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サテラちゃん

「おまたせ、ピクちゃん。晩御飯の準備できたよー」


「は~い」


サイズがフリスビー程のサテラちゃんを抱きかかえながら、ピクちゃんがキッチンに入ってきて席に着く。

 サテラちゃんは椅子に座るというよりもクッションみたいにピクちゃん横の席に置かれているって表現の方が適切な感じだ。


「サテラちゃんも俺たちと一緒の食事を取れそう?」


 おかずをテーブルに並べながら、普段は光合成的な栄養補給方法らしいサテラちゃんに、ピクちゃん通訳で聞いてもらった。


「ん~、無理だって。必要ないみたい。魔力も貰ってるし要らないって~」


 うんうんと頷いているのかは分からないが、サテラちゃんはピクちゃんの横の席でプルプルしている。


「そっか。ではでは、天ぷらと言えばコレって位の定番、車海老からスタートしま~す」


「キャッホー! まってました~」


 有頭状態から外して下準備しておいた頭を素揚げでから揚にしながら、手始めにエビを2尾だけ揚げてみせる。


「さあどうぞ召し上がれ。最初は何も付けずにいってね」


「デカッ! 凄く立派なサイズだね。いただきまぁ~す、カプッ、ハフッ! 甘っ、うまっハフッ! エビ凄っ、うっはぁっ! 頭のから揚は、パリッほぁっ! エビの風味がっ、キャフッ、どうなってるのぉーー!」


「ぬははっ、ただ揚げるだけと侮る事なかれ、シンプルな技法だからこそ奥が深く、数ある和と呼ばれる食文化の中にあって主役の一角を担っているのには、それなりの理由(わけ)があるのだよ」


「かぁっ~、ピク舐めてたわ~、天ぷら舐めてたわ~」


 続いてピクちゃんが採取した食材、ユリネ・フキノトウ・タラの芽・ゼンマイ他多種多様の食材を揚げていく。

 香りの強いセロリの葉・シソの葉・フキの葉や、銀杏やソレに類する木の実などは、かき揚げに混ぜてアクセントにしたりして、とにかく食べられる物は全て調理して味わう。

 揚げている間は刺身や煮物等、他のおかずを食べていてもらい、おかずが減ればアイテムボックスから追加し、揚がれば即揚げ立てを食べさせてあげる。


 味付けには最初はあっさりシンプルから徐々に濃い味へ移行で、塩・抹茶・すだち・梅・ワサビ・大根おろし・生姜・白だし・ポン酢・天つゆ等。

 美味しければ何でも有りとして一応、マヨネーズ・ケチャップ・トンカツソース・甘辛ダレ・オイスター・味噌とかも用意しておいたが、これには賛否両論だろう。


 それと、ピクちゃんが採取した食材をタラの芽・銀杏などと言って、旬もバラバラで季節感が全く無いのは、あくまでもソレっぽいであって正式名は文字化けしてしまうなんてのは言わずもがなだ。


「あるじあるじ~、天ぷら揚げたてはもちろん美味しいけど、この一番美味しい瞬間の状態をアイテムボックス時間停止保存領域で維持したまま大量にストックできるよね。なのにカウンター越しに揚げたてを食べさせてくれるのは何で?」


「ありがと~、ありがとうピクちゃん。欲しいときに欲しい質問やツッコミを入れてくれるピクちゃんが大好きだよ! 愛していると言っても過言ではないな」


「イヤンッ、もうもうっ、あるじったら~」


「フフ、そういえば、こんなストレート過ぎで捻り(ひねり)のない物言いじゃなくって、遠回しな告白の言葉に有名な物があるよね」


「スライムは不定形ですね、だね」


「そう、なろう作家がファンタジー世界で教師をする妄想をしていると、後輩の作家がヒロインへの告白の一文を【我君を愛す】にしたと聞いて【なろう作家はそんなこと言わない。スライムは不定形ですね、とでもしておきなさい】と言った逸話って違う! 分かり辛い上にノリツッコミが説明口調になっちゃったよ、ピクちゃん」


「えへへ~、ごめーん」


 ん~可愛ぇ~なぁーピクちゃん。


「おっとそうだ、何でわざわざ揚げたてを? だったね」


「うん」


「改めて口に出して言う事は少ないけど言われてみれば誰でも知ってる、料理を楽しむのは口・歯・舌の触覚・味覚のみならずってことだね」


「どゆこと?」


「ボックスから出すだけで、天ぷらの揚がっていく姿・音・香が味わえないのは、視覚・聴覚・嗅覚の三つが複合した料理を楽しむ為の重要な要素、場の雰囲気・空気を半減させちゃうからね」


