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殖えた食欲魔人


 翌日からはシンジュちゃんが実体化した影響が身体にあるかどうか、2日ほど掛けて短期的な視点での物をピクちゃんをサポートに付けて検証させてみた。


 主に一日の実体化可能時間と、長時間実体化による体調の変化だが、結論から言うと24時間中約4時間ほど実体化していられて、体調には何ら問題はないようだ。


 なのだが、本体である真樹――真なる大樹とVRMMO時代の眷属が呼んでいた――の在るこのフィールドからは、まだ離れることが出来ないらしい。

 まだと言うからには、もしかしたら将来的に行動範囲が広がり自由度が上るかも? と、シンジュちゃんは話していたが今は分からないとの事。

 今後は俺とピクちゃんが向こうの世界へ行っている間、シンジュちゃん本人に無理をしない程度で色々と検証していってもらおう。


 もう一つ、食事に関しては必須ではないらしいが、俺とピクちゃんが居る間は一緒に付き合って食べてくれている。


 今回の帰省は結果的に1日伸びて3泊4日になったが別段急ぎの用がある訳ではないので、細かいことは気にしない俺とピクちゃんは何時も(いつも)どおり平常運転だ。

 そういえば、俺のメインホームもこの真樹フィールドに在るから帰省と言って差し支えないだろう。


 今は2人共シンジュ部屋で遊んでいてもらってるんだが、そろそろ昼食の準備が終わるので2体に()えた食欲魔人共を呼ぶとしよう。


「おーい、ピクちゃんシンジュちゃん準備終わるよー」


「きゃほ~、待ってましたー」


『わ~い』


 この昼食後に向こうの世界へ出発する段取りになっているから派手に行こうか。


「待たせたな! 食戦士達よ。闘争の始まりの鐘を鳴らそうではないか。今回のバトルフィールドはこれだ!!」


 二人の前にアイテムボックスからドンッって感じで出したのは、高さ90センチ焼き面が2メートル四方の焼き台で、足元にはシンジュちゃんの身長を考えて高さ20センチの足場も全周にわたり備え、内部への収納も可能にしている。


 表面金属板部分はヒヒイロカネ、中間に雷属性を内包付与したミスリル、強度強化に下面アダマンタイトの三層構造で、ミスリルの上表面には魔術紋様を刻み込み擬似電磁誘導を再現して細かい温度調整をダイアルにより可能にし、更には十字に4分割し4面別々の温度に設定できる魔力式IHクッキングプレートだ。


 そして、もうお分かりだろうが表面をヒヒイロカネにしてあるのは、ヘラで引っかいても傷つかない強度と熱伝導効率の高さからであって、けっして、けっっっして見栄を張ったとか引っ込みつかなくなったとかではない。


 動力はミスリル下裏面に刻んだ自由魔素自己充蓄変電術式でほぼ永久機関化し低消費高効率……まあ要するに勝手に周囲の魔素を取り込み動力にしてます的な焼き台で、火属性の魔石を利用したコンロと鉄板でええやんなんてツッコミはノー()ンキューだ。


