ホームへ帰ろう
ドラゴンのホルモンを焼き網に目一杯載せ、2メートル以上の炎を立ち上らせながら一気に焼き上げ、焼けたそばからタレに付けて口イッパイに頬張っていたピクちゃんが、肉を飲み込んだとたん、突然カッ! っと目を見開いた。
「う・ま・い・ぞっーーー!!」
キラッ、チュイィィーン、ズッドォォォォォ。
キランと一瞬ピクちゃんの目が光ったと思えば、まさかの美味いぞ口からビームである。
北の方角に聳え立っていた山脈に直撃して一部が完全に消滅してしまった。
爆発ではなかったので比較的音が小さくて助かったな。助かったか?
「う~ん、ピクちゃん美味しい物を食べる度に地形変化させるの禁止」
「えへへ~ごめーん、ウマウマ」
ピクちゃんの横で俺もホルモン焼きをつまみながら、更に料理を追加していく。
「ほい、塩焼きお待ち。レモン、ワサビ、粒マスタード、生姜、ポン酢、梅肉、七味、山椒。胡椒のみってのも有りかもね」
「あるじ~出そう、またビーム出そう!」
「落ち着けピクちゃん深呼吸だ。ヒ、ヒ、フゥ~、ヒ、ヒ、フゥ~、じゅげむじゅげむ……」
――――落ち着け俺。
テンションマックスなピクちゃんを宥め賺しながら昼飯が無事終了。
ここからは迅速に、溶岩池やオーブン、ホルモンBBQの痕跡を消し、速やかに撤収だ。
「そろそろ出発するけど、忘れ物は無いかなー」
「ケフッ、あいあーい、むにゃむにゃ」
満腹ピクちゃんは少しオネムなようで、俺の頭の上に上半身で圧し掛かり、左右の足を俺の両肩に置く、言うなれば圧し掛かり立ち肩車状態でウトウトしている。
「じゃあ、飛ぶよー。フライ!」
俺のメインホームがあるフィールドと、異界門でこっちの世界に遊びに来るためのマーカーを設置する候補地を物色しながら、なんとなく西の方角へ飛行魔法でゆったりとしたペース進んでいく。
一時間ほど飛行した頃からピクちゃんは目が覚めてきたのか、頭の上で楽しげに鼻歌を歌いながら周囲の景色を楽しみ始めたようだ。
「フ~フフフン、フ~フフフン……」
初めのうちは微かに聞えるだけだったのだが、だんだん気分が乗ってきたのか全身でリズムを取って適当に歌詞を当てながら歌い始めるピクちゃん。
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「ああ異世界、そう異世界、だが異世界、でも異世界。あれも、これも、あそこも、ここも。彼の憧れ、彼女も夢見る。誰もが大好き、みんなの異世界」
「迷宮イクイク、奴隷買う買う。エルフ、獣人、ドワーフ、魔族。面倒事にわざわざ関わり、頼んでないのに正義の味方。これぞ異世界、だから異世界」
「姫騎士助ける、俺の異世界。王子が求婚、私の異世界。ギルドで絡まれ俺TUEEE。貴族に絡まれ私SUGEEE。テンプレ展開お約束。彼と彼女のご都合異世界」
作詞:ピクえっくす
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――グハッ!!