「なるほど~」


 味が同じでもパックに詰め込まれた天ぷら・刺身・煮物、真空パックの茶碗蒸しでは興ざめだ。


「小難しいこと並べたけど、例えば鰻の蒲焼や秋刀魚の塩焼きの煙と匂い。焼肉のジュウジュウって音、香ばしい香り、目の前で煙が立ち昇りながら焼けていく肉。どう?」


「うわっ、うわっ、それが一番分かり易いよ、あるじ」


 調理師達のあいだには五味・五感・五色・五法って言葉も存在している。


「フフッ、なので可能な限りはその場での調理を心掛けているわけ」


 その後、タイミングを遅らせていた茶碗蒸しも出し、最後に氷冷菓で今日の晩御飯の品出しは一通り終了した。

 今はお茶を飲みつつピクちゃんと一息ついている。


 サテラちゃんはプルプルしている。


「これだけの量の美味しい料理を1時間程度で作っちゃうなんて凄すぎだよ、あるじ」


「まあ、頑張ったのは確かだけどVRMMOのシステム利用ありきだし、100パーセントこの世界の摂理(せつり)のみって縛りがあったらこうはいかないけどね」


「でもピクは満腹の大満足だよ~」


「フフッ、ありがと。そういえば以前一度、調理効率と時短を目論んで時間停止を試してみたんだけどさ」


「おお~、あるじ凄い! それでそれで?」


「んで、結論から言うと大失敗。確かに手元の作業時間が実質無くなって効率は上がるかに思えるけど、俺以外の時間が停止してるもんだから、加熱できね~でやんの、冷却もできね~でやんの」


「キャハッ。うんうん、言われてみればその通りだね。あるじはその後どうしたの?」


「この失敗を踏まえて、時間停止ではなく時間制御を俺自身にではなく周囲の指定した範囲の空間に対して――あれ? 何で俺時空魔法の研究してるの? 調理効率をいかに上げるか考えていた筈なのに――ってソコで我に返ったんだよ」


「アハッ、あるよね~そゆ事」


 ディメンションルーム内だけ時間制御するのまではいいが、中で調理完了して完成品を運び出すなんてのは本末転倒だ。

 それなら、アイテムボックス内で全て処理すれば事が足りてしまい、さっきピクちゃんが言ったように完成品をボックスの中にストックすれば手間がない。

 もう、いっそのこと時間制御されたルーム内で全てのセッティングを完了させて、ピクちゃんを中に呼べば待たせる事は無くなるのかもしれない。

 だが、それをするとログハウスは勿論、今後建てる予定の拠点も不要って話になってしまう。

 仕込み下準備にはキッチンとして利用するが、俺的にディメンションルームは倉庫兼作業場って認識だから、その部分にはこだわりたい。


「結局さ、目的を手段がニワトリに卵な感じで魔法より普通に料理作れよみたいになって()めたんだよね」


「でもでもピク的には、あるじが普通に時間停止魔法を使ってるほうがビックリなんだけど」


「あ、そっちね。俺の元居た世界では時空魔法を時間停止までいかないまでも結構普通にみんな使ってるからね、無意識にだけど」


「出たっ。アレは魔法だったのかっーーー! だね」


「向こうの世界では別名称で呼ばれていて、広く一般に認知されはじめたのも比較的最近なんじゃないかな」


「へぇ~、どんなのどんなの? わくわく」


「無意識な魔法・スキルの発動率が高い自宅警備員・男を例に採って説明するけど、限定している訳ではなく誰でも心当たりがあるはずだよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【賢者タイム】

[属性時空(属性自慰空):時魔法]

「今日のおかずは最高だったな……」

「ハッ!? 気が付けばこんな時間に」


【明日から本気出す】

[属性時空:先見・未来視・未来予知]

「今は世を忍ぶ仮のニート。見てろよ! 数年後の俺はな、それはもう、もうな……」

「そのルートに乗れるかどうかは別だがな!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あるじ~、これ(ただ)のダメな人じゃない?」


