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チュインチュイン


「そういえば、あるじ、王女ちゃんに口止めとかしなくてよかったの?」


「なんか今更って感じだし、いいかなって」


 そうピクちゃんに言いつつ4人を見る。


「まあ、あるじもピクも普通に話しちゃってるしね」


「それに、王女ちゃんは自分が誘拐されたとか、もうどうでもよくって、アイテムバックのチーズケーキに意識が行っちゃってたから」


「あははっ、そうかも」


「一応、縛りみたいな術も用意してはあったんだよ。でも、よく考えたら大っぴらに言うこっちゃないけど、隠すのに必死になるほどでもないしね」


「ふ~ん。あるじはちなみにどんな縛りを考えてたの?」


「秘密を守らせるためにギアスで制限か契約魔法で縛り、しかし本人の意思により破ることが可能なゆるい強制力とし、だが破ればおそろしい(わざわい)たる(のろい)がその身にふりかかるそれは、死をもってしても解除できない(きん)呪詛(じゅそ)である、みたいな?」


「故意に破ることができるってところに、物凄い悪意と戦慄(せんりつ)を感じるけど、呪いの内容はどういうのにしたの?」


「男性バージョン、女性バージョン、男女こどもバージョンの3つを考えてたかな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【男性バージョン】

禿()げます。言い訳や言い逃れできないように河童ハゲになります。カツラのたぐいを強制排除する呪いもちです」


【女性バージョン】

「おっぱいがなくなり胸板になります。その分の脂肪は腹へと蓄積されていきます。偽乳のたぐいを強制撤去する呪いもちです」


【こどもバージョン】

「おねしょが止まりません。眠った途端にたれ流しです。オムツのたぐいを浸透し横から()()れる呪いもちです」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「こんな(ふう)でどうでしょう」


「ヒィッー! なっ、なんて恐ろしい呪詛を……特に女バージョンなんて即死級じゃないのよ! あるじ」


 21歳・17歳・15歳の上3人はガバッと胸をかき抱き、下13歳ちゃんはお股をバッっと押さえる。

 おお~、この世界で少女と女性の年齢による意識の違いと境界線が一目でわかる見事なリアクションの分かれかただな。


「いや、だから大丈夫だって、使わないから。王女ちゃんもそのまま帰したでしょ」


「ビックリしたよ~、あるじ」


 ピクちゃんが女性陣にネ~っと笑いながら声を掛けると、4人も安心したらしくフゥ~と息を吐いてた。


「多分だけどさ、王女ちゃんは俺のことをチーズケーキの人、ピクちゃんをチーズケーキの妖精さん、4人をチーズケーキ仲間みたいな感じでしか覚えてないよ、きっと」


「ああ~、なるほど、そうだね。確かに記憶が飛ぶわ、あのチーズケーキ」


 ほかの女性陣も全員うんうんと頷いていて、13歳ちゃんが美味しかったもんねえ~っと言えば、21歳ちゃんは下腹をさすりながらチョット食べすぎちゃったかもと言い、17歳と15歳の2人も下腹を押さえながら、食べるのがとまらなかったよ~って顔を見あわせ笑いあっている。

 俺は年上の3人が無意識に下腹部に手をやるしぐさを目にしたそのとき、正にそのとき天恵がごとく頭のなかに、もう本当にキュピッーーン! みたいに効果音つきでひらめいた。


「それはそうと、ピクちゃん。異世界で便利に使っている探索や鑑定だけど、この探知検知系能力の本質である波や魔力の使い方や見方を変え応用する事によって、擬似的に透視・透過視能力を手に入れることが出来るんだ」


「ナ、ナンダッテ~って、なによ突然? それって、あるじが海女さんゴーレムに積もうかなって言っていたヤツだよね」


「そうそう、術の波形を振動・魔力・光波を組み合わせた波形を反響させ使い、現代医学でのエコーで体内を透過視するようなイメージと、透視対象の色による光の反射と吸収を感知しカラーイメージを脳内補完する事によって可視化し、あたかも自身の目によって隠れている対象を透視して見ているかの如く映像として捉え、実物と全く差異の無い色彩と造型を認知する事の出来る魔術だ」