俺の事ではない筈なのに何故か吐血しそうなほどのダメージを受ける。
こっ恥ずかしくなって赤面し思わず両手で顔を覆うと、頭をペシペシ叩かれて注意されてしまった。
「あるじ~、ちゃんと前を見て飛んで下さーい」
容赦の無いピクちゃんのアカペラを聴いたりお喋りしながら四時間程進むと、左斜め前方に巨大な湖が視えてきた。右手にはずっと山脈が続いていて、後は見渡す限りの大森林で秘境って言葉がピッタリだ。
「おおっ、なんか良さげな場所が視えて来たね。湖の畔にマーカーをセットしたら、異界門を開いて一度ホームに戻ってシンジュちゃんにお土産持っていこうか」
「わーい。シンジュちゃんに何をお土産に持っていくの~」
「ピクちゃんが狩ってきたドラゴンの魔石と竜核だよ。魔石の方は無駄にデカイから不純物を取り除いてピクちゃんの魔力で圧縮処理すれば、シンジュちゃんも喜ぶだろうしね」
その後三十分程移動して湖から見て北側へ約100メートル離れたあたりに場所を決る。
少し切り開いてからマーカーをセットして、VRMMO時に使っていたキャンプ用簡易ログハウスを設置して、結界を起動すればお手軽別荘の完成だ。
「ピクちゃん、ログハウスがセット完了したから、中に入ってキッチンの冷蔵庫に有る、異世界でお馴染みのプリンを食べてきて良いよー。俺の方はドラゴンの魔石を処理しているから、食べ終わって戻ってきたら手伝ってね」
「やったー、いってきま~ただいま!」
――はえーよ!
「お、おかえり。ちょっとまってね、今精製しちゃうから」
「ピクもやるー」
「んじゃ、二人で圧縮も同時にやっちゃおう」
「「精製! 圧縮!」」
直径1メートル程だった魔石は精製で70センチ程のバランスボール位になり、元の色がステンドグラスで使われているような透明度の低い赤だったのが、澄み切った染み一つ無い透明度の高い赤に変化した。
次に、圧縮処理していると魔石がサッカーボール位のサイズになった頃に、アイテムボックス作業領域内の竜核が突然反応してステータスが変化したので出してみると、竜核が光を帯びはじめている。
「ほらほら、ピクちゃん。チョット見てみ」
「あ~、なんか少し光ってるね~」
魔石と竜核を並べて観察していると、磁石の様に二つが引き寄せ合い引っ付いた。
「おおっと、なんかくっ付いた。んんん……コレってもしかしたら二つを融合させられるかも。試しにピクちゃんやってみる?」
「やる~、融合っ! 混合っ! 合成!」
ピクちゃんが、融合系の魔法をガンガン重ね掛けしていくと、混ざり合う速度が徐々に加速していき、溶け合う様に、侵食し合う様に、吸収し合う様に、二つが一つになっていく。なのに体積が増えない謎現象。気にしたら負けだな、うん。
「お見事ピクちゃん、完璧だよ。さあ、仕上げといきましょうか」
「あいあいさ~」
竜核が融合した事によって、また少し透明度が下がったが、ピクちゃんと二人で精製と圧縮を繰り返し仕上げていく。
「「精製! 圧縮!」」
今まではグングン圧縮されていたのに、大きさがソフトボール位になった頃、ピタリと変化しなくなったそれは、直径10センチ弱で真っ赤な筈なのに物凄い透明度で、球形な筈なのに薄い赤セロファンを透かして視たように向こう側が遠方まで見通せる、物凄くヤバ目な物が出来上がった。
「うわぁ、良いのかコレ……」
「あるじっ、これ凄っ!! もの凄い存在力と密度だよ」
「うん、ちょっと待っててピクちゃん。今すぐ解析してみる」
「はいは~い」
緋心威石:膨大な力を内包する秘赤石。
力のある存在が滅びを迎え再生が行われる時に僅かに残る残滓と謂われているが定かではない。
過去その存在が僅かに認められた事があるが、最大の物でも直径5ミリ程であり……
※おまいらっ!! 何してくれちゃ&%$#――
最後の方に変な台詞が有った様な気もするが、スッっと目を逸らし見なかった事にしてサッっとウィンドを閉じた。