「こいつ等、妄想力極大で自身の周囲に独自の世界を展開していたり、空気を(まと)ったりしてるからね」


「ブーメランすぎだよ……あるじ」


「ま、まあ、それはそれこれはこれだ。それとは別にこんなネタはどうかな」


「うわっ、あるじ今ネタって言っちゃったよ~」


「おっと、失礼。では気を取り直して」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【敗・負・詰・落・失・底・潰・屑・滓】

[自宅警備員・九字:手印(手淫)]

「結び方は秘匿されている」

「何かが……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あるじ、自宅警備員・男ってことは女版も――あっ、ゴメン。あるじに素人女性の話は難易度が……うん、大丈夫! ピクが付いてるからね」


「ぬおお~言い返したいが言い返せないっ!」


 ピクちゃんの優しげな眼差しが胸を(えぐ)り突き刺さる。 

 だがしかし、自宅警備員・女版については、俺の危機察知系能力が激しく警鐘(けいしょう)を鳴らす。

 このまま流さなくては危険だと。

 再びピクちゃんに腐神降臨で、更には覚醒の()き目に()いかねない――怖っ。


 そして今はピクちゃんとサテラちゃんが2人で作ったマップをみんなで見ることが出来るように、ファンタジーな世界らしく空中へ半透明状に映し出してソレを見ながらのお喋りだ。


 サテラちゃんはプルプルしている。


「あるじが御飯準備していた時サテラちゃんと作った広域マップだと、200キロ圏内には人の手が入った気配は皆無だったから、更に100キロ単位で範囲を広げていったら、400キロ圏内広域簡易マップでようやっと東側に道っぽいのがでてきたよ~」


「東? あれ? じゃあ、BBQした位置からの方が街とかに近いかもなんだ」


「うん。あと、それでも湖の全容が掴めないから専用マップが必要だね。途中から南西方向に随分伸びていってた」


「マジ? この湖そんなにデカいんだ。もう海って言ってもいいくらいだな」


「うん、凄いよね~」


 湖と海の違いを分ける明確な定義は無いらしい。


「これは湖を見て回るのは1日でチョロットってわけにはいかなそうだね」


「あるじ、相当な広さだけど、どうするの? 探査とかで上っ面だけなのは勿体無いよね」


「そうだなー、近場だけなら2人でゆっくり楽しみながらってのも有りだったんだけど、400キロ圏で入り切れないとはね」


「そうだよね~。じゃあ水生生物達を何匹かテイムして協力してもらうのはどうかな?」


「なるほど、それも良いアイデアだね。できればイルカとかみたいに超音波っぽいのを駆使して、広範囲を調べられるようなタイプが見つかると嬉しいかな」


「う~ん、それだと直ぐは無理だね、あるじ」


「最悪自分で創るか……探索・探査・精査能力。各種波形透過視・魔素・熱源などの全検知能力マルチセンサーを積んで。それと、マップの3D地図作成能力だが、サテラちゃんとリンクした物を備えさせて、戦闘にも耐え得る海女さんのゴーレムかアンドロイドかホムンクルスを……」


「え~っと、ゴーレム・ホムンクルスはピクも分かるけど、何で海女さん?」


「……ププッ。3D地図作成能力だが、なんちって……3Dマップ……3Dマッパーだが……3D真っ裸! 立体真っ「おらっ! ピクラリアット!」ガッ! グヮッ――オォォ……ピ、ピクちゃん、もう少しお手柔らかに」


「もうっ、あるじっ! んで? 何で海女さん?」


「えっ? 何言ってるのピクちゃん。水中のみではなく水陸――じゃなくて陸水両用で絵的にも見苦しくない人型って言ったら海女さん一択でしょ? おっさんボディーなんて触りたくないし見たくないし」


