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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
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揚羽は痛みよりも心配でした。

「父さん……姉貴に夏蜜なつみは、大丈夫かな……」


止血に簡単な傷を治療してもらいつつ、呟く。

ハラハラと様子を見守っていた紋士郎もんしろうは呆れる。


揚羽あげは。お前、怪我の様子もわからんのやぞ?」

「俺は多分動けるし、夏蜜よりも軽いと思う。それより、姉貴が泣いてないかなと思って」


紋士郎はため息をつく。


立羽も揚羽も兄弟仲がいい。




紋士郎は兄姉兄の下の末っ子であり、実家では筋肉族の兄貴達が殴りあいのケンカ三昧に、姉は立羽程口は達者ではないが、かなりの強者で、


「うるっさいのよ‼このボケどもがぁぁ‼」


と、父が嘆いたほどの怪力乱神である。

その為、逆におっとりとと言うかのんびりと育った。


少し離れたところで育ったが、お墓に両親と兄弟とお盆前やお彼岸前に掃除とお参りをし、その帰りに必ず竹原たけはらのお屋敷に挨拶に行った。


大きなお屋敷に一人ポツンと座って微笑んでいる大叔母が、何故か寂しそうで……。


「おばちゃん‼こんにちは‼」


と、いつもはもじもじとするものの、かけていった。


「お墓参りかい?よう来たなぁ」

「うん‼ちゃんと『のんのんさん』に手を合わせてきたけんな。おばちゃん‼やけん、ここの『のんのんさん』にも手を合わせにきたけんな。一緒に手合わそうや」


『のんのんさん』は方言で、お寺の仏像や、お地蔵さん、お墓に眠られている仏さま、ご先祖、仏壇のお位牌すべてである。


親や祖父母が、子供と手を合わせ、


「『のんのんさん』に、来たけんな、言うてお言いな」


と言って、


「『のんのんさん』……」


と手を合わせるのを子供は見て育つ。

最近は、こう言う優しい言葉は無くなっていく。




しかし、紋士郎は高校を卒業し、料理人の修行にはいる前に、両親と兄弟と共に福実ふくみのところに行った。

その時に、父から竹原の家の養子にと言う話を聞き、兄たちを見て、


「兄貴達と姉ちゃんは、おばちゃんと反り合わんわ。と言うか、おばちゃんが参るわ。それに、俺は財産は要らんけど、ここでおばちゃんと住むんもえぇなぁ……」


と、即座に、


「かまんで?俺……おばちゃんとのんのんさん守ろうわい。お墓参りにも行きやすいし、でも、おばちゃん、俺でかまんの?」


自分は大叔母が大好きだが、聞いてみたかった。

申し訳なさそうに眉を下げ、首をかしげ、


「紋士郎も、かまんのかね?おばちゃんの世話せないかんので?」

「それくらいかまんかまん。まぁ、父さん、母さん、兄貴達と縁が切れる訳じゃないけん、おばちゃんも俺の家族や」


それからは二人で、それからは結婚し、立羽と揚羽が生まれて5人家族で過ごしてきた。

幸せに暮らしてきた。

それを壊したのは、圭典けいすけ……家族も、孫の瑠璃も、そして昨日、引き取ることになった夏蜜も、悲しませた、苦しませたのは、婿とも呼びたくはないあの男である。


「立羽も参るような娘やない。それに、ばあちゃんもおる。かまんかまん」

「あぁ、そうやった……でも!父さん‼あいつ‼家の中、荒らしてた‼陸也くにやおじさんの遺品も……大丈夫やろか?」

「‼……真澄ますみが何とかしてくれるやろ」

「そうやなぁ……いててっ‼」


思い出したのか声をあげる。


「どうしたんぞ?」

「利き手の左手が痛いんよ。手の平と指も……ゲッ!」


左手をゆるゆる持ち上げた息子の指を見て絶句する。


「なっ?救急隊員さん‼息子の手が‼変形して骨が突き出とります‼」

「えっ?」


駆け寄ってきた救急隊員は、なるべく痛まないように確認し、


「右手はどうですか?」

「そう言えば……なんか、ジワジワ……」

「レントゲンですね。ヒビかもしれません」

「な、何てこった‼図書館の本が読めんが~‼せっかく、5冊続けて借りれたのに‼それとかわいい妹の夏蜜に……」


息子の叫びに、紋士郎は低い声で、


「おい、一応受験生やないんか?お前は」

「あ、受験勉強出来んな……」

「気持ちがこもってないわ‼まぁ、えぇわ。受験より娘の夏蜜の方が優先や」


親子のずれた会話に救急隊員も心配するが、後日、吉岡揚羽よしおかあげはと言う少年は、県内でも有数の進学校の上位クラスの生徒だと分かったのだった。

弟が、ひどい骨折をした時は、右肘の脱臼と、肘の骨にひびが入り、脱臼を治すために押し込む時に、弟が泣き叫んだ声を覚えています。

弟、小学校二年生、姉、五年生。

後遺症は一生もので、肘が今でも90度までしか曲がりません。

リハビリに一年ほどかかりましたが、幼い弟にとっては辛かったようです。


この怪我を負わせた子供たちは、もうすっかり忘れているんでしょうね。

弟は仕事に支障が出る程、今でも腕が曲がらないのに……。

うんていで遊んでいる同級生を下から引っ張った……ただの面白半分のいたずらが残した物は何でしょう……。

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