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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
22/27

夏蜜は、年下のお友だちができて嬉しそうです。

ベッドに近づいてきた男の子と女の子に、夏蜜なつみは、


「初めまして。夏蜜です。兄弟ですか?」

「うん‼夏蜜お姉ちゃん。僕は清水穐斗しみずあきとって言うの。妹の杏樹あんじゅ結愛ゆめなの」

「杏樹だよ?お姉ちゃん。大丈夫?」

「ありがとう。杏樹ちゃん優しいね。夏蜜は大丈夫だよ」


微笑むが、優しそうな青年が、


「夏蜜ちゃん。無理はせん方がええけど、しんどくなかったら遊んでやってくれるかな?」

「あ、パパ‼」

「穐斗も杏樹も夏蜜お姉ちゃんは怪我しとるけん、無理させたらいかんで?」


祐也ゆうやである。

がっしりとしているが、笑顔が優しい。

端正というよりも、穏和さが溢れている好青年である。


「わぁぁ……お人形さん‼」


杏樹がヴィヴィちゃんを見ると声をあげる。


「可愛い‼」

「お姉ちゃんのやけん、触らせて?ってお願いし?」

「うん。お姉ちゃん、頭撫でていい?」

「うん。あのね、これ、お姉ちゃんも先生に元気になるまでって言われてるの。一緒にお友だちごっこしようね?」


遊び始める。


子供たちをベッドにはきつそうだったため、椅子を持ってきて座らせる。


その間に簡易ソファとテーブルに、標野しめのは持ってきていたお重を広げ、


「これ、お婆ちゃん、立羽たてはちゃん。夏のお菓子や。ばあちゃんの好きな金魚もあるさかいに」


と見せる。


「あぁ、えぇもんを。だんだん」


福実ふくみは綺麗な金魚鉢をうっとりとみいる。

立羽も、


「シィ兄さんとサキ兄さんにお菓子を貰うようになったら、他のお菓子は口にできんようになったんよ。それに、揚羽あげはは兄さん、知っとる?あんまり口にせんようになったんよ」

