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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
16/27

帰宅した揚羽が見たものは……。

夏蜜なつみは大人しく、賢いが、本当にずっと一緒にいるのはやはり緊張した。

嫌いではない。

ただ申し訳なさと、義兄への怒りである。

揚羽あげはは、玄関前に止まっていたタクシーに乗り、


「すみません。紫陽花あじさい町の動物病院があると思うのですが、そこの近くの竹原たけはら家に、お願いします」

「あぁ、あの、竹原さんの」

「はい、孫になります。兄弟が怪我をして、付き添っていたのですが、入れ違いに帰るので」

「それはお疲れ様だね」


車を回してもらいながら、微笑む。


「ありがとうございます」

「近くまで休んでいるといいだろう」

「助かります」


荷物を横に置き、スマホを開けた。

lineが入っていた。


『おい、揚羽。なんかあったか?』

『あげっち。図書館で事故があったって、お前と違うんか?』

『ひどい怪我か?』


心配そうな内容に、


『ごめんなm(__)m俺は軽症。頭のたんこぶと、首の捻挫。転落した女の子が重症で、付き添ってたんだ。返事も遅くなってごめん。病院にいたから』


と打ち込む。

すると、すぐ返され、


『お前も怪我したのか‼大丈夫か?』

『それに、女の子って、そんなに酷いのか?』

『テレビでは、学生と小学生が不備のある器具に足を滑らせて転落って……』


『女の子は、グラグラとした脚立から背中から落ちて、痛いのを堪えて起き上がったら脚立がその上に、で、骨折と頭と顔を強く打って、入院だよ。心細そうだったから、付き添っていたんだ』


『うわー‼大変だな』

『所で、お前んち、の前にいるんだけど、なんか、お前の義理の兄貴が引っ越し業者と来てるんだけど?』

『あ、そう言えば、さっき行ったら鍵屋呼んでたぜ』


『はぁ‼ちょっと待て‼』


今は家に誰もいない。

これはおかしい。


『俺の姉貴、義兄と離婚するんだ。だから、昨日から色々揉めてたんだけど……』


『警察呼べ‼』


『そうする‼』


警察に電話を掛ける。


「何がありましたか?」

「すみません。紫陽花町の竹原の孫の吉岡揚羽よしおかあげはと言います。実は昨日、私と家族が怪我をして、一日泊まって、帰っているのですが、友人からのlineで、不審な引っ越し業者がいたと……。別の友人は鍵屋が来ていたと……すみません‼私はタクシーで向かっています‼助けてください‼」

「紫陽花町の竹原さんのお宅……住所の細かい番号は……」

「はい、紫陽花町の……。あの!もしかしたら、渡邊圭典わたなべけいすけと名乗るかも知れません‼」


電話口で、


「渡邊圭典さんですか?」

「姉の夫で、離婚すると言うことで言い争いになっているんです。前に何回か家から物を‼次やれば警察にといっていました‼」

「わかりました。渡邊圭典さんですね?」

「はい、お願いいたします‼」


説明し、切る。

一応、夕方戻ってきたら包帯を変えると言われたが、ズキズキと痛み始める。


「大丈夫かい?」

「あ、すみません。別の家に住んでいた姉夫婦が離婚すると言うことになり、それに腹をたてた義兄が、家に乗り込んで来たみたいです」

「それは大変じゃないか。急ごうか?」

「いえ、警察にお願いしたので……あと一回電話構いませんか?すみません」


と頭を下げ、今度は姉に掛ける。


「どうしたの?なっちゃんの写メ送るわよ?」

「姉貴‼あの、渡邊圭典あねきのもとだんな‼留守中の家に鍵屋を呼んで、業者呼んで、荷物を‼」

「何ですって‼」

「俺が友人とlineしてたら、家がおかしいって言ってくれた奴がいて、警察呼んだ。夏蜜ちゃんだけは知らせないでくれ。俺がそのまま戻るから」


電話を切る。


しばらくして、家に戻ると、車を出そうとする業者の前で友人たちが立ちふさがっている。

タクシーのおじさんが車を真正面に寄せた。


「なにしよんで?」


プップー‼


クラクションをならす。


「仕事の邪魔をこのガキが‼」

「おい、兄ちゃん?」

「はい‼」


出ていった揚羽は学生証を見せ、業者に示す。


「すみません。ここ、俺の家です。両親と祖母と姉と姉の娘と妹の家ですが、何故勝手に荷物を出しているんですか?泥棒ですよ?」

「えっ?えぇ?」


車の中でイライラしていた3人乗りのトラックの助手席の業者の男が降りてきて、


「え?ここは渡邊圭典さんの……」

「違います‼ここは竹原福実たけはらふくみ……祖母……父の大叔母に当たる人の家で、子供のいない祖母の養子に父が入る手続きをしています。私は、吉岡揚羽‼そこに名前が書き込まれています‼どう言うことですか‼」