「おお~、お?」


 なんか突然、もの凄い勢いで訳わかんないこと喋りだした~的な目で、4人もこちらを見ている。


「どう? ピクちゃん。こんな感じの設定で」


「うっわ、設定とか言っちゃってるし。なんかもっともらしい説明で納得しかけていたのに最後の一言で台無しだよ、あるじ」


「んふふ、期待を裏切らないでしょ」


「あるじらしいッチャらしいけど、う~ん……凄そうな気もシナイデモナイカモシレナイ、カナ?」


「クフッ、そして女性に対してチュインチュインって感じで衣服のみに擬似透視を行えば、術対象女性の完全なボディーデータを収集可能になり、これから手に入れ放題ウッハウハだ!」


 俺はこの術の為に異世界へと来たと言っても過言ではないな。

 素晴しいぞっ! 異世界サイコー。


 それにしても21歳ちゃんの冒険者って肩書きは伊達(だて)ではないようだ。

 危機察知能力と勘の鋭さには目を見張る物があるな。

 俺が何を言っているのか分からない――俺も分ってない――なりに、自身にとって危険な方向へ話が進んでいるのを感じ取って、13歳ちゃんの背後に隠れるようにしながらコチラを(うかが)っている。


「あるじっ! その魔法を使えば他の人もピクを覗けるってのっ!?」


「いや、ピクちゃんは俺がVRMMO内での合体・合成・融合ではどうしても成功させられなくて、眷属5体に分散して持たせざるを得なかった能力を、完璧な調和でその身へ全て取り込む事に成功した奇跡の存在だ」


「ムッフゥ~、それほどでもあるかな。それでそれで?」


「物理は勿論のこと魔法に対しても、防御・抵抗・耐性・阻害・反射・吸収・無効を(ゆう)し、鉄壁と言っていいほどに隙が無いから、たぶん術が通らない。ピクちゃんを透視可能なンは俺くらいかな」


