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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
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揚羽はウトウトと全身麻酔は何故だ?と思っています。

ピースこと平和ひらかずは、揚羽あげはの怪我に絶句した。


「こ、これは……」

渡邊圭典わたなべけいすけと言う男が、引っ越し業者の車に乗っていまして、運転席の業者の人を追い出して、アクセルを踏んだそうです。で、それに気がついた彼が、知人やもう一人の引っ越し業者の人を突き飛ばして、一人撥ね飛ばされたと。あちこち痛みが出ていると車のなかで、レントゲンを撮りましたが、左手の骨折はここまで……右手も痛むと。でものんきに、『この両手じゃ図書館の本が読めんが~‼それになつみと遊べん~‼』と言って、お父さんが『なつみを忘れんかったんはよし‼だが、受験を忘れてどうするんぞ‼』『あ、そうだった』と言っていたのですが、段々辛そうになって……」

「ありがとうございます。受けとります」


カルテを受け取り、チェックすると、


「レントゲンを、それに内臓に、頭部になにかなっていないか確認。それと、左手の手術。揚羽……この吉岡さんは左利き、後に支障が残らないように、丁寧に」

「はい‼」


スタッフは動き出す。


「おい、揚羽……」


麻酔は、使っていいものかわからないため用いておらず、痛そうだが、


「ん?兄さん……生きてるから大丈夫でしょ」

「このバカが‼」

「と言うか……ばあちゃんの家を、俺の家を……家族の家を、それに夏蜜なつみの家を……ボロボロにしてほしなかったんや。姉貴の結婚は止めれんかったけど、家から家財一切を持ち去ろうとしたあの男だけは許せんかったんと……関係ない人も一緒にひこうとしたけんな、突き飛ばしてしもた。学校の友達と、業者さんやったけど……でも、ジクジクいたいのと、うおぉっての、右手のじわじわの方が耐えられんなぁ……それに、足も、ヤバイかも」

「お腹とかは?」

「うーん。背骨は無事。首も大丈夫やろ?肋骨も多分あってもひび。それより左手と右手無事やろか?一応両利きやけん、食事は大丈夫やと思うけど、右手で文字を書く特訓するんやったなぁ……」


何故、この幼馴染みは、こんなに大ケガをしているのにマイペースなのか聞いてみたい。

眉間をグリグリとし、レントゲンを撮り、検査をし、


「……両手の骨折、肋骨骨折、右足骨折、全身打撲。内臓と頭部が無事なのが奇跡だ」

「イェーイ」

「喜ぶな‼夏休み中入院だ‼入院‼受験生が‼」

「あぁ!」


思い出したように声をあげる。


「何だ?」

「図書館に行けない車イスで行ける?兄さん」


のんきな幼馴染みの一言に、珍しくキレたピースは、


「すみません‼全身麻酔で、手術します‼」

「はぁ?兄さん。骨折手術ここ……」

「黙れ‼全身だ全身‼お願いします。聞くまでの間に患者のご家族にお話しします」


と麻酔科の医師に頼み出ていく。


「平和……先生‼揚羽は‼」


紋士郎もんしろうの横には、30代半ばのきりっとした人物が……。


「申し訳ございません。私は、揚羽君と夏蜜ちゃんと、今回の事件の弁護人の大原嵯峨おおはらさがと申します」

「大原さん‼あの祐也兄さんたちの事件の……あ、申し訳ありません。これから手術ですので簡単に説明に参りました、担当医の村上平和むらかみひらかずと申します。揚羽……吉岡くんですが、両手の骨折と肋骨骨折、右足骨折で、全身打撲です。奇跡的に頭部と内臓は無事です。ですが、左手の手術と、本人は気がついていませんが、右足の骨が数センチずれて、このまま固まるといけませんので、もとの位置に戻す手術を行います。ですので全身麻酔と、少々時間がかかりますので、こちらで待たれるよりも……」

「全身麻酔‼」


驚く紋士郎に、平和は、


「いえ、局部麻酔に痛み止では、力が抜けるんです。揚羽……『図書館に行けない』とか喋るので、受験生が‼と思って、もう寝てろと……」

「……すまん。あののんびりさは誰ににたんかわからん……」

「揚羽らしいとは思うんですが……素直に痛いと言えないのかとは思います。あ、すみません。手術の準備が……失礼します」


丁寧に頭を下げる、10歳は年下の青年に、


「きちんとされた青年ですね。先生は」

「家の隣が実家です。揚羽と立羽たてはの幼馴染みで、祐也や一平のようになるんだと柔道を。でも怪我をしてやめていく同期に、医者になると」

「そうなんですね……」

「本当は……立羽と一緒になってほしかったのに……」


紋士郎の言葉に、嵯峨は、


「運命と言うのはどうなるか分かりませんからね。知っていますか?ほたるちゃんのお母さんの風遊ふゆさんは、あのシィの8才下の弟と結婚したんです。で、シィの双子の兄は蛍ちゃんの母親違いのお姉さんの雛菊ひなぎくさんと結婚しているんですよ」

「それは聞いたことが……」

「じゃぁ、シィの弟の醍醐だいごは、10代の頃に実家に何回かお菓子を買いに来た風遊さんに一目惚れやったそうです。でも、忘れていてそうしたら、蛍ちゃんの双子の兄の穐斗あきと君……行方不明ですが……穐斗君が実家で地域のお祭りがあると誘ったら、再会。また一目惚れしてプロポーズですよ」

「はぁぁ……」

「で、シィの双子の兄は、紫野むらさきの言いますが、あの有名な事件にイングランドに行ったときに出会った雛菊さんに一目惚れされて、ついていく~‼だったとか」

「それは情熱的な……」


言いようもなく呟いた紋士郎に、嵯峨は吹き出す。


「いえ、実は、雛菊さん。サキ……本人よりも、彼の作るお菓子が美味しそう……帰っちゃうと食べられなくなる。じゃぁ、日本についてかえってお菓子を全部食べるんだ‼と、反対を押しきって来たんだそうです」

「お、お菓子……」

「えぇ。サキ……困ってましたよ。作って~作って~って、鳥の雛のように口を開けてるみたいでって」

「それもすごいなぁ……」

「でしょう?」


嵯峨の言葉に、紋士郎は吹き出す。


「……嵯峨さん。娘のおる部屋で、お茶でも。ここは冷房が効きすぎとるけん」

「ありがとうございます」


二人は揚羽に心を残しながら病室に向かったのだった。

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