「うひゃ~、鉄板焼きだー。でもこれは2日目に食べたドラゴンステーキ&ハンバーグ仕様の鉄板と少し違う……ま、まさかっ」


『わくわく』


「よくぞ気が付いたな、戦士ピクよ! そうだ、今回のバトルはお好み焼き&もんじゃ焼きがメインの鉄板焼きだぁっー!」


 あ、ヒヒイロカネ焼きだと長いから鉄板焼で。


「ヒャッハァーー! 食うぜ、食いまくるぜ、食い尽くすぜぇ~」


『イエェ~ス、イエスッ、イエスッ』


「その前にだ、ごめんチョットこの喋り方疲れるから普通に戻すわ」


「はいはーい」


『きゃはっ』


 まず、真樹に向って、鉄板4隅(かど)、上左右・下左右を位置の仮名(かめい)とする。


「はい、まずは2人ともダイアルのメモリを40に合わせてある左下(ひだりした)(かど)辺り(あたり)に陣取って下さーい」


「『はーい』」


 そこ以外の角は、おのおのメモリを左上(ひだりうえ)180、右上(みぎうえ)120、右下(みぎした)180に合わせておく。


「あるじ~、このダイアルって温度調整?」


「そだよ、ほかの場所はダメだけど、その一角だけは鉄板に触れるから触ってみ」


 そう聞くと2人は恐る恐る鉄板を突っ突いてから手のひらでペタペタ触りだした。


「ほんとだ~、ナンカお風呂の温度位だね」


『触れた。保温場所?』


「正解だよシンジュちゃん。後は食べる時に説明してあげるから」


 そう言ってから早速一発目お好み焼きを焼いてあげる。

 鉄板焼きヘラは大小ともオリハルコン製で、こびり付きづらくて使いやすい。

 最初はオーソドックスに定番の具材で、生地に薄力・強力粉、山芋おろし……たまご等、具はキャベツ、ネギ、挽肉……天かす等。

 全部の名前を上げるのは無いな。

 30種類越えてしまうので秘伝という事で納得してくれ。


 はじめは左上180の位置で直径70センチ程にお好み焼きの表裏面をコンガリ焼き上げる。

 つぎに、2人の対角線上の右上メモリ120の位置に移動して中までじっくり火を通し頃合を見計らう。

 仕上げはその位置から2人の元へシュパッっと完成品を滑らせて送ればフィニッシュだ。

 このバー・カウンターでグラスを滑らせ送るみたいなのは、ただ単に俺がやりたかっただけなので許してほしい。

 だが、全く無駄な行動な訳ではなく、既に2枚目のシーフードお好み焼きを空いた左上180の位置で焼き始めていて、更に右下180の位置ではノーマルもんじゃ焼きの調理を開始している。


「おまたせ、一番手はドラゴンミンチ入り肉ベースお好み焼きだよ。あとコレ、中身ラベルの付いたソースボトル&横の付け合わせでお好みアレンジしてね。ソースが鉄板にこぼれてもコビリ付かないから豪快にやっちゃっていいよ」


 ソースディスペンサーボトルの内訳は、ソース、マヨネーズ、マスタード、ケチャップ、他6種全10種類

 付け合せには、紅しょうが、キムチ、他漬物系4種全6種類

 そして当然その横には、青ノリ、カツオ節を山盛り。


「ピク行っきまーーす」


『わーい、いただきまーす』


「身内のみの鉄板焼きだし、小皿になんて取らずに鉄板上から小ベラと割り箸で直接食べちゃおうか。さっきシンジュちゃんも言ってたけど、保温場所を作ってあるのは、焼き過ぎないためと直接ソコから食べるためだった訳だ」


「なるほどね~。これなら慌てて食べなくてもすむよ、あるじ」


『凄お~い、ソースが全然くっ付かないね』


「葉っぱの上の朝露(あさつゆ)みたいだね~」


『うん、コロコロ転がってる。おもしろ~い』


「ありがとー! ありがとうシンジュちゃん、それ大事、そのコロコロもの凄く重要なファクターだから。いやぁ~、ヒヒイロカネを使った甲斐があったな~」


「あるじ~、負の遺産にならなくて良かったね」


「な、な、なんの事でしょうピクさん」


「え~、ピク知ってるよー。あるじが夜中一人でクククッとかワハハハッ完璧だぁとか天才かっ! とか言いながらゴソゴソやってたの。楽しそうだしソッとしておいたんだけど、コレ作っていたんだね」