「イヤンッ、もうもう、あるじのエッチ!」


「んふふ、どれどれ」


「イヤァ~ン」


「太ってやがる! 食いすぎたんグボァッ#$%@¥――ガハッ!」


「んっん~? ソノ先を口にするつもりならピクの必殺ブローが炸裂だよ、あるじっ」


「いっ、いやっ、もう炸裂してゲハッせめて繰り出す前に一言ゴブッレロレロ頂戴ガクッ……」


 ピクちゃんのキドニーブローはシャレにならん。


「まったく、スイーツ食べた直後の女の子を透視しようなんて、万死に値するよっ、あるじっ!」


「ちょ、ちょっとした冗談だったんだよ、ピクちゃん」


「フ~ン、冗談で地雷原に入ってスキップするあるじの気が知れないけどな~、ピクには」


「――ゴメンナサイ」


「そうだ! あるじっ、この術は封印します。ピクに許可無しでの使用は禁止です」


「えっ!? ええっーーー!! そそそ、それは……」


「きっ・んっ・しっ・でっ・すっ。良いですね?」


「ううぅ……ハイ」


「たまにピクがあるじのチートチェックしとかないと、何開発してるか分ったもんじゃないよ、まったくね~」


 うわっ、ピクちゃんが女性陣を味方に引き入れようとしてる。

 孤立無援となる前に、なんとか上手い言い訳をしなくてわ。


「いや、ピクちゃん。俺的には開発なんて大仰(おおぎょう)なもんじゃなくて“出来そうだ・やってみた・出来ちゃった”程度の事なんだって」


「なお悪いわっ! あるじったら油断も隙も無いんだから」


「ええーーー!?」


「えー、じゃありません。大体、あるじの元居た世界での透視能力って、スケルトン骸骨か人体模型が表示されるってのが定番でしょうに、無駄にハイスペックなんだから」


 もうなんか取り付く島もないので、片付けでも始めるか。


 明日、出発前にもう一度風呂に入れるようにと、風呂場全体を魔法で時間凍結しておく。

 寝るにはまだ早い時間だが、キャンプ用テントを6人用と2人用の2張(ふたはり)出して、眠くなれば直ぐにでも寝られるように準備しておいた。

 両方とも外から見るとサイズは同じだが内部空間拡張度が違っていて、空調管理もされているマジックテントだ。

 こんなのテントじゃねぇーって? うん、俺もそう思う。

 使う機会があるかは分らないが、もっと大人数用にバンガロータイプなんかもあるな。


 通常必要であろう交代での見張りも結界だけで十分なので、ピクちゃんを含めた女性陣5人は6人用テントに全員で入りパジャマパーティーだ。


「ピクちゃん。軽い飲み物とかフルーツがボックスに入ってるから出してあげてね」


「はーい」


「あんまり食べ過ぎると、チュインチュインってしちゃうぞー」


「大丈夫ですよ~っだ」


 キャハハッっと笑って、手を振りながらテントに入っていくピクちゃんを見送って、俺も2人用テントに入り、中でディメンションルームを開いて、眠くなるまで暇つぶしに何か創ることにする。


 しばらく作業していると思ったより早くピクちゃんが戻ってきたのでどうしたのか聞くと、なるほど、向こうには13歳ちゃんも居て早々に船漕ぎ出したのでお開きにして引き上げてきたらしい。


「あるじあるじ~、今忙しいの?」


「んあ? 全然だよ。俺らも、もう寝るかい」


「ううん、ピクがみんなから聞いてきたのを、あるじに教えてあげようと思って」


「おっと、そうか。それと、ありがとね、うまく女性陣のケアをしてくれて」


「まあね。彼女達は捕まってから日が浅かったのが不幸中の幸いだったよ」


「そっか。なんにしても後は彼女達次第だな」


「うん、そうだね~。じゃあ、ピクあっちで待ってるから片付けたらきてね」


「うん。直ぐ行くから」


 その後、ピクちゃんが眠くなるまで冒険者の21歳ちゃん中心で、他の子達から聞いた事も簡単に教えてもらった。


 それによると、山脈のこちら側は大陸南部と呼ばれて、南東部には幾つかの小国がひしめき合い、王女ちゃんの国もその内のどれか。


 稀人はソコソコ来訪しているらしいが、今現在この大陸南部には居ない。


 山脈を越えた向こう側の大陸北部には、3つの大国が在る。


 通貨(流通貨幣)は大陸共通で、貨幣の種類と枚数、それと単純に数字で1・10・100・1000~――と表現されて、通貨単位では呼ばない。


 貨幣の種類と、その単位はこれになる。


「閃貨・1億」

「白金貨・1000万」

「金貨・100万」

「銀貨・10万」

「小銀貨・1万」

「銅貨・1000」

「小銅貨・100」

「陶貨・10」

「小陶貨・1」


 例を挙げれば“金貨9枚銀貨9枚=990万”と勘定され、異世界人でも簡単な加減乗除(かげんじょうじょ)はできる。


 余談だが、稀人の一部が通貨単位を強引に創ろうとして1円(1マル)と呼び、1円(1マル)1円(1えん)に設定して広めようとしたが失敗したらしい。


 やめてくれよ日本人の先輩方、恥ずかしすぎるって。


 大陸南西部へ広がる森林は地域によって呼び名が違うが大樹海・大森林で(おおむ)ね通じる。


 森林は外縁部、聖域、それより奥は魔の森・深淵・奈落とか物騒な呼ばれ方をされてるらしい。


 俺等が今居るこの洞穴は聖域との境界線上辺りで、一般人が入っていけるギリギリの位置。


 聖域なんて言えば聞こえは良いが、その(じつ)アンタッチャブルで臭い物に蓋をしたってのが真相だった。


 その昔、南部は一つの大国と幾つかの小国、西側(にしがわ)三分の一が大森林という形だった。

 節度を持って森の恵みを受けておけばよかった物を、その大国が欲をかき森林開発に着手したことによる、魔獣達の大規模スタンピードとレッドドラゴン来襲という手痛いしっぺ返しを喰らい滅亡したらしい。

