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県立図書館のお話  作者: 村咲 遼
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夏蜜とばあちゃんと揚羽

夏蜜なつみが眠ったことを確認した家族。


「誰が泊まる?」


と言う父の言葉に、立羽たてはが、


「私が‼」

「何言ってるの。瑠璃るりがいるでしょう?お父さんは仕事があるし……。お母さんがいるから」

真澄ますみさんはおかえりや。ばあちゃんはおろわい」

「でもおばちゃん?」


真澄は告げる。


「おばちゃんの方が……」

「ばあちゃんは、そこらで寝るけんな」

「ばあちゃん、ばあちゃん。そこの簡易ベッドで寝てかまんよ?」


揚羽あげはは、示す。


「あんたはどうするん?」

「夏蜜ちゃんが落ち着いたらそこのソファで寝るわ。かまんかまん」

「でも、あんたは背が高いやろがね。窮屈や。代わるで?」

「ばあちゃんをこんなとこに寝かせられん。腰がいたいっていいよったろがな。ちゃんと寝てや」


揚羽は笑いかける。


「ばあちゃんが先に寝て、後で代わるわ。な?母さんや姉貴、明日来てくれる?俺宿題と着替えもしたいけんなぁ……」

「まぁ、それが一番良いやろうなぁ……揚羽とおばちゃんに頼むか」


紋士郎もんしろうは促す。


「それに、母さんも立羽も、色々用意せんといかん。今日のところは帰るか」

「そうね」

「じゃぁ、ばあちゃん。瑠璃?ばあちゃんと揚羽兄ちゃんと、夏蜜お姉ちゃんにバイバイって言いましょうね?」


眠たげにウニウニ言っている瑠璃の手を動かす。


「瑠璃、またね?」


揚羽は4人を見送ったのだった。




「ばあちゃんも先におや?しんどかろ?それに急に、こがいになって」

「いいや、それよりも夏蜜がどがいなるかやなぁ。エェ子なんはよう解る。でも、ばあちゃんの養女言うことになったら……」

「ばあちゃんは父さんをほんとは養子に迎えるつもりやったんやろ?それが、この夏蜜になっただけや。それに、ばあちゃんが全部見んでええんや。俺らもおるけんな」

「エェ子に育ったなぁ……揚羽は。陸也くにやさんによう似とるわ」


苦笑する。


「ばあちゃんの陸也じいちゃんの方が何倍もエェ男や。一度見せてもろたじいちゃんは制服がよう似おて、かっこ良かったわ」

「ウフフフ……」


もう、90代の父の大叔母だが、少女のようにはにかむ。




かくしゃくと言うよりも、適度な運動に、近所の同年代や下の年代の人たちと楽しくおしゃべりをする。

周囲に近所のばあちゃんと慕われる存在である。

いたって普通の大叔母は家の離れに住んでいるとはいえ、回りは元々陸也の義父になっていた竹原家の土地であり、大地主だった。

その嫁として嫁いできた福実は戦争で夫を失い、再婚を勧める義理の父母にも、


「うちには陸也さんがおるけん……」


と断っていたのだ。

同じように曾祖父も義理の妹の事を心配していたが、決意が固いと知ると、


「解った。子供が生まれたら養子にしよう」


と言っていたが、男児一人。

なくなく諦めて息子の子供たちに期待して、4人兄弟の末っ子の紋士郎が生まれたときに曾祖父は大喜びしたのだった。

戸籍の手続きをしようとすると、福実が、


「まだこんまいのに、お兄さん、両親から引き離されるんは紋士郎が可哀想や。大きゅうなってからにしてやってや」


と言い、現在に至る。

紋士郎は大叔母である福実と仲が良く、本当は籍も早めにと思っていたのだが、手続きが面倒でそのままになっていた。




ちなみに現在、周囲の土地には田畑は残っているが、いくつも小さいマンションやアパートが建つ。

管理は管理会社に任せているが、福実はかなりの資産家になるだろう。

最近はこの周囲は街から適度に近く、その上大型ショッピングセンターなどが近い新興住宅地になりつつある。

揚羽はそのようなこと……近所のじいちゃんばあちゃんに可愛がられ、父の大叔母の福実が実は資産家と言うことは全く気にならない。


逆に、福実が子供がおらず、もしかしたら、姉の立羽にあの圭典けいすけが近づいたのも、福実の屋敷に、結婚を期に引っ越して一応遺産相続を受ける養子の手続きをどうしようと言っていた父に入ってくる遺産目当てだったのではないか……と今では思う。




「なぁ、ばあちゃん。夏蜜ちゃんのあの父親にだけは会わせんようにせないかんな。はよ、姉貴と離婚が成立すればええんやけど……」

「そうやなぁ……全部あっちの浮気や、夏蜜に暴力、金遣いの荒さに勝手な男や。いくらあの男が言うても、離婚は成立するやろう……何度かうちの部屋に入って金目のものとりよったで?」

「エェェェ‼」

「何度も財布からお金が抜き取られとって、警備会社に相談して監視カメラを取り付けとったんや。陸也さんの大事な遺品も盗もうとしたけんな……もう二度としません言うてたけどもう3度目や……警備会社に頼んで証拠品を提出するわ」


飄々と告げる福実に呆気に取られる。


「俺、聞いとらせんけど?」

「そら、往生際の悪いあの男が、『何で俺なんや‼揚羽やろが‼ここによう出入りするんは‼』言うてな、腹立って、ほうきでぶちのめしてやったわ。『うちの揚羽になに言うんや‼犯罪者はあんたやろうがな‼次、揚羽や立羽に余計な口聞いたら、警察や‼』っていうたった。大人しゅうなった思たのに、しばいたろかおもとったんや。やっぱりしばかんといかんな、今度は」

「……ばあちゃん。おきゃんもよう似合うけど、体考えてやってや」


揚羽は心底思う。




本当は両親が結婚するときに、立派な本宅を福実が住み、両親は使わなくなった納屋を壊して家を建てることにしていたのだが、


「じゃぁ、うちが建てようわい。うちも60過ぎやけんなぁ……なんか、老人に親切な住宅って言うのがあるんやてなぁ、バリアフリーってのが。それ建てて住むわ」


と当時新しいその住宅を建ててしまった。

それで、ついでに警備会社とも契約したらしい。




「そう言うても、揚羽をわるぅ言うもんは許さへんわ‼ばあちゃんの可愛い揚羽や立羽やがね‼」


親バカならぬ、婆バカである。


「それに、夏蜜もばあちゃんの養女にはなるけど孫や。大事に可愛がってあげないかん」

「そうだね。夏蜜ちゃんは、可愛がってあげたいわ、俺は……」

「何なら、揚羽は竹原に婿養子にこんかね?」


クスクス笑う大叔母に、


「ばあちゃん。俺、今年18で、夏蜜ちゃん12やで?犯罪やわ」

「昔は良かったのに残念やなぁ?」

「ばあちゃん?はようおやすみ」

「だんだん」


にっこり笑った福実は簡易ベッドで、毛布と持ってきていたバスタオルを重ね、布団に潜り込んだのだった。

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