お料理ブートキャンプ
俺たち3人は16×16のたこ焼き一面分を軽く平らげて、既に2回戦目の焼きに入っている。
え? 食いすぎ? いえいえ、まだ中盤で後半戦もありますし全然です。
慣れてきた今回は振動補助なしでのピクちゃんシンジュちゃんだが、たこ焼き返しの腕をダブルピックでみるみる上げていく。
「こんな感じでどうかな~、シンジュちゃん」
もう既にプロ級のテクニックに到達したピクちゃんは、オリハルコンたこ焼きピックで剣舞のような動きをして見せていた。
『まるで二刀流だねピクちゃん』
「おお~っと、気づいちゃった?」
『んん? 何に?』
「えっ!? あ、あるじっ、まさか……コレもなの? コレもあるじの元居た世界で無意識に使われているスキルの一つ?」
「そうなんだよ。二刀流スキルを会得するにも、更に熟練度を上げて行くのにも、たこ焼きをピック2本同時使用で返す動きは最適なんだ」
『ええっーーー!』
「じゃあじゃあ、たこ焼き職人でもないのに二刀流スキルを持ってる人って」
「うん、まず間違いなく自宅に家庭用たこ焼きプレートを購入して置いてあるね」
『そうだったのかぁ~』
「クククッ、ここまで話したんだから勿体付けずに全部教えておくと、二刀流スキルの熟練度を極めると上位職へ転職できる!」
「あるじっ、ソレはまさかっ!」
「ああ、二刀流双剣士上位職ソードダンサーへは、たこ焼き職人からが最短ルートだ!」
「すっ、スゲェーーー! あるじ~、たこ焼き職人凄すぎだよー」
『ビックリだよ。確かソードダンサーって滅多に現れない上位職だよね』
「そうだよ。二刀流を普通に成長させるのって大変らしい。近接戦闘職の器用度DEX上げは特に厳しいね」
「だから片手剣とか両手剣の剣士になる人が多いんだね~」
『あれ? あるじ、もしかしてお好み焼き屋さんとかも?』
「たこ焼きダブルピックDEXのヒントから連想してくるとは、流石だよシンジュちゃん」
「えっ!? お好み焼き屋さんと言えば鉄板? それとヘラだね」
『あるじは鉄板の上でヘラを使って具を纏め上げたり刻んだりもしてたよ』
「うんうん、ヘラが武器で鉄板上でヘイト管理? 攻撃も強力そう」
『ヘラは盾にもなりそうだね』
「そう、ナイト・シールダー複合上位職パラディンへの登竜門だったのさ、お好み焼き屋さんは」
「『おおーーー!!』」
「そして、デスゲームを題材にしてアニメ化もされたあの有名な物語中、闘技場デュエルや塔上層での黒幕対主人公の死闘をこの視点で観てみると、また違った楽しみ方ができる」
「『キャハハハッーーー!!』」
「あるじ~、それダメェ~~」
『反則、もうそういう風にしか観れなくなる』
「あと、もう一つ職業を追加しとくよ。焼き鳥・串かつ・鰻の串打ちなんかは、突剣士・フェンサー・槍術士・ランサーとかかな。派生職業は多様で異世界では竜騎士なんかが最高峰の一職なのかね」
『職人さん侮りがたし、うまうま』
「だよね~、うまうま」
スキルとか二次職の話で脱線しまくりだが、食い捲くる2体の食魔人達の勢いは留まる気配を見せず、だ!
「さあ、たこ焼きもそろそろ片付きそうだし、お料理ブートキャンプ後半戦スタートしようか」
「イエ~ス、カモーーン!」
『イエスッ、ゴーゴー、ワンツーワンツー』
2人に声を掛けつつ鉄板の4面ダイヤル全てを180に切り替え、たこ焼きプレートを外して新たにオプションを付け替える。
この鉄板の表面は平らで横のIHプレートと同じ仕様の物だ。
これを付ける事によって5種類の料理を同時に調理可能とし、今は温度を160にセットして待機させておく。
「あの全米が震撼した4種類+1種のもんじゃ焼きを今から目にする事になる2人は、阿鼻叫喚か狂喜乱舞か、はたまた沈着冷静に問題無く口にするのか。ピクちゃんシンジュちゃんの運命や如何に!」
ど、どうしよう……このセリフを後で思い返したら、絶対に恥ずかしさで身悶えしそうだが、もうこのまま押し切るしかないな。
『あっ! あるじ、また変になった』
「うわ~、とんでもなくヤバそうなことを口走りはじめたよー」
『だ、大丈夫。2人に敗北は無い』
「クククッ、刮目せよ! 1品目はこれだっ!」
最初は左上の位置にソレを広げて調理し始める。
「ギャッーー! 真っ黒! まっくろだよ~シンジュちゃん」
『うわっ、なっ、なっ、アワアワ』
「食べやすいように、小ベラ・スプーン・フォーク、色々用意してあるよ。さあどうぞ召し上がれ」
俺は敢えて詳しく説明せずにそのまま仕上げて、プレートを低温の80にセットしてから2人へ勧めて、右上で2品目を調理開始する。
「ううぅ~、ん~ペンネ?」
『んー……イカも?』
警戒しながらも少しだけスプーンで取ってぺろりと舐めてみた2人は、その瞬間に顔を見合わせて声をそろえて叫んだ。
「『イカ墨だっーーー!』」
「ぬはははっ、さっきもんじゃ焼きと言ったな! あれは嘘だっ!」
「もうもう、あるじ~ビックリしたよ~」
『プンプンだね』
「あはは、ごめんごめん。こっちの白も仕上がったよー」
右上の温度も80にしてから3品目の調理へ移る。
今度は右下で色は赤だ。