 その大国跡地もかなりの範囲が森に呑まれて、南部での人類が安全を確保できる生活圏は三分の二から半分にまで減少してしまう。


「あれれ、もしかして俺とピクちゃんで食べちゃったトカゲかな?」


「そうかも」


「じゃあ、あっちの女性陣も共犯だな。サンドイッチに挟んであったハムとか、ミニハンバーグの挽き肉とかがそうだもん」


「あるじ、冒険者のおねえさんが聞いたら、ひっくりかえるね。むふふ」


「PTSD――心的外傷後ストレス障害――で肉を食べるたびにぶっ倒れかねないから、やめとこうかピクちゃん」


「キャハハハッ」


 まあ、これは冗談でこの世界にレッドドラゴンが1匹しか居ないなんて事はないだろうから別の固体だろう。

 その後しばらくダラダラと雑談していたが、ピクちゃんがムニャムニャしだしたので仕舞いにしておく。


「んじゃ、そろそろ俺等も寝よっか」


「うん、寝る~、おやすみなさ~い」


 ◆

 ◆

 ◆


 第二王女誘拐に端を発する、大陸南部のクシャミと後世(こうせい)の歴史家達に揶揄(やゆ)される騒乱と紛争。


 王女が国王の前に突然現れた翌日、隣国2国に対して一方的に宣戦布告を行った怒れる獅子は、自国の首魁(しゅかい)貴族とその一族、そして派に連なる物たちを瞬時に掃討して、間髪入れず隣接した隣国共犯貴族2家の領地へ、自国軍の8割を雪崩(なだ)れ込ませて、平然と二正面(にしょうめん)作戦を取り制圧するという、はたから見れば気が触れたとしか思えないような暴挙に出た。


 当日(とうじつ)の国内警備は冒険者ギルドへ依頼されていて、受けたギルド側もまさか国内の兵士が空になるなどとは思っておらず、情報が集まり事が明るみに出るにつれ、ギルド長を初めとした幹部や職員たちも大騒ぎとなっていくのだが、隣国敵対貴族2家を制圧して身柄を拘束し終えた国軍が、日が暮れる前に帰還する姿を見るに当たり、まるで狐につままれたようだと、聖典の言葉を流用して表現したという。


 敵対貴族の属する隣国に対して、使役獣にてもたらされた書状のみでの宣戦布告だったが、内容は苛烈そのもので、簡略すると――


 ・我が国第二王女誘拐に、国として関わりが無いのなら手を出すな。

 ・こちらは証拠を押さえている。

 ・ゴミクズを拘束し抵抗者を殲滅の(おり)、即座に自国へ撤退し改めて貴国と会談を開く用意がある。

 ・異論がある場合、殲滅対象の貴族が関わっていないという証拠を、其方(そちら)が用意して無実を証明して見せろ。


 ――と、大筋このような内容だったようだ。


 周辺諸国への情報公開も、ギルドネットワークや独自ルートをフルに活かして、敵対2国に(さき)んじて済ませ、捏造(ねつぞう)や操作の余地を一切与えない徹底ぶりで、これがあの愚鈍なる王なのかと各国の盟主たちを驚かせ(うな)らせた。


 対象とされた貴族が属する2国は、誘拐への積極的な同調はしていなかったが、全くの埒外(らちがい)とはいかないので、各ケースによる対処方法は考えられていたのだが、あまりの侵攻と撤収の速さに加え情報戦の機先をも制され事を起こすにも遅きに失して、形ばかりの抗議を行い(ほこ)を収めるほかなかった。


 対外的にも有効な政治対策を行えなかった事により、期せずして王女誘拐関与を認めたと取られて、これ以降この2国は、(こと)あるごとに誘拐の件を持ち出され、周辺国への政治影響力を急速に失い衰退していくことになる。


 当然、漁夫の利を得ようと考える国は存在したが、放っていた密偵から報告書は、どの国にも総じて似たような内容の物が届く。


 動くべからず。かの王、疾風迅雷也(しっぷうじんらいなり)――


 周辺諸国から暗君・脳筋王と(あなど)られて、箸にも棒にも掛からないと(わら)われていた男だったが、こと(たたか)いに()いては無類(むるい)の感性と嗅覚を持ち、世が世(よがよ)なら英雄王・覇王とも呼ばれておかしくない資質を備えていた。


 その、眠れる獅子の尾をフンづぶ()し、鼻っ面を蹴り飛ばして叩き起こしたが為に、ここ十数年の間は微妙に保たれていた大陸南部小国郡の軍事バランスが徐々に崩れていき、近い将来南部統一戦争へと発展していくなどと、この時点で予測しえた者は……


 ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。

 活動報告にも書きましたが改稿をさせていただくため、更新が一時ストップします。

 もうしわけありません。

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