきたのだが、大好きな兄と滅多に会えない為、少々不満だったりする。

今在学している高校も、兄の母校ということで入学したが、勉強と弱小だが部活の両立はきつかった。

特に苦手なのが歴史や古文、漢文、英語……つまり、文系が全滅で落ち込んで、勉強しにやって来た学校の図書館で出会ったのが先輩である揚羽あげはである。

マイペースだが友人が多く、年上には可愛がられ、年下には慕われる……温厚な彼に、


「えっと……吉岡よしおか先輩……下のお名前は?」

「揚羽」

「え?アゲハチョウの揚羽ってこう書くんですか‼へぇ……羽をかかげる」

「いや、掲げたら旗の掲揚けいようの掲になるから。その次の揚だよ。揚げるで良いの。君、掲げるってよく知ってるね。勉強したんだ」


フワッと笑うその優しい表情に、思い出したように、


「あ、すみませんでした‼先輩に名前を聞いておきながら……」

不知火しらぬい祐次君だよね?」

「読めるんですか?俺の名字‼」

「うん。それに文武両道に、正義感が強くて責任感があるって、クラスの友人もファンが多いんだ」


にこにこと笑う。


「それに、聞いたことがあって。よろしくね」

「俺こそ……よろしくお願いいたします」

「……って、それは?乱雑に本を選んできてるみたいだけど……」


抱えていた本をテーブルに置き、決まり悪げに、


「えっと、実は俺、英語と歴史と古文漢文が駄目で……実は受験の時、絶対無理って言われてたのを、兄ちゃんの家に一月寄宿させて貰って、叩き込んだんですけど、入ったらスーッと抜けたみたいで……」

「あぁ、多分、お兄さんたちも受験用に教えてくれたんだね。長期的に記憶するには覚え方が違うから……何なら、俺が教えてあげようか?教科書と授業用のノート以外の別のノートを持ってきてくれたら、教えてあげるよ」

「えぇぇ?い、良いんですか?忙しくないんですか?」

「俺は帰宅部だから。時間が合えば良いよ」

「ありがとうございます‼」


頭を下げると、揚羽は、


「あ、その本の中で一番解るのは、その歴史の本。不知火君は世界史……『三銃士さんじゅうし』とか『三国志』、読んだことがある?」

「えっと、従兄の兄ちゃんがゲームで『三国志』してました‼それと父さんが小説読んでて。俺も読んで覚えてます‼」

「あぁ、『演義』だね」

「えんぎ?」

「『演義』義を演じるって書くんだ。中国で『歴史小説』と言う意味だよ。『三国志』は『三国時代の歴史書』と言う意味」


丁寧に、紙に書いて見せる揚羽に、祐次は覗き込む。


「え?先輩?父さんの本棚には『三国志演義』って書いてる本があって……今、先輩が書いてくれた意味って、『三国志演義』は『三国時代の歴史書の歴史小説』になっちゃいませんか?」

「そう。凄いね。君、頭が良いよ。すぐに理解できる。この『三国志演義』は正確には『三国演義』。ずっと後、明の時代に書かれた小説で、日本に輸入されたときに、誤って先に輸入されていた『三国志』と混ざっちゃったんだ」

「先に入っていた?三国時代って……いつですか?」


揚羽は、祐次の持ってきた本をめくると、年表を出して指で示す。


「はい。ここに、中国の年表と日本の年表があるでしょ?受験の時に、中国の国の名前、簡単に覚えなかった?」

「あぁ……父さんが、『いんしゅうしんかん三国さんごくしん、南北朝、ずいとう、五代……』って言うのですよね?」

「今は、殷の前に夏王朝かおうちょう。周の次が春秋戦国時代しゅんじゅうせんごくじだい。漢は、前漢ぜんかん後漢ごかんと分かれていて……あ、難しくなったね」

「済みません。えっと、紙に書きます」


紙に書き込んでいく。


「あ、そうそう。三国時代の歴史の本が『三国志』。作者は陳寿ちんじゅ。三国はしょく。はい、西暦何年頃でしょう?」

「え?えぇ?んーと……聖徳太子しょうとくたいしのいた頃?」

「アハハ‼その頃は、小野妹子おののいもこ遣隋使けんずいしだよ?220年に魏の曹丕そうひが、後漢のラストエンペラーである献帝けんていから位を譲ってもらい、国を建てたんだ」