「ピクもあるじの謂わんとしてるポイントは理解できるけど女性ボディの成型なんてできるの? あるじには難易度高くないのかな?」


「ぐうぅ、まさかソンナ落とし穴が、ガクッ――んっ、フゥ~……」


 あまりな理由に思わずピクちゃんをチラッと見てうっかり溜息が出てしまう。


「あっーーー!! 今ピク見て溜息ついた! 何で溜息!? 言ってみ逝ってみ!」


 迂闊な視線をピクちゃんボディーへ送ったのを感知されてしまい、場を和ませるジョークで誤魔化し(なだ)めてみた。


「いやっ、違うんだよ、ほら、そのなんだ、ピクちゃん型ホムンクルス、略してピクルスなんちって、ハハッ」


「ああ~んっ!!」


 失敗、ウケませんでした。しかしココで素晴しい考えがキュピーンって閃いてしまう。


「た、例えば人魚みたいな人達が居て協力的な種族なんて、うまい話は無いかなぁなんてね――」


 そして、貝ブラなんかをしているベタな姿を妄想してしてグフフッなんてニヤケていると、ピクちゃんが恐ろしい切り返をしてきた。


「――フンッ! あるじはサハギンみたいのとも友好関係を結ぶんだよねぇ~?」


「うっ、またまた~、ピクさんったらソンナ意地悪言うんだから~ヤダナァ――ゴメンナサイ」


 俺には元祖スパイロボット、虫メカを創るしか道が残されていないらしい。


 こうして、晩御飯も終えて後片付けを済ませ、ピクちゃんと他愛も無い会話をダラダラしつつマップ見ながら明日以降の予定をあれやこれやと話し合ってると、あっと言う間に22時を過ぎていた。


「あれ? もうこんな時間になってたか」


「あ~、ホントだね~」


「サテラちゃんも長い時間付き合わせちゃってゴメンね」


 サテラちゃんはプルプルしている。


「ううん、わたしも楽しかっただってよ」


「うおっ、サテラちゃんは女の子だったんだ」


 サテラちゃんは激しくプルプルしている。


「んっまぁ! だって。あるじ、ごめんなさいは?」


「おっと失礼、ゴメンねサテラちゃん。言われてみれば肌表面のシットリ感は女性っぽいね」


 サテラちゃんはほんのりピンクでプルプルしながらピクちゃんと意思疎通して楽しげに? やりとりしている。


「もう、あるじのエッチだって」


「はははっ――なぜだーーー! ――いやいやいや」


「キャハハッ」


 ま、まあ、今日のところはコレでカンベンしてやる! ってな感じで、結局最後まで付き合わせてしまったサテラちゃんにお礼を言ってピクちゃんに送り返してもらう。


「今日はありがとね。じゃあ、ピクちゃん帰還させてあげてくれる」


「は~い。サテラちゃん、ありがと~」


 サテラちゃんはプルプルしている。


「あるじもまたネ、だって」


「うん、またよろしく」


「じゃあ、送るよ~。リターン、サテラちゃん!」


 サテラちゃんを送り帰してピクちゃんも今はお風呂に入っている。

 今日はもう寝るだけなのだが、明日は結構長距離移動があるから、旅行前日手荷物チェックを発動して少し整理しておこうかね。


 ◆

 ◆

 ◆


 ここで簡単にだがサテラちゃんの紹介をば。


 衛星軌道上で星の数ほど生息する群体生物、サテライトジェリーフィッシュ全体内の一固体で、俺とピクちゃんに出会ったのは全く偶然の出来事だった。


 サテラちゃんが体調不良で地表付近まで下降してしまった(ゆえ)なのだが、衛星海月――サテライトジェリーフィッシュでは長い――が生きたまま下降するなど極めて(まれ)で多種族と接触確認された事は今まで皆無らしい。


 通常は宇宙空間へと吹っ飛ばされて、そのままその固体は命を失うとのこと。


 ピクちゃんが見つけて連れて来て治療してあげると、仲間にして欲しそうにコチラを見ている的な流れになり、俺がテイムしてもよかったが他種族コミュ能力が高いピクちゃんに使役してもらうことにした。


 テイムされたことによる飛躍的な能力の向上で静止軌道をも理解し、めざましい変貌を遂げたサテラちゃんの特筆すべき能力を一つ紹介しておく。


 軌道上からの地表情報をレンズのような体内に写り込ませ、衛星海月ネットワークで俺たちに送ってもらい広域マップ作成を行うのだが、身体を変形させたり他の固体と集合同化合体したりして望遠レンズ状になりピンポイントで見る事も出来る。


 そんなもん魔法やスキルでって思うかもしれないが、写り込ませるという部分に術的要素が無いって所が(きも)で、対象に感知・察知されずに超高高度から観測観察狙い放題となり、当然だが映像によるリアルタイムでの監視も可能だ。


 今は俺達の現在位置を起点に情報取得・場所指定・範囲指定を行っている状態だが、いずれは地球儀のような惑星立体世界地図を作り、将来的には座標の設定をして、サテラちゃんを召喚しなくても指定座標の情報を得られるようにしたい。


 それでもピクちゃんはサテラちゃんを召喚するだろうけどね。


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