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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
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圭典の両親が駆けつけてきました。

しばらくして……。


「大声を出しながら、廊下を走るのはやめてください‼迷惑です‼」

「すいません‼いえ、息子の嫁の弟さんが怪我をしたってどこでしょうか?吉岡……」

「こちらにはおりませんよ」


廊下ではそっけなく言い放つ看護師さんの声。


「どこにおるんぞ‼」

「あの嫁が、携帯をとらんけんや‼」

「圭典が悪いんじゃないわ‼あの女がたぶらかしたんや‼」

「アバズレ女が‼金持ちの娘や言うて、鼻にかけて‼うちらを見下して‼」


廊下の声に、立羽たてはは瞳を潤ませて俯く。

情けなく、恥ずかしく……哀しすぎて……。


「失礼ですが……」


外で声がして、おや?っと振り返る家族や立羽の幼馴染みたち。


「ここは病院ですが?しかも、子供病棟です。見舞いで来られたのならそれなりに時間を守ってくださいませんか?」


ハッキリとした声……。


「それに、大声を出して走り回るのをやめてくださいと看護師から指摘されたのです。従ってくださいませんか?出来ないのなら出ていってください」

「なっ!」

「あんたは……」

「ここの医師です。私は、患者を診る、守る責務があります。子供が怯えています。お帰りください」


ピースこと村上平和むらかみひらかずは厳しい顔で言い放つ。


「いや、嫁の弟がここに言うて……」

「向こうが連絡もせんけん、時間がかかって……」


気圧されたようにモゴモゴと口ごもる二人に、平和は、


「はっきりいえや‼謝罪もできん人間が‼怪我人の家族や、相手側に文句を言うだけで、なんやそれは‼」


と、柔道をしていた頃の名残の大音声で怒鳴り付ける。


「ここは病院や‼患者さんやそのご家族に害をなすなら、帰ってくれ‼誰か‼警備員を‼」

「はい‼」

「帰ります‼帰ります‼失礼しました‼」


ざわざわとした騒動から少しして、ノックが響く。


「失礼します。村上です」

「あ、どうぞ‼」


一番近くにいたほたるが扉を開けると、


「わぁ……姉さん。そのお腹で元気そうで……」

「四人目‼うちのお母さんは『高齢出産や……もうかまん』言うてた。『孫もおるのに……』って」

「あぁ、風遊ふゆさんですか。蛍姉さん兄弟何人でしたっけ?」

「ん?えっと、雛菊ひなぎくお姉ちゃんに、うちに……妹6人‼」


ちなみに、風遊は標野しめのの8歳下の弟の醍醐だいごの妻で、雛菊は蛍の異母姉で、標野の双子の兄の紫野むらさきのの妻で、こちらは長女にあかねと下にちょこまかと双子の男の子が生まれた。

男の子3人だった母は雛菊や風遊、ひめと言う息子の嫁を溺愛しており、媛が武道の道を進むことを応援していた。

だが、きっと孫の顔が見たいだろうと媛は悩んでいたのだった。

柔道の道を諦めることはないが、子供がいたらもっと違うかもしれない……。


「あ、そうだ。すぅお姉ちゃんが取材させてくれ‼って言ってたって、日向ひなたお兄ちゃんが」

「は?俺ですか?」

「うん。すぅお姉ちゃん、ぴーくんのファンなんだって。ブライス人形素敵‼って。すぅお姉ちゃん、仕事に入ったら他全部頭に入らなくて、お母さんやぴーくんみたいになにか作るって出来ないからだって」

「いやいやいや……俺の方が、すぅ先生や日向先生のファンですよ⁉あの大作‼俺、ゆうにいちゃんの先輩だって聞いてたけど、あの作家の日向糺ひなたただすが、あのお二人とは思いませんでしたよ?」


日向糺……13年ほど前にデビューし、身分も本名も、姿も隠した作家だったのだが、約10年前に起こったある事件を、取材と当人達に話をし、ついでに取材協力をしていた夫である日向が巻き込まれた事件を出版し話題になった。

本名は、一条糺いちじょうただす……女性である。

現在は10才になった長男の風早かざはやを筆頭に次男の那岐なぎと男の子ばかりらしい。

そして、糺だけでなく日向も田舎暮らしを満喫しつつ、子育てに環境問題……などなど精力的に活動している。

ちなみに日向も執筆活動をしており、その傍らで妻の作品の資料集めに奔走している。


「それに、兄ちゃんも何気に作家」

「いや、俺は作者じゃなくて翻訳家で、聞き取りと通訳だから」

「とか言いながら、俺も巻き込んだくせに」


祐也ゆうやは旧姓の安部祐也あべゆうや名義で年に数冊、本を出版している。


これは、約10年前に発覚した事件の被害者である蛍や雛菊……その姉妹たちの為に財団を作り、今イングランドや日本にいる現在でも苦しむ姉妹たちを支援するため執筆を続けている。

それは、姉妹たちの経験した苦しみ……妖精と人間との違いや、環境破壊……安易に妖精の世界を覗くことや、邪魔をすることについてを細かく記載し、残しておくことで同じ世界でも、時代が変わってもそういう存在はあり、逆に彼らがあることで、この世界の均等が守られていると伝える。


一回、限定で出版を記念して、義母の風遊に頼み、限定ベアを作って貰い、オークションをしたところ、唖然とする結果となった。

風遊の大ファンで祐也の兄の一平いっぺいの妻のヴィヴィが高額を寄付したのである。


これじゃぁ駄目かと、祐也は幼馴染みの平和にブライスのデザインを頼み……平和は数日でカスタマイズした自分オリジナルを作り上げて持ってきたため、出版会社から通じて、ブライスの販売会社と話し合い、平和のカスタマイズしたブライスを再現し、『フェアリープリンセス』として販売したところ大ブレイクし、平和の作家ネーム『フェアリーピース』は一気に有名になった。


「俺は作家じゃなくて、可愛い子を連れて歩きたいの‼」

「はいはい。といいつつ、お前ブライスにお金つぎ込んで、大学も通えなかったじゃないか」

「うっ……」

「それに、お前のオリジナルは、お前のもとに戻ったし、それに、向こうからも何体か……」

「すみません‼それ以上は‼」


必死に手を合わせる。

家にあるコレクションの幾つかは、頂き物で、現在だとかなりの高額である。


「お前、ブライスと結婚するのか?っておじさんたち心配しとったぞ?」

「くぅぅ……親父もお袋も余計なことを」

「いや、心配するわ。あ、またあとで、所用が」

「……ゆうにいちゃん。俺を使いっぱしりか……」

「いや。祐次ゆうじがなぁ……最近反抗期らしくて。おじさんやおばさんが心配しとって……」


異父弟である。

不知火祐次しらぬいゆうじ……高校二年生である。

ちなみに、父親の転勤もあり県外を転々としていたのだが、祐次が高校に入るのを期に、この街に家を建てたのだが……。


「まぁ、高校が俺と同じところに行くんだと入ったんだが……手はあげないが、口を利かなくなったらしいんだ。俺の家に呼んでも良いが……と思ってて」

「あぁ、祐次は時々会いますよ。聞いときます」

「頼む。いや……弟だと分かってても、何を話して良いか、難しい……その点、お前は……」

「兄さん?」


平和が睨み付けたのを、祐也は噴き出したのだった。

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