「200年?ちょっと待って‼日本、弥生時代?」

「『魏志倭人伝ぎしわじんでん』で、卑弥呼ひみこが曹丕の息子の明帝めいていに使いを送ったって残ってるよ」


祐次は次々と教科書に載っていた言葉が出てくることに驚く。


「……先輩、凄い……」

「いやいや。で、地図を簡単に作るとね?」


新しい紙に、北を示す印を残し、


「はい。ここが魏、大本を作ったのは曹丕の父の曹操そうそう。有名な側近は郭嘉かくか荀彧じゅんいく、代表的な武将は夏侯惇かこうとん張遼ちょうりょう。覚えてる?」

「あ、はい‼って、でかい‼北を全部?」

「そう。で、右下が呉。作ったのは孫権そんけん。でも、大本を固めたのは父の孫堅そんけんと兄の孫策そんさく。初期の有名な側近は周瑜しゅうゆ魯粛ろしゅく。武将は黄蓋こうがい甘寧かんねい

「あ‼赤壁せきへきだ‼諸葛亮孔明しょかつりょうこうめい‼」

「はい、不知火君、ブー‼諸葛亮は、諸葛が姓、亮がいみな、孔明があざな。亮と孔明は名前に当たるから、一緒に読んじゃダメなんだよ。だから諸葛亮で良いんだよ。で、後期の側近は諸葛亮のお兄さんの諸葛瑾しょかつきん。他にもいるけど。で、蜀はここ。建てたのは劉備りゅうび。側近は諸葛亮、龐統ほうとう、有名な武将は関羽かんう張飛ちょうひ趙雲ちょううん

「せまっ‼」


地図を見て呟く。


「そう。あのパンダのいる成都せいとを中心にした地域だから。麻婆豆腐もここ」


細かく書き込むと、


「はい。まずはここまで覚えてみて。で、孫権の帝位についた年と、劉備の息子の名前を覚えてくること。趙雲が助けた……がヒントだね」

「はい‼頑張ります!」




それからは、時々会って教わっていた。

今日は本当は、会う約束だったのだが連絡がなかったのである。


「……母さん。高校の吉岡先輩が事故に遭ったって、兄ちゃんから電話がかかって……いや、先輩のスマホなんだけど……」

「祐次の高校の吉岡君?え?もしかして揚羽君じゃないでしょうね⁉」

「え?何で知ってんの?」

紫陽花町あじさいまち竹原たけはらのお祖母ちゃんのお家に、兄さんの親友の紋士郎もんしろう兄さんと奥さんの真澄ますみさんと住んでいる筈よ?お姉ちゃんが立羽たてはちゃん」


何で自分の知らない情報を知ってるんだ⁉

呆然と見ると、


「あら、兄さんの所のひめちゃんと立羽ちゃんは同じ年で仲良しなのよ。お家同士で行き来している筈よ?あ、でも、揚羽君はちょっと年が離れているわね」

「お、俺のこと……」

「祐也や、兄さんたちから仲良くしてって言うことはないと思うわ。揚羽君は仲良くなりたいと思ったから祐次と仲良くしてるのよ。祐也が連絡してくるってことは、何か大変なのかも‼祐次?揚羽君のところに行きなさい?ほら、そこでふてくされてるのは、揚羽君から連絡がなかったからでしょう?場所がわかったんだから、行ってきなさい‼」

「で、でも……」

「祐也に会えるかもよ?」

「行く‼行ってきます‼自転車で‼」


立ち上がった息子に、スパーンと頭を叩く。

叩いた武器は、愛の愛用の竹刀である。


「朝練じゃあるまいし‼母さんが車を出すわよ」

「か、母さん‼母さんだって、兄ちゃんに会いたいだけじゃ……」

「あら?何か言った?祐次がいつも迷惑をかけているんだから、それに、紋士郎兄さんたちにも会いたいもの。行くわよ」

「俺は、迷惑……」

「あら?完全に赤点確実の成績がみるみる上がったって、去年の担任の先生に伺ったのよ?図書館で教わっているようだって……」


エプロンを外し、荷物と車のキーを手に歩き出す。


「祐次?行くわよ?行かないなら祐也に……」

「行く‼待って‼」




祐次は兄と母には敵わないのだった。

あぁ、楽しい‼三銃士は時代と歴史を読み解けていないのでf(^_^;

勉強します。

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