「そうなんかいな?それはうれしいわ。揚羽はあてにとって、弟やさかいになぁ」

「何いよんで。おっさんやのに。立羽。シィはこれでも、ゆう兄ちゃんより9つも上やで?うちらよりも14も上や。あーちゃんはシィの息子や息子‼」

「失礼な‼」

「40も前でチャラチャラせんのよ‼ぼけ‼」


ひめは厳しく突っ込む。


「媛はん……嫁はん……最近厳しいわ」

「全く……」

「媛ちゃんは、何や目の方がキリッとしとらんかなぁ?もしかしてできたんかな?」


福実の問いに、媛は硬直する。

目を見開いて振り返った標野は、


「えっ?ほんまか?」

「……えっと、多分……」

「病院で見て貰い‼すぐや‼」

「いや、ちょっと待って、まだわからんし、月曜に行こうかと、たっちゃんに聞いてから……」

「立羽ちゃん‼色々教えてくれへんやろか‼」


形相が変わっている。

ちなみに結婚してから5年……初めての子供である。

立羽は微笑む。


「えぇ。でも、嬉しいわね。おめでとう」

「……いや、今回はたっちゃんや家族の事が心配でしょ?」

「それとこれは別よ。あ、解るまで……解ってからも大人しくしなさいね?」

「エェェ?」

「ホラホラ、休みなさいな」


座らされる媛は居心地が悪そうである。

扉が開かれ、現れたのは紋士郎もんしろう嵯峨さがである。


「嵯峨‼」

「何だ?うるさいぞ。病室で」


走りよってきた標野が、


「ひ、媛に赤ン坊でけた‼」

「ちょっと待ちなさい‼シィ‼」

「やったぁ‼サキやおとうはん所に……」

「喜ぶのはいいが、だーまーれ‼」


嵯峨は、頭を叩く。

そして小声で、


「……揚羽あげは君は手術だそうだ。それと、渡邉わたなべ家の人間が何食わぬ顔で来た。お父さんが怒ったら、飛び上がって逃げたぞ。甘くみていたらしい」

「あ‼」


目を見開いた立羽に、紋士郎が目で合図する。

夏蜜は穐斗たちと妹の瑠璃るり、祐也夫婦が見守っている。


「……あの……渡邉の……親ですか?」

「いいや、あれのすぐ上の兄だったか?詳しく聞いてないと、ただ怪我をさせてしまったらしいから様子を見に行けと言われたといっとったけん、追い出しといたわ」

「あ……」


立羽は持っていた荷物から、一通の封筒を取り出すと、中身を広げる。


『離婚届』には立羽の名前がしっかりと書かれていた。


「これをお願いできませんか?手続きを……」

「お預かりします」


嵯峨は受けとり、大切にし舞い込む。


「所で、色々お伺いしたいのですが、福実さんは夏蜜ちゃんを養女でよろしいのですか?」


ためらいがちに嵯峨は問いかける。


「昔から取り決めの通り、紋士郎さんを養子にして、そして夏蜜ちゃんは紋士郎さんの娘にということもできますが?」

「いや……紋士郎がいいよったけんなぁ……」

「いえ、私は養子でも良いですけど、今回……と言うか、立羽が騙されて結婚したときに、思たんです。立羽は自立できる。やけん、わしやのうてばあちゃんに揚羽を養子にしてくれと言っとったんです。でも、夏蜜に会って……引き取るときに、ばあちゃんの娘にすればいいかと」

「……あまり意味は解らないのですが……?」


困惑する嵯峨に、真顔で、


「いえ、嵯峨さんは知らんでしょうが……家の息子はのんびりと言うか……マイペースで面倒くさがりで、受験も億劫がる……将来の夢もない息子なんですわ。夏蜜と出会って数日ですが、珍しいもんを見ましたわ」

「珍しいもん?」

「姪になる瑠璃にもそっけない子やったのに、夏蜜にだけはエェ子やとか、よしよしとか構いよる。もう、何も夢がないなら、夢を作ってやれと思いまして。『竹原たけはら』の跡取りというレールを外してしまって、自由にさせてもエェかと」

「えーと、分かりにくいんですが……」

「あ、簡単に言うとですな?自分の娘を散々わるぅいいたくないんですが、立羽が付き合う男は皆、『竹原』の看板をみるんですわ。アホ男ばかりで……最後に泣くんは立羽やのに、それでも信じて……これですわ。立羽が悪いというよりも、揚羽が『ふーん……親父が跡継ぐし、まぁ、ばあちゃんも大好きやけん構わんなぁ。うん』と言う、やる気の方向性もおかしなっとる、アホ息子なんです」


紋士郎はため息をつくが、横で標野は、


「そう言いながら、揚羽はここの進学校でも上位で、県外進学勧められとんや。全国統一テストで結構な数値叩き出しとるわ」

「どれくらい?」

「首都圏とあてらの里の大学はストレートや。偏差値かなりあるて本人平然というとった。揚羽は自慢しとる訳やのうて、事実を淡々と証言しとります……みたいな感じやったわ。ほな、あてらの地域の大学お行きや言うたら……『大学行って何しようか?』やて。あてらの地域やったら色々見て回ること出来るがな言うたら、『あぁ……それもあったか。兄さん考えときます。でも、それ言うと、学校がうるさいんですよね……何でそこを選ぶんぞ。こっちにせんか?それとも全部受けてみぃや言うて……うんざりや。面倒くさ』ってぶつぶつや。将来はどうするんやとおもとったけど……」


紋士郎は、頭を下げる。


「夏蜜がわしの子供やのうてばあちゃんの娘なら、揚羽がしっかりして、将来を考えるようになったときに、揚羽にも選択肢が増えるんです。それに、立羽もアホな男どもに騙されんでも幸せになれる……」

「あの、父さん。私は瑠璃もおるし……幸せなんやけど……」

「黙っとけ。自立する言うて仕事して貯めとったお金崩して、すっからかんやろが。家に戻ってこんか‼金を貸してくれ言うたら、もっと前に……」

「……ごめんなさい」


俯く。

実際、立羽の貯金はほぼ無しで、実家に帰るしかなく……職場復帰を考えていた。


「離婚せぇ。ちゃんと嵯峨さんにお願いして……えぇな?」

「はい……よろしくお願いいたします」


立羽は頭を下げるのだった。

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