「グワァッー! やめろ~、やめてくれ~、アノ時の俺をクビリ殺してやりたいーーー!」


『これが黒歴史ってやつ……』


「ま、まあ、その話は横に置いといて、肉お好み焼きも無くなったしノーマルもんじゃ焼きへ移ろうか」


 右下の温度を180から80へ変更してもんじゃを低温過熱へ切り替え、2人が食べやすいようにする。


「は~い」


『うまうま』


「ほい、シーフードお好み焼きも、ほぼ完成したから左下に流しておくよ。もんじゃ焼きを完食したころ余熱で仕上がってるから続けて食べててね」


 俺は2人に声を掛けながら次の準備を取り掛かる。

 アイテムボックスからオプションパーツを取り出し土台の足をセットして、左上180の横の位置に接続して取り付ける。

 そのパーツは1メートル四方に、直径5センチ弱で半球状のくぼみが縦横16×16で作ってあるヒヒイロカネ製プレートで、当然これも4分割の8×8で加熱可能だ。

 それを見た2人は声をそろえて叫んだ。


「『たこ焼きだーー!』」


「ムフッ、どお? 2人共やってみる?」


「『やるうーーー!!』」


「よしよ~し。じゃあ、そっちのシーフードお好み焼き食べ終わるまで待ってるよ。その間に準備してるからね」


「キャッホ~、うまうま」


『やった~、うまうま』


 横に調理台を出し、たこ焼き盛皿とオリハルコン製たこ焼きピックなどを置いておく。


『あ、木の舟皿だー』


「あるじ分かってる~。たこ焼きって言ったらそのお皿だよねー」


「もちろんさ、お好み焼き&もんじゃ焼きは鉄板上から直食(じかぐ)いしてこそだと思うけど、たこ焼きは舟皿に盛りたいからね」


 そろそろシーフードお好み焼きを食べ終わる二人に、それぞれピックを渡してあげる。

 シンジュちゃんのピックは、持ち手を含めた長さで16センチくらい、ピクちゃんのは10センチくらいだ。


「じゃ、生地(きじ)とか具は俺がやって、2人には返しをお願いするから、横で待機よろしく」


「『はーい』」


 たこ焼きも本体はオーソドックスに、生地半入れ、次にタコ、他の具4種類、再び生地で表面に満遍(まんべん)なく注いだら待機している2人の出番だ。


「ピクちゃんは奥8列で、シンジュちゃんは俺が抱き上げ手前8列で分担しよう。返し始めるときは俺が声掛けるからタイミング合わせよろしく」


「りょうかーい」


 ピクちゃんは両手のピックを、まるで刀のように腰へたずさえ、自分の担当たこ焼き付近でフヨフヨ浮いて今か今かと待ち構えている。


『どきどき、上手にできるかなぁ』


「大丈夫だよシンジュちゃん、なぜ俺がわざわざ難易度の高そうな返しを2人に頼むのかというと、このプレートには補助魔法が付与してあるんだ」


『そうなの?』


「わくわく、どんな補助?」


「このたこ焼きプレートはヒヒイロカネという唯でさえ摩擦係数の低い金属が、高周波ブレードのような細かい超高速振動することによって、表面の摩擦係数を更に軽減し「あるじ、長い、こげる~」っと、返してみれば分かるか」


 ピクちゃんに説明を止められてしまった、無念。


「ムフフフ、ピク知ってるよ。縦横(たてよこ)切り~のチョンだよね」


『フムフム』


「その通り。振動スイッチ入れるから、お二人ともやっちゃって下さい。では、どうぞ」


 プレートが小さいブーンという音と共に目では確認できないような細かい高速振動をし始め、たこ焼き返しの準備完了だ。

 すぐさま俺はシンジュちゃんを抱き上げ担当範囲に手が届くようにしてあげる。

 ピクちゃんは縦切り横切りとチャチャっとやって、返しのチョンとした瞬間から大喜びだ。


「わっ、わっ、凄っ、これチョンってやると、たこ焼きが勝手に回転し始めて引っ繰り返って行くよ!」


 シンジュちゃんは最初ビクビクしていたが()ぐに慣れたらしく、たこ焼きをどんどん返しはじめた。


『うわっーー、すごーーい、おもしろーい』


「プロの職人さんには必要ないけど、たこ焼き初心者の俺達には有効な補助機能でしょ」


「あるじっ、これは凄い物だよ!」


『天才かも』


「ふふ、残念だけど俺の発想なんか既に誰かが思い付いてるさ。元居た世界では魔法が動力ではないけど振動させる物が実用化されてるよ。ネットで振動たこ焼きでグリグリすると出てくるね」


 俺も、まさか本当に存在するとは思わなかったんだけどね。


『たこ焼き愛、恐るべきだね』


「たこ焼きへの探究心は留まる所を知らないんだねぇ~」


 たこ焼きが勝手に転がって形を整えていくのを2人が楽しんで見ている間に、ガーデンテーブルを出してソースやトッピングをセットする。


「そろそろ出来るからテーブルに着いてスタンバイしてくださーい」


「キャホォッーー!」


『やったぁー』


 舟皿を3つ並べて一皿に8コたこ焼きを載せてから、ソース・青ノリ・削り節でシンプルに仕上げる。


「まず一皿目は超ノーマルたこ焼きで行くよ。次からは()のまま盛り付けて出すから、テーブル上のソース&トッピングで各々アレンジして楽しんでね。さあどうぞ召し上がれ!」


「『は~い、いただきまーーす』」


 ◆

 ◆

 ◆


 俺のプレイしていたVRMMOは召喚師サモナーとして、神、魔神、魔王、邪神、破壊神、女神、天使、ドラゴン、幻獣、など全てのありとあらゆる種族を合体・融合・吸収・合成させて、オリジナル眷属を創造して使役する、よくありがちだがヤリ込むと奥が深いゲームで、特にスキルを継承させるのが楽しかった。


 そしてシンジュちゃんの本体――真樹――をVRMMO時代使役していた中で最も多くの知識神を取り込んだ眷属の一体は“真なる大樹”と呼んでいて、そいつが僅かに残る記憶・記録・伝承を元にこう謂っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「大樹の大地に張る根は深く長く広く無数に分散し別次元別世界へ届き、その一本一本が各々の世界での世界樹となっている」


「大樹の天空へ伸びる幹は大きく太く高く無数に枝葉へ広がり新緑の如き葉の一枚一枚が各々の世界での初元総録――アカシックレコード――となっている」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「マイマスター、神と(あが)められる強大な存在を()ってしても不確な存在であって、多くの神々を取り込み全ての世界で知らぬ事など無いに等しい我々、私と他の眷属4体にとってさえ未知の存在。それが、あの大樹。知らない筈なのに確信出来てしまう。真なる大樹に間違い御座いません」


「え~っと、う~んっと……な、なるほど、まったくからん!」


 5体の眷属たちがズッコケた…………


 次元を超えて世界樹にとか、葉っぱが全部アカシックなんちゃらなんて真顔(まがお)で言われても困るって。


 …………っと、初めて真樹を目にした時こんなやり取りがあったのをシンジュちゃんに話して、実際どうなのか一度聞いてみたんだけど。


『観測者・記録者とかが多いのかな?』


 との事、本人も分からないらしいが実際確かめようが無いしね。


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