「いえ、渡邊圭典さんが、引っ越しをするからまずは貴重品をと……」


しどろもどろに告げる。


「渡邊圭典は、姉と別れ話が出ている、すでに姉が離婚届をつきだしている、関係者外です‼何故確認をしなかったんですか‼」


食って掛かっていると、パトカーが来て、タクシーが移動した。


「どうされました?」

「あ、すみません‼吉岡揚羽です‼あの、渡邊圭典さんが‼」


トラックの中で青い顔の元義兄を示す。

と、突然、運転席の業者を扉を開けて追い出すと、運転席に移り、アクセルを踏んだ‼


揚羽は、咄嗟に業者さんと警官を突き飛ばしたのだった。




青ざめた顔で真澄ますみ紋士郎もんしろうを迎えに行き、自宅に戻った。

と、救急車が止まっている。


「ど、どうしたの?どう言うこと‼」

「あぁ、しろちゃん、すみちゃん‼」


隣の家のおばさんが声を掛ける。


「ど、どうしたん?なんか……」

「どうしたんもないわ‼あっちゃんが‼あっちゃんが、たっちゃんの旦那にはねられたんよ‼」

「あ、揚羽ぁぁ‼」


車から飛び出し、駆け寄る。


血に染まった息子がぐったりとしていて、向こうには警官に取り押さえられている圭典がいる。


「至近距離からアクセルを踏んだこのトラックではねようとした他の人を庇って、彼が……」

「揚羽ぁぁ‼」

「何で?何でや⁉圭典‼お前が嘘をつき続けたんがいかんのやろが‼何で、わしらに、こがいなことを‼」

「離婚するいうけんや‼あの屋敷の跡取り、金‼俺が使ってやる言うたのに、立羽たては……あのキィ強い女が、あの家は俺と関係ないやて……旦那よりも、そこのクソガキ選びやがった‼」


わめく圭典に、スッと近づいたのは近所の男。


「たっちゃんの悪口を言うな‼お前が間違っとんや‼」

「そうや‼あっちゃんは無事か?」

「あっちゃんは?」


救急隊員に囲まれていた揚羽に、


「頭と首に包帯……?」

「あの‼息子は昨日図書館で事故があって、巻き込まれたんです。打撲と首の捻挫でしたので、昨日は一旦救急病院で休ませていただいて、荷物を取りに戻ったんです。大ケガをして入院中の妹の夏蜜のそばにいたいからと……それなのに……」


真澄は涙を流す。


「……母さん……俺、生きとるけど……」


弱々しい声がする。


「全身は痛いけど、骨折くらいかな?」

「揚羽‼」

「ぐはぁぁ‼父さん‼全身ミシミシ痛いのを、しみるー!」

「お父さん、息子さんは怪我人です。命に別状はありません。まずは病院に……昨日と言うと、駅前病院ですか?」

「はい‼娘も入院しております。一応、揚羽は受験ですので、その荷物を取って、午後から診察があったんです」


紋士郎は説明する。


「主治医が村上平和むらかみひらかず先生で……」

「では、緊急に電話をいれましょう」


と電話を掛ける。


『はい。駅前病院です』

「申し訳ありません。救急です。昨日の救急搬送された、吉岡揚羽さんですが、実は今、車にはねられて大ケガを。そちらに搬送は可能でしょうか?」

『吉岡揚羽さんですか?……あぁ、一時退院の方ですね?きちんと検査をしてからではないと退院はまだ認められておりませんので、お願いできますか?』

「解りました。治療の準備をお願いできますか?」

『解りました』


電話を切った救急隊員が、


「駅前病院に。お父さん、お母さん。一緒に行かれますか?」

「お父さん、行ってちょうだい。私はここのことを……」

「解った。よろしくお願いいたします」


揚羽に着きながら、周囲に、


「ご迷惑を、すみません」

「あ、父さん……タクシーのおじさんが……」


走り去る車から、


「気を付けて‼頑張れ、兄ちゃん」


と言う声が響いたのだった。

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