「あるじ~、そっちの白も食べていいの?」
「もちろんだよ。どんどん食べ比べてくれたまえ」
『やった。白はどんな味かなぁ』
「お芋とか、ん~貝のむき身? クラムチャウダー?」
『チーズ……グラタン? あっ、裏がパリパリで美味しいよピクちゃん!』
「ん~っと、ホントだっ! うまうま」
「ほい、3品目。これはもう説明の必要はないね」
「『エビチリッーーー!!』」
フフッ、2人の息はピッタリだな。
右下も温度を80にして左下で4品目に入る。
「一応、俺的にはもんじゃ焼きの括りの中で作っているつもりだけど、2人は視点を変えてパスタ・グラタン・エビチリみたいな感じで料理を見れば違和感がないでしょ」
「ねえねえ、あるじあるじ~、白の上面を火魔法で少し焙ってみていい?」
『うひゃ~、ピクちゃん最高!』
「おぉっ! 良いね。流石、食の探求者ピク。上手く加減してやってみ。ほい、チーズも上からパラパラ追加だ」
『きゃっほー、はやくはやく』
「じゃあやるよ~、えいっ、とおびのつよび~」
また器用な魔法を……ピクちゃんも大概だな。
『うまうま、更に美味しさアップだよ!』
「エッヘン、うまうま」
「へいっ、お待ち! 4品目はポン酢あじに指定させてもらおう。更にトッピングに春菊を載せてアッサリ風味で完成だ」
『今度は青で野菜がメインなんだね』
「あっ、ゴーヤだ! あと豚肉? 長ネギもかなぁ?」
『オイスターソースも使われてる?』
「鰹だしもきいてるね~」
「ラスト1品はデザートだから少しタイミングを遅らせて作るよ。だから4品ゆっくり食べてて良いからね」
「『はーい』」
ここからは4面全て保温の40へ切り替えて、慌てないでいい様にしてあげる。
焼き台の周りをクルクル廻りながら4種類の料理を楽しげに食べている2人を見ながら、俺も参加して一緒に食べていると、エビチリを食べながらピクちゃんが声を掛けてきた。
「あるじあるじ~、緊急動議でーす」
「おぉっと、はいピク君、発言を許可します」
『わくわく』
「向こうの世界へ出かけたら早急に、海・漁港・魚市場・漁師町を探して、海産物確保を行うべきだと思いま~す」
『うんうん!』
「くはっ! 素晴しい提案だよピクちゃん。早速、決を採りまーす。賛成者は挙手を!」
「「『賛成!』」」
「賛成3反対0で本件は可決されましたっ!」
「『わーい』」
海か、良いな――魚介類は是非とも確保したい。
市場とか在っても漁の発達具合では海産物を自力確保する事になってしまうが魔法でそれなりだろう。
そもそも現地人とまだ顔を遭わせてもいないし、少しだけ向こうの世界を視た限りでは人類の生存圏って然程広く無さそうなんだよなぁ。
「ピクちゃん、向こうに行ったらサテラちゃんにコンタクトして拠点周囲の50キロ100キロ圏で広域簡易マップよろしくね」
「了解で~す、ハグハグ」
『あ、あるじ、元に戻ってる、パクパク』
「ところでさ、海にクラーケンとかって居るのかな」
「どうだろね~」
『なにするの?』
「いや、今度たこ焼き作る時に使ってみたい……あれ? クラーケンってタコ・イカどっち?」
「え~と、どっちだろ」
『ん~、イカっぽい? 見た目次第かも』
「食材はマダマダ食べ切れない位のストックが有るんだけど、どうせなら現地の素材も使いたいからね。居たら捕まえてみようかな」
クラーケンのイカ飯は……無理があるか。
パエリアとかでも良さそうだ。
墨は沢山取れそうだな。
そもそも食えるのか?
そんな事を考えながら2人を見てみれば、頃合のようなのでラスト1品を調理開始するとしよう。
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俺の異世界での食事事情だが、基本的に料理はVRMMO料理スキルと素材食材調味料プラント、そして世界中のプレイヤー達がキャプチャーしたリアル素材食材データとの組み合わせによりアイテムボックス作業領域内で作ることができ、素材データの中には現実ではまずお目に掛かれないような超高級希少食材も含まれている。
そして、食べたい物を思い浮かべるだけで、焼肉・ラーメン・炒飯・フライ他、焼・茹・炒・揚・煮・和・蒸、そして生。ポテチ・クッキー等のスナック、ケーキ・ムース等のスイーツ他、多岐に渡り対応する事が可能だ。
更に、ホーム内の無限図書館にある料理参考書や自身で現地素材を調理して常にバージョンアップを行い怠らなければ可能性はほぼ無限に等しい。
VRMMOの楽しみ方の一つに、どれだけリアルに遜色なく、更に未知の素材でリアルを越える食を実現できるかというものがあるが、生産職の連中はよくもまあここまでの生成プラント群を造ったものだと感心しきりだ。
そして異世界転移してしまったこの状況においては、感謝の念に堪えない。
そういえば異世界チートの表現でツエーーってのがあるが、アルファベット順に倣ってS・T・Uで並べるとSUGEEE・TUEEE・UMEEEとなるな。
真打はどこの世界でも後から出てくるのがお約束なのだから、やはり食を極めた者こそ最強なのだろうか。
Rは何だろう、RAMEEEとかか……滾るな。