「やったね! ピクちゃん。稀代の錬金術師」
「えへへ~イッパイ頑張ったもん」
「と、とにかく凄い物でシンジュちゃんのお土産に相応しい物なのは間違いないから、ピクちゃんに預けるね」
「うん、シンジュちゃん喜んでくれるかな~」
ピクちゃんは、お土産を渡すときのことを想像しているのか、ウキウキしながら緋心威石を自分専用ストレージへ仕舞った。
こちらの世界でやる事は一段落したからメインホームが在りシンジュちゃんが居る世界へ異界門で移動しようかと思っていると、ある質問をピクちゃんがしてきた。
「あるじあるじ~、解析の魔法使う時は無詠唱で見るだけなのに、飛行とか精製とか圧縮とかの時は魔法名をカタカナで言うのは何で?」
「ウッ、え~っと、例えばピクちゃんの横に居る俺が、何の脈絡もなく突然ギャハハハッって笑い出したらビックリするし気持ち悪いでしょ? なので、今から何かをしますよーって合図的な意味合いでの一言だね。カタカナなのは……まあ、麻疹のようなものだから、察して下さい」
「キャハッ、りょうか~い。じゃあじゃあ、どうしても必要って訳じゃないなら、エイッとかフンッとかヤッーとかでもいいの?」
「時と場合に拠るね。勘違いでピクちゃんトイレ頑張れみたいな状況だと――」
「――うわっ! さ・い・て・いっ!! 最っ低な例え方だよ、あるじっ。ピクは若いアイドルの女の子と一緒で排泄行為は致しませんしっ、飛ぶ時も羽音を出しませんよーーーだっ!」
「え? 羽音って、そこは拘る部分なんだ」
「ムキーーッ! もうっ、もうもうっ! 分かってないっ! 全っ然っ、分かってないよ、あるじっ!! ピクが普通に羽ばたいてブンブン羽音出しながら、あるじの耳元を飛んでいるのを想像してみてよっ」
ん~……嫌過ぎる。蚊が一匹でも無視出来ないのに、ピクちゃんサイズの生き物が常時耳元で羽音ブンブンってのは考えたくない。
「……ウザいな」
「でしょ~」
ここは思いっきりピクちゃんをヨイショして空気の読める主をアピールしておこう。
ホームに戻る前に機嫌を直しておいてもらわねば。
「ごめん! 正直スマンかった。言われる今までピクちゃんの心遣いに気付けなかったなんて、なんてダメな主だったんだ俺は。ありがとうピクちゃん」
「ムッフ~、しょうがないなぁ、えへへ~」
ピクちゃんは機嫌を直してくれたのか、再び圧し掛かり立ち肩車になり、クネクネしながらイヤンイヤンと俺の頭をペシペシ叩いている。
「じゃ、シンジュちゃんのお土産も出来たし、そろそろホームに帰ろっか。リビングの横の壁にでも異界門を仮配置するよ」
「うんっ!」
ログハウスに入リビングの東側の壁に異界門を設置すると、ピクちゃんが扉をガバッって感じで開き、扉の向こう側に声を掛ける。
「シンジュちゃん、たっだいまーー」
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「ハァ……山が消えた? どういう事でしょう」
「ハッ、取り急ぎ斥候を放ち情報収集を開始しておりますが、何分まだ何も分かっていない状態で、心苦しいのですが報告だけでもと。この建物の南側の窓からでも視認できますので一度ご確認頂きたく存じます」
突然部屋に尋ねてきた側近の言葉を聴き、半信半疑のまま首を捻りつつも一番南に位置する窓から山脈を視て見ると……
「なっ! 何なんですかあれは!? 一体どうすればあんな事に」
現実感がない……本当に無くなっている。
南北を隔てている大山脈頂上付近の一部が、パンに思いっきり大口を開けてかじり付いてむしり取ったようにスッポリと、だ。
「王城に向います。今日は――いえ、数日は戻れないかも知れないので、その積もりで準備を宜しくお願いします。あと、連絡を密にして引き続き情報収集もお願いしますね」
フゥ~……柄じゃないのよね。嗚呼、誰か代わってくれないかなぁ